EP7 ていうか、今度こそ捜索願を!
片づけたブラッド・マーズ・ファミリーの下っ端の討伐証明部位を袋に詰め込む。のたうち回るヒャハ男を放置して、再び警察署を目指して歩き出した。
何となく振り返ってみると、バタバタと動く足が見える。がんばれよー、運が良ければ助かるから。
「ていうか、警察署着くまでにどんだけかかってんのよ、私達……」
「サーチ、もしかしてこの道はこれを示しているのでは?」
「へ? ……あ、ホントだ。これって道だったんだ」
それからも散々迷い、ウロウロすること三十分。ようやくナビが示していた道を発見し、路地裏に入る。ていうか、このナビ危険な道を示してばっかね。
「ねえ、路地裏に入るって事は、再び危険な……」
リジーの言葉が終わるより先に、新手のヒャハ男達が現れる。
「おうおう姉ちゃん達よ、命が惜しければ……」
ため息をついてから、手甲剣を作り出した。
さらに増えた討伐証明部位を袋に詰め込み、路地裏を駆け足気味で進む。もうこれ以上騒動に巻き込まれるのはゴメンだ。
「早く戻ってシャワーを浴びたいわ」
「結構汗かいてしまいましたしね」
胸元をパタパタするヴィーの案内で、ようやく路地裏を抜ける。すると人通りの多い場所に出た。
「どうやら青空市みたいね。ヴィー、現在地と合ってる?」
「待ってください…………ええ、イベント欄に記載されていますから間違いありません。この通りの二つ隣の通りに警察署があります」
二つ隣!? ていうことは……!
「また路地裏を抜けていくコースじゃないでしょうね!?」
「…………ナビの指示通りに行くなら……おそらく」
……もう一回ため息をついた。
賑やかな青空市を横切って、再び薄汚い路地裏へ。
「絡まれても無視よ、無視」
「それよりも、そのナビはおかしいんじゃありませんの?」
ナイアの言うことはごもっともなんだけど、アプリがここまで異常を起こすモノなのだろうか。
「ちょっと設定調べてみる…………は、はあ? 危険ルート優先?? 何でこんなルートがあるのよ……」
ルートを「安全第一」に直していると。
「……あーあ、サーチ姉、そこの角に……」
リジーが言い終わるより先に、再びヒャハ男達が現れる。
「へっへっへ、お嬢ちゃん。俺達とイイコトしないかい?」
……さらにさらに深〜いため息をつくハメになった。
「何をため息ついてぶべっ!?」
先頭のヒャハ男をケンカキックで蹴倒してから、再び手甲剣を作り出す。
「五分で片づけるわ!」
……さらに増えた討伐証明部位を袋に詰め込む。
「流石に血の匂いが染み付いてますわね」
クンクン……あ、ホントだ。やだぁ。
「頑張りましょう。この路地裏を越えれば、次の通りが見えます!」
……この坂を越えればってか? まだ海だったら元気も出るんだけど。
「ヒャハハ、お嬢ちゃん、どこ行くのー?」
「俺達と遊ばない? ヒャハハ」
……火星の住民の半分はヒャハ男なの?
「もう討伐証明部位はいいわよね!?」
「い、一応持っていきましょう。いいお金になるかもしれませんし」
なんねーよ! どうせ二束三文だよ!
「でも火星の場合は、大金になる事もあるみたいですよ?」
討伐証明部位で相手側の犯罪歴が見つかれば、報酬が出ることがあるのだ。それが例えば逃亡中の凶悪犯だったり、犯罪組織の幹部だったりすれば、当然金額ははね上がる。
「……どう見てもザコばっかでしょ」
犯罪組織の幹部がモヒカンでヒャッハーだったら、犯罪組織そのモノがおかしい。
「わ、わかりませんよ。今は一円でも惜しいんですから。チリもツモれば……という地球のことわざもありますし」
塵も積もれば、だよ。チリさんがツモってどうするのよ。
「わかったわ。コツコツやるわよ、コツコツ」
一攫千金なんて滅多にないから一攫千金なんだし。
あのヒャッハーを越えれば、表通りが見える。その思いを胸に進み続ける。
「ヒャッハー!」
「てい」
「ひでぶっ!」
「ヒャッハー!」
「うりゃ」
「あべしっ!」
いくつものくっだらない戦いを乗り越えて、血と汗にまみれながら歩を進め、ついに。
「で、出た、表通り……」
ざわっ
前述通りの格好で現れた私達に、一般市民の方々は当然ドン引きだ。
「…………だ、誰か警察呼んで! 私達、そこで犯罪組織の争いに巻き込まれて、命からがら逃げてきたんです!」
私がそう叫ぶと、一般市民の何人かが電話を取り出した。
「ヴィー、大丈夫!? 傷は浅いからしっかり!」
ちょこっとだけナイフで斬られたヴィーに駆け寄る。回復しようとしていたヴィーはびっくりしてこちらを見るけど、私の調子で悟ってくれたらしく。
「……う、うぅ……だ、大丈夫です……」
ムリヤリ痛そうにしてくれた。ヴィー、上手い上手い。
「も、もう駄目ですわ〜」
「わ、私も〜」
演技力に自信がないらしく、ナイアとリジーは棒読みのセリフを吐きながら倒れ込んだ。
「ナイア、リジー! だ、誰か私達を警察署まで連れてってー!」
傍観を決め込んでいた一般市民の方々も数人が動き出し、それに釣られるように沢山の人達が動き出した。
「…………犯罪組織の争いに巻き込まれた……ねえ?」
「「「「あ、あははははは……」」」」
警察署に運びこまれた私達は、とりあえず救護室で手当てを受けているのだが……全く傷のない私、かすり傷のナイアとリジー、ナイフの切り傷だけのヴィーを見て、流石に警察の人の視線も鋭くなってきた。
「で、実際は?」
「…………ケンカ売られたので、全員張り倒してきました」
「相手の怪我の程度は?」
おずおずと討伐証明部位の入った袋を取り出すと、警察の人は大きくため息を吐いた。
「……どれだけ狩ってきたかはわからないけど、一般市民にまで被害が及んでたら、あんた達も罪に問われるからね? 一応身柄は拘束させてもらう」
よし、ヤバければ逃げよう。
「身分証明書は?」
私がガーディアンズカードを差し出すと、警察の人は目を見張った。
「あ、あんた……〝闇撫〟!? 失礼しました!」
「は?」
「大変ご苦労様でした! とりあえずはお泊まりのホテルで待機していていただけますか!?」
「は、はあ……今は支所の簡易宿泊所に居ますので、そこで良ければ」
「わかりました! そちらまでお送りします!」
は、はあ……?
支所に戻って受付に聞いてみると。
「サーチさん、ご自分がどれだけの偉業を達成されたのか、自覚はお有りですか?」
ありません。
後日、警察に呼ばれて行ってみると。
「いやはや、大したモノですな! 東マージニアの幹部クラスが沢山いましたよ!」
はい?
「それに指名手配されていた凶悪犯もいました! いやいや、流石は〝闇撫〟ですな!」
はいい?
どうやら火星の犯罪者は、モヒカンでヒャッハーな人が大多数らしい……。
あ、また捜索願出し忘れた。
また出せず仕舞い。




