EP4 ていうか、電車に差がありすぎ。
ガタコーン、ガタコーン
「……誰でしたっけ、火星はとっても小さいと言っていたのは」
「……陸地に至っては海との割合が半々だから、更に小さく感じる……と言ってましたわね……」
ガタコーン、ガタコーン
「……それにしても、腰が痛いですね」
「それはそうですわ。貨車に無理矢理乗り込んでるんですから」
ガタコーン、ガタコーン
「何故こうなった原因の二人は、快適にグリーン車なのでしょうか? 被害者の私達がこうなったのでしょうか?」
「それはジャンケンに弱い誰かさんのせいですわ」
ジャキィン!
「「……へ?」」
手甲剣がキラめく。
「……さっきから言わせておけば、好き放題言ってくれるわね! そうよ、資金が大量に流出したのも私のせい! マーシャンとのジャンケンに負けたのも私のせい!」
「サ、サーチ、落ち着いてください」
「そ、そうですわ。そんな物騒なモノは仕舞ってくださいな。ね、ね?」
「…………まずはナイアから」
「へ?」
「きるゆー」
どがあ! ばきばきごんどげばごお!
「ひぎゃああああああああああああっ!」
「サーチ、落ち着いて! 落ち着いてくださぐふぉぉ!」
「うっさい! ヴィーは黙ってろ!」
めきめきめき……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「……おい、一番後ろの貨車が揺れてないか?」
「気のせいだろ」
「お、おいおい! 一番後ろの貨車、脱線して落ちていったぞ!」
「気のせいだろ」
ガラガラガラ……ズシィーーン!!
「あ、危なかった……」
「ギ、ギリギリでしたね……」
「ワ、ワタクシ達も下手したら谷底に……」
落下する貨車からギリギリで脱出した私達は、冷や汗を全身に感じていた。
「「「……争うのは止めましょう……」」」
そしてバラバラになりかけた結束が、再び結ばれた。
ホテルの宿泊代をどうにか支払った私達は、東マージニア共和国までの電車のチケットを買ったのだが……。
「一番高い最新高速電車のグリーン車が二席、普通電車の自由席が三席ですか」
「……距離が距離ですから、普通車はキツいですわね」
……金額的にこれが精一杯でした。
東マージニア共和国の首都ダエダリアまでは、最新の高速電車で丸一日。普通電車だと二日はかかる。最新電車のグリーン車ともなれば、正直お高い。
「サーチ、今回の件は私とナイアにグリーン車を譲ってくれればチャラにしますよ」
……ま、こういう事情もあったから、やむを得ないのだ。
「わかってる、今回は迷惑かけたから『ちょーっと待つのじゃ!』……はい?」
いきなり割り込んでくるマーシャン。
『何故妾が普通電車の自由席なのじゃ! 妾はサーチに八階から落とされた被害者にすぎんのじゃぞ!』
うっ。
『しかもサーチとリジーの弁償行脚に付き合わされて……この上自由席とはあんまりじゃ!』
う、うう……。
「そうだそうだ、あんまりだ」
「リジーは黙ってなさい!」
……結局ヴィーとマーシャンの主張は平行線を辿り……。
「サーチ、もうすぐ高速電車の出発時間ですわ」
ぐあっ! し、仕方ない!
「こうなったらジャンケンで決めるわ! 文句無しの一回勝負よ!」
「ならサーチ、私達の分をお願いします」
へ? な、何で私?
「……私、ジャンケンは弱いので……」
「ワ、ワタクシも……」
……まあいいか。
「ならマーシャン側は私が」
「何でリジーが出てくるのよ!?」
『妾はジャンケンを知らぬ』
ぐあっ! ま、まさかの展開!
「サーチ、じ、時間が!」
「く、仕方ないか! 最初はグー、ジャンケ」
「ほいっ!」
「え」
「はい、サーチ姉はグー、私はパー! だから私達の勝ち!」
「ちょっと、今のはまだ」
ぱしっ!
『では切符は頂くのじゃ、サーチ!』
「サーチ姉、あでゅー!」
「ちょちょっと! マーシャンはともかく、何でリジーが!」
ぴいいいいっ!
「サーチ、普通電車も出ますわよ!」
く……! リジーのヤツ、向こうでギッタンギッタンにしてやるんだから!
結局私達は普通電車にも乗り遅れてしまい。
「へ? 払い戻しできない?」
「はい。乗り遅れたのはお客様でございますから」
……仕方なく通りかかった貨物列車に飛び乗り、一番後ろの空車に潜り込み……一番最初に至るのだ。
ガタコーン、ガタコーン
「……お腹空きましたね」
……何か食べるモノあったっけ。
「……あ、保存食ならあるわ。食べる?」
「……保存食って……干し肉に干し野菜に乾パンですよね?」
げんなりしてる。確かにお腹が空いてても食べたいモノではない。
が。
「ヴィー、火の調整は大丈夫よね?」
「へ? あ、はい。サイキックにも慣れてきましたから」
「なら火を起こしてもらえる?」
「こ、ここでですかぁ!?」
パチパチ……
「サーチ、湯もいいくらいだと思いますよ」
「ありがと」
湯に味噌を解かし、かき混ぜる。そこに細かく切った干し野菜と干し肉を順番に入れていく。
「ん〜……いい匂いですわね」
「あら、ナイアも食べるの?」
「……あれだけ吐けばお腹も空きますでしょ」
ナイアはいつも通り飛ぼうとしたものの、タルシス三山付近の気流が最悪なため、結局酔う覚悟を決めて電車に乗ったのだ。
「い、いけませんの!?」
「いーえ。全然大丈夫よ」
そういってナイアの器を取り出した。
「……サーチ、そういえばその袋は炎の真竜の胃袋ではなかったのですか?」
「そうよ」
「以前は『食べ物は入れておくと消化される』と嘆いてましたよね。今は大丈夫なのですか?」
「それがね、今の世界になってから消化されなくなったのよ」
機能を停止してしまったリジーの魔法の袋の代わりに、この炎の真竜の袋に入れるようになってたんだけど……。
「……という事は、炎の真竜はこの世界にはいらっしゃらないのでは?」
「……わかんない。けど世界そのモノがくっついちゃったんだから、どこかにはいるんだと思う」
もし真竜がいれば、いろいろと協力もしてもらえるだろう。
「旅すがら探してもいいかもね……おっと出来た出来た」
フタを取ると、いい具合に煮えていた。これぞ私特製の火星豚汁。
「栄養満点だし、あったまるわよ〜」
「うわあ、とってもいい香り」
「ほら、ヴィー、ナイア……これで許してもらえるかな?」
私のお伺いに苦笑した二人は、声を揃えて。
「「……許します!」」
……ふう、良かった。
その頃。
「お、お腹空いた……」
『まさか食事が有料じゃとは……』
一文無しでグリーン車に乗り込んだマーシャンとリジーは、快適にお腹を空かせていた。
リジーに罰が。




