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EP8 ていうか、がんほーがんほー?

「あは♪ めちゃくちゃ気前のいい署長さんだったわね♪」


 次の日、寝ていたマーシャンを叩き起こして再び警察に出向き、ようやく捜索願を出すことができた。その際に警察側から昨日の件の報酬額を提示されたんだけど、いやはや、公僕だと思ってナメてました。まさかこんなにくれるとは♪ 一発OKだったわよ♪


『それはそうじゃろ。まさか一日で火星最大の犯罪組織の幹部を軒並み消せたんじゃからの』


「そういえばマーシャンは昨日何してたの? 途中まで一緒だったよね?」


 マーシャンは無言でネット新聞を私に見せた。


『これの一面じゃ』


 え? えーっと……白昼の大捕物、火星の夜明け団の団長逮捕?


『別方向に逃げた妾は、ちょうどテロを起こそうとしていた其奴等に遭遇しての』


 成り行きで一人ブッ飛ばしてしまったマーシャンは、成り行きで残りのテロリストも張り倒し、成り行きで火星の夜明け団本部を急襲。そのまま壊滅へと追い込んだ……らしい。


「成り行き成り行きって、成り行きでテロリストを壊滅させるって……」

『其方らも喧嘩の延長で犯罪組織を半壊させたじゃろうが』


 ま、それだけのことをすれば、この額の報酬も当たり前か。


「さて、当面の間の資金繰りにも目処が立ったし……」


 何気なくマーシャンに話を振る。


「ズバリ火星での鍵は、ブラッド・マーズ・ファミリーね?」


『そうじゃよ』


 あ、あれ? アッサリと認めた?


『サーシャがブラッド・マーズ・ファミリーに関わっていた痕跡は確認しておる。じゃが奴等の本部のデータだけでは追跡に限界があっての』


「わざわざデータを調べるくらいなら、最初から火星に来てた方が早かったんじゃね?」


『その当時の妾は船だったじゃろが』


 あ、そうでした。


『今は身体を手に入れた故に、こうやって現地調査ができるんじゃがの』


「ていうか、あんだけ言い渋ってた割に、アッサリとゲロったわね」


『それはそうじゃ、其方と一対一の時じゃないと話せんわい』


「へ? 何で?」


『む? 其方、気付いておらぬのか?』


「?? 何が?」


『…………いや、何でもない。気付いておらぬならそれで良い』


「な、何よ、引っ掛かるわね。ハッキリと言いなさいよ」


『いや、今はその時ではないのじゃろ。忘れてくれ』


 そう言ってガシャガシャと先を行くマーシャン。い、一体何だってのよ!?



 結局この件はマーシャンによってウヤムヤにされてしまった。ホントに何だってのよ……。



 マーシャンを荷物持ちにして買い物を済ませると、簡易宿泊所に戻る頃には夕方になっていた。待っていたヴィー達と夕ご飯を済ませて、今後のことを話す。


「……ていうわけで、まずはブラッド・マーズ・ファミリーに探りを入れます」


「ブラッド・マーズ・ファミリーに……ですか。下手したらブラッディーロアが動き出すかもしれませんよ?」


「そうなったらそうなったとき。どうせ今回の件でブラッド・マーズ・ファミリーには目をつけられちゃったでしょうから、そうなるのも時間の問題だし」


 幹部の大半を失ったんだから、面目丸潰れどころじゃないからね。


「それに……こういう人がいるくらいだから!」

 グシュ!

「ぐはあ!」


 突然壁に空想刃(エアブレード)を突き刺したことにビックリしたヴィーは、壁に広がる血に目を見張る。


「ま、まさか、もう!?」


「敵の動きは予想以上に早いみたいね。ガーディアンズ支所か警察にスパイでもいるかな」


 空想刃(エアブレード)を引き抜くと、血を振り払う。


「……簡易宿泊所(ここ)ともおさらばね」



 受付に事情を話し、壁の中の死体の処理も頼む。


「……キュアガーディアンズも舐められたモノですね。今後はスパイ・侵入者にも目を光らせないといけません」


「いやいや、常日頃から光らせないとダメなんですけど」


「そうですね、てへっ」


「……あんたのそのテヘペロがキュアガーディアンズの公式見解なのね?」


「あああ、違います! 違いますからね!」


 一応迷惑料を置いていこうとしたんだけど「〝闇撫〟からはいただけません」とのことだった。ちなみにあの簡易宿泊所、人が死んだのは一度や二度ではないので、今回の件は全く無問題、とのこと。みんなには言わない方がいいわね……。



「少し高いけど武装宿泊所に泊まるわよ」


「ぶ、武装宿泊所?」


「セキュリティ万全のセレブ向けホテル。この時間からだと移動もままならないから仕方ないわ」


 時間は夜の七時。電車はあるけど、そんな閉鎖空間で襲われたら目も当てられない。


「なら……仕方ないですわね。費用は大丈夫なんですの?」


「もち。報酬はケタ違いだったから」


「そうなの!?」


「……リジー、そんな嬉しそうな声出したって、もうエステ禁止だからね?」


「わ、わかってると思われ……」


 めっちゃ残念そうだな。今度からは自腹でお願いします。


「……て言ってるうちに着いたわ。ここが武装宿泊所……よ……」


 ……ていうか、ホントに宿泊所? 軍の施設じゃなくて? 受付に日焼けマッチョがいたので聞いてみる。


「あ、あの、部屋に空きは……」


「いえっさー!」


 いや、何がいえっさーなの?


「いえす、まむ! がんほーがんほー……」


 おいおい、どこに行くんだよ! 空きがあるかって聞いてんだよ!


「…………がんほー、がんほー、がんほおおおおお」


 っるさい!


「部屋は空いております。どうぞ」


 普通にしゃべれるんなら普通にしゃべれよ!


「サ、サーチ、このホテルは止めた方がいいのでは?」


「そ、そうは言っても……もう案内されちゃったし……」


 仕方なく日焼けマッチョに付いていく。


「……ひ、日焼けマッチョしかいない……」

「しかもタンクトップ……」

「火星って平均気温低いはずじゃ……」


 しまった、ヴィーの忠告を聞き入れるべきだったか。


「ご夕食はお済みですか?」


「え、はい、食べ……ひゃう!?」


 こ、今度はコック帽つけた日焼けマッチョ、しかもブーメランパンツのみ!


「あ、いえ、その……」


「まだでしたら準備致しますが?」


 口調は丁寧な紳士なのに。見た目が、見た目が……。


「な、なら軽いモノをお願いしますわ!」


 視線を反らしながらナイアが答えると、一礼して下がっていった。


「あ、あれは……ヤバいわ……」


 全員頷いて、同時にため息をついた。



 その後、何故かトレーニングマシンだらけの部屋に通されてドン引きしている私達の前に「軽食」が届けられた。


「ていうか、軽食でステーキ?」

「いや、ステーキじゃなくて何かの丸焼き?」

「それ以上にナイフやフォークじゃなくサバイバルナイフ?」


 ……こういうのをムダ遣いって言うんだな。

がんほーがんほー。

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