EP3 ていうか、再び対策会議でどずぅん!
風呂から上がって部屋に行くと、部屋の真ん中に火星の地図を広げた。
「それでは第一回火星対策会議を始めます」
「…………あの、サーチ?」
「はい、ヴィー。何か意見でも?」
「…………何の対策ですか?」
「別に。会議名に『対策』って入ってると、それっぽく聞こえるでしょ?」
「…………はあ、そうですか……わかりました」
さて、始めますか。
「今回私達が火星に来た目的は、マーシャンの元旦那さんサーシャの手がかりを求めて、となります」
「はいサーチ、質問ですわ」
「はいナイア、何ですか?」
「何故火星からなのですの?」
「特に深い理由があるわけじゃないわ。今人間が居住しているのは地球、月、火星、水星、金星、居住型宇宙船、そして各宇宙ステーション。地球を除けば一番人口が多いのは火星だから、まずはそこから探す……それだけよ」
「な、成程。わかりましたわ」
「はいサーチ、何で地球を除外したのですか?」
「地球の現状を考えたら、サーシャがいる可能性は低い……というのがマーシャンの見解だから」
「陛下の?」
私の言葉に誘導されて、視線がマーシャンに集中する。
『うむ。我が夫の性格から考えても、平和な場所に留まっているとは思えぬ。おそらく宇宙開拓の最前線にいるのでは……というのが妾の見解じゃ』
「でも陛下、基本的に転生すると前世の記憶は引き継がれないのですよね。それでもサーシャさんが前世と似たような人格になるのですか?」
お、ヴィーの鋭いつっこみ。
『……そこは「妾の勘」としか言い様が無いの』
「……勘……ですか。つまり陛下はサーシャさんが記憶を引き継いでいる、という確信があるのですね? 確信する材料は何ですか?」
『…………ノーコメントじゃ』
ヴィーの眉がピクッと動くが……。
「……わかりました」
ヴィーは大人しく引き下がった。
「……これでハッキリしたわ。マーシャン、この火星には何かあるのね? ここで何かをすることで、サーシャ……そして≪万有法則≫へと繋がる何かが得られるのね?」
『……妾が言える事は、何もない』
「……わかったわ。どちらにしても、いつかは火星にくることにはなったんだから、これ以上マーシャンを追及しないわ」
『…………』
「さて、今後のことを話すけど……まずは捜索願の提出。東西マージニアの首都で出せば火星全体はカバーできると思う」
「そうですね、火星の人口の約六割はそこに集中してますし」
「それから各キュアガーディアンズ支所での情報収集。できれば人相書きを作って配布したいわ。マーシャン、それは可能?」
『後で書いておく』
「オッケー。なら手始めに……」
自分達がいる場所を指し示す。
「ここがタルシス三山、この斜め右にあるサクラ湾に面してるここが、私達が今いる人面山パラダイスビーチ」
そのまま指をずらしてタルシス三山を越える。
「て、ここが東マージニア共和国。このダエダリア平原って場所に人口が集中してて、アルシア山の麓にあるのが首都・ダエダリア」
「では最初に東マージニア共和国に?」
「ええ。キュアガーディアンズの情報だと、東マージニア共和国は情勢も安定してるから、比較的入りやすいし」
「西はどうなのです?」
「ん? 西マージニア国?」
私は指を一気に地図上をなぞらせる。
「ここにでっかい湖があるでしょ。これが西マージニア海で、この南にある平原が首都・ヘラス」
「湖沿いですか」
「ええ。資料によると湖底からレアメタルが大量に掘り出されてて、その前線基地がヘラスだった。それがそのまま独立しちゃったのね」
「西マージニア国の領地は?」
「この都市部分だけ。いわゆる都市国家ね」
東マージニア共和国はせっせと土地の浄化を進め、少しずつ領地を増やしているのだが、西マージニア国は一切その気配がないらしい。
「国交はあるんですの?」
「無い。ついでにキュアガーディアンズ支所も無い」
「へ?」
「西マージニア国は完全な独裁国家らしくてね……」
「それは……とても捜索願どころではありませんね」
「たぶんねぇ。独裁国家って融通が利かないから」
……とりあえず東マージニア共和国へ移動し、そこで西マージニア国の情報を集めることにした。
次の日。
「ふわあ……ホントに一日が二十四時間なんだ」
地球よりちょっと長いって聞いたけど、ほとんど実感ないわね……ん?
「マーシャン? 何をしてるの?」
ベランダに腰かけて朝日を見つめるマーシャンを見つけた。らしくもなく黄昏ていたので、≪気配遮断≫しながら近づき。
「…………わっ!」
『ひぃああああ!! う、うわわわわ!?』
あ。
『あひゃああああぁぁぁぁ……』
……どずぅん!
……ここって八階だけど……大丈夫かな?
『な、何をするのじゃ、この痴れ者が!』
「何をするって、キャラクターを無視して黄昏てるバカに鉄槌を下したのよ!」
『そんな理不尽な鉄槌があるかああ!』
私とマーシャンの低レベルな言い争いに、ヴィーが割って入る。
「落ち着いてください、二人とも。言い争っても何の解決にもなりませんよ」
「とりあえずマーシャンのレベルの低さは露呈するわ!」
『レベルが低いのはサーチじゃろが!』
かちんっ
「へ!?」『なっ!?』
「……これ以上続けるなら、足だけで済んでいる石化が全身に広がりますけど……どうなさいますか?」
「止めます」
「よろしい」
……ほっ。何とか解除してもらえた。
「陛下はどうなさいますか?」
『こ、このようなモノ、アンドロイドパワーで……!』
「反省してないのですね」
『ビ、ビクともせん…………わ、妾が悪かったのであります!』
「遅いです」
かちんっ
あらら、石像が一つ完成。
「ではサーチ、東マージニア共和国へ向かいましょう」
「え、ええ。一応鉄道が通ってるそうだから、そんなに時間はかからないわ」
「なら向かいましょう。サーチ、陛下をお願いします」
「は、はい〜……」
マーシャンを魔法の袋に収容する。
「こ、怖かった……」
流石はメドゥーサ、怒ったときの迫力はハンパない。
フロントにてチェックアウト。
「ありがとうございました」
「おいくらですか?」
「えーっと、宿泊代とエステ代を合計しまして」
…………は?
「ちょっと待って。エステ代?」
「はい。お連れ様がずっとエステに」
お連れ様って……。
「あー、さっぱり。サーチ姉、お待たせあいたたたたたた!?」
無言でリジーにコブラツイストをかけた。
「それにお客様一名が落下した際の、地面の修繕費を含めまして」
ぶふっ!?
「このような金額になっております」
……計算機で叩き出された金額は、私達の所持金をメチャクチャオーバーしていた。
「……サーチ? リジー? 陛下?」
……再びヴィーの雷が落ちた。
ヴィーからのお達しで三日三晩、私とリジーとマーシャンで不眠不休で依頼をこなし、どうにか全額支払ったのだった。
マーシャンの体重は300㎏オーバー。機械だけに。




