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EP9 ていうか、強盗特急?

「「「ありがとうございました、さーっ!」」」


 ……最後のさーっ! の意味がわからん。とりあえず武装宿泊所を出た私達は、大きなため息をついた。


「……サーチ、武装宿泊所の意味が間違ってません?」


 そんな気がする。どう考えてもおかしいのだ。


「……どうやら武装して警備を強化した宿泊所ではなく、武装が大好きなミリタリーマニアが作った宿泊所だったみたいね……」


 どうりで意味もなく軍隊言葉が連発されてたわけだ。


「それにしても胸焼けが……うぇっぷと思われ」

「まさか朝から肉料理、しかも骨付き……」


 某魔物狩りゲームで「上手に焼けました〜」って、あれ。


「一体何の肉でしたの? 血生臭くて食えたモノではありませんでしたわ」


 全員残してしまい、ブーメランパンツのコックさんに怒られました。


「フルーツがあるのが救いかと思えば、どれもこれも渋かったり固かったり……私達が普段食べているモノではありませんでした」


「あれね、たぶん天然の果物。森に生えてるヤツをそのまま出したんだわ」


 果物は種類によって極端に味が変わる。柿に甘いのと渋いのがあるのがいい例だ。つまり、野生の果物が全て甘くて美味しいわけではない、ということ。


「そんなことではサバイバルは生き残れませんぞ!」


 そう言ってブーメランパンツには怒られました。ていうか、私達は元の世界でほぼ毎日野営してましたから! あんたみたいに趣味でサバイバルやってるヤツと経験が違いすぎますから!


「それに……サバイバルナイフをフォークの代わりにして食べるって、正直食べにくいだけですから!」


 全員頷く。口を切ったヴィーとナイアはさらに深く頷いた。



 途中で胃薬を買って飲んでから、東マージニアの主要な都市を繋いでいる鉄道に乗り込んだ。


「ああ、トレーニングマシンがありませんわ! 日焼けマッチョが居ませんわ!」


 ようやくまともな光景……ていうか、普通の世界を実感し、ナイアは涙目になった。


「ナイア、そんなに嬉しいの?」


「もう『がんほー』と『さーっ』は嫌ですわ」


 完全にトラウマになっちゃったわね……。



 それから半月の間、前の駅で電車が故障した以外は、旅は順調だった。火星最大の国とは言え、やっぱりまだ発展途上の国。人が住んでいる場所の少なさを実感した。


「やっぱり住める土地が限られてるのもあって、田舎町は皆無ね」


「逆に人がギュウギュウに集まってますもんね」


 浄化された土地が少ないこともあって、果物や野菜はほぼ工場での生産なんだそうだ。森林があるのは東マージニアの首都から北の辺りと、あとはポツポツとある程度。


「あの武装宿泊所の天然果物、一応貴重品だったのね」


 だからあんなに高かったのか、宿泊代。もっと違うことに費用回せっつーの。


「何はともあれ、おかげで人探しはしやすいわ」


 各都市ごとに捜索願を出し、キュアガーディアンズ支所があれば協力を要請する。これだけでもかなりカバーできる。


「ブラッド・マーズ・ファミリーが襲ってくる事も無くなりましたね」


「まーね。流石に懲りたんでしょうよ」


 最初とその次の都市では、街をブラついているときに襲撃された。で、こてんぱんにしてやったのだ。完膚無きまでに。容赦なく。虫の一匹も残らないまでに。


「最後のヤツなんか『お母ちゃーーん!!』とか言いながら泣いてたもんね」

「あれはサーチが怖すぎたんですよ」

「いやいや、ナイアの迫力には負けるわ」

「リジーの呪いオーラに当てられたんですわ」

「ヴィー姉の圧倒的な眼力によるモノと思われ」

『いやいや、妾の威光にひれ伏したのじゃよ』

「「「「それはない」」」」

『酷いのぅ!』


 電車に揺られてキャピキャピしてる私達を、薄暗い視線が睨んでいることに、私だけが気づいていた。



 私とマーシャン、残りの三人で二つの個室に分かれて寝ている。


『くか〜……』


 アンドロイドなのにイビキをかくのか、とため息をついていると。


 カタッ


 ん?


 カタッカタカタッ


 ……隣の部屋。ヴィー達の部屋ね。


 キィィィ〜……


 ドアを開ける音がしたので、気になって通路に行ってみる。


 カタッ


 ……ヴィー達じゃない。だいたい、ヴィー達はあんなに足音は大きくない。あれは男性の……。


「まさか……寝込みを襲うつもり?」


 ≪気配遮断≫を起動させ、音もなく通路に出た。


 カタッガタタッ


 リジーのベッドの前で何かしている男の背後に回り。


 ぐいっ

「むっ! むぐっ」

 ごきっ ばきゃ!

「っ……」

 ドサッ


 首の骨を捻り折る。


「……サーチですか?」


「ヴィー、気づいてたの?」


「流石に寝込みを襲われれば……」


 背後を見ると、サイ・ハンマーを構えたナイアもいた。


「……余計なお世話だったかな?」


「いえ、この状態でも目覚めていない者もいますから」


「すぴー」


 リジーだけは幸せそうに寝ていた。


「私と同じ部屋の誰かさんも、ぐーすかイビキを……」

『誰が鼾をかいておる。ほれ』

 ドサドサッ


 うわさをすれば何とやら、マーシャンが現れた。数人の男を放り投げてくる。


『妾達の荷物に爆弾を入れようとしておったわ。夜通し見張っておいて正解じゃったよ』


「あれ、それじゃマーシャンも気づいてたの? 前の駅から私達を監視してる連中がいたの」


『じゃから狸寝入りしていたのじゃよ。其方等も気付いていたから、フル装備で寝ていたのじゃろ?』


 私は下着姿でブレード装備。けどリジーとナイアはフル装備だ。


「……なーんだ。一番警戒心が薄かったのは、私だったのか」


「サーチの場合はビキニアーマーでも下着姿でもそんなに変わりませんよ」


「というより、用心していたから下着姿ですのね?」


 まーね。普段なら裸族だし。


「……ねえ、この男達の一人、この電車の車掌じゃない?」


 マーシャンが倒した男の一人は、昼間に車内を行き来していた車掌だ。


「本来の車掌ですの?」


 服を探ってみたけど何も持っていなかった。


「正規の車掌じゃないわね。たぶん、プロの殺し屋」


「なら、この電車の乗組員は……」


 全員敵の可能性が高い。


「前の駅で乗り換えがあったのは、ワタクシ達を始末する為ですの?」


 前の駅で全員が別の電車に乗り換えさせられたときから、イヤな予感はしてたんだけど……。


「……ちょっと待って。全員敵? てことは……」


 さっきからこの電車、異様にスピードが上がってるような……まさか!?


「だ、脱線させて私達を道連れにする気!?」


 気づいたときには電車は傾き始めていた。

今度は暴走特急。

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