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EP2 ていうか、火星にも温泉♪

 火星で一番のリゾート地、人面山パラダイスビーチ。それが今向かってる温泉の名前らしいけど……。


「……ていうか、一気に地球っぽくなっちゃったわね……」


 パラダイスビーチって、聞いたことがあるような……。


「人面山グランドホテルは決して期待を裏切りませんよ!」


 ……ホテル名も聞いたことがあるような……。


「それにしてもビーチという事は、海が近いのですか?」


「はい。惑星改造の際にできた海が目の前に広がっておりまして、人面山展望台から臨む絶景は見事でございます!」


 じ、人面山展望台…………か、火星にいるという感じがしない……。



 客引きが運転するバスに揺られること二時間半、私達はようやく人面山パラダイスビーチに到着した。


「あ、あいたたた、腰が……」


「流石に二時間半は堪えますね」


「サーチ姉、ここって地球?」


 リジーの疑問はごもっともだった。私達の周りにはヤシの木が生い茂り、ハワイアンな音楽が流れている。水着姿の観光客が道を歩き、お土産を抱えたオジサンオバサンがウロウロしている。


「…………ホントにハワイじゃないわよね?」


「そう思えて仕方ないかもしれません。この人面山パラダイスビーチは、地球のハワイ諸島をモデルに作られたリゾートでございますから」


 ああ、カモメまでいる。地球から連れてきたのかな。


「この人面山パラダイスビーチ一帯は二酸化炭素ドームによって保護されており、一年を通して快適な温度に保たれております」


 二酸化炭素ドームって……。


「火星の平均気温は意外と低く、惑星改造後でも地球より低い温度なのです」


「え、そうなの? 逆に暑いのかと思ってた」


「火星という名前とは裏腹に、改造以前の平均気温はマイナスだったそうです。最低気温は南極大陸より下だったそうでございますよ」


 いろいろと豆知識が増えていく途中で、ヴィーが空に光るモノを見つけた。


「ナイア、ここですよー!」


 ヴィーの声に気づいたらしいナイアは、私達に向かって手を振った。私達も振り返す。


「お分かりになられましたようで」


「あんたの説明がよかったんじゃない?」


「恐縮でございます」


 相変わらず乗り物に弱いナイアは、宇宙港からホウキ……じゃなくサイ・ハンマーに跨がってここまで飛んでくることにしたのだ。


「すみません、少し遅れましたわ」


「……どうでもいいけどさ、お尻痛くならない?」


「いえ。そこは魔術……じゃなくてサイキックでカバーできますわ」


 便利だなぁ、月魔術。


「それにしても気候変動が激しすぎません? 途中から体感気温が跳ね上がりましたわ」


「おそらく二酸化炭素ドームの境目かと」


「に、にさんかたん……?」


「要は結界みたいなもんよ。温室効果ガスで保温してるの」


「成程、結界ですのね」

「やっとわかりました」


 私の説明でナイアだけじゃなくヴィーも理解したようだ。やっぱり魔術的な語句の方が馴染みもあるしね。


「さて、それではホテルまでご案内致します」


 客引きに先導されて、私達は歩き出した。



「こちらでございます」


「…………」


 うん、ホテルだ。誰もが思い浮かぶ立派なホテルだ。もしかしたら「人面山ぐらんどほてる」とか書かれた、傾いた看板のかかったボロ旅館かも……という期待は裏切られた。


「? どうかなさいましたか?」


「何でもない……それより」


「温泉でございますね。〝闇撫〟様のご要望、忘れるはずがございません」


 だから闇撫言うな。


「一番人気の貸切風呂、ちゃんと押さえてございます」


「よーし、よくやった! あんたには『希望すれば〝闇撫〟(わたし)に気持ち良く殺される権利』をあげるわ!」


「…………いえ、ご遠慮申し上げます」


「さあさあ、風呂よ風呂よ風呂なのよー!」


「いえ、あの、聞いてます?」


「風呂風呂風呂風呂風呂風呂風呂風呂風風風風呂風風風風呂風風風風呂風風風風呂風呂風呂風呂風呂風呂風呂〜♪」


 メロディは剣の舞で♪


「ちょっと、聞いてます? 本当に結構ですからね? 勘弁してくださいね? 後生ですからお願いしますよ? 殺さないでくださいよー!!」


 ……ヴィー達がフォローしてくれるだろう……たぶん。



 ダダダダダダダッ


「いやっほおおおおい!」


 ざっぱああああん!


 いよっしゃあ! 火星での一番風呂!


「あ゛〜〜、癒されるぅ〜!」


「……サーチ、お願いですから、脱ぎ散らかしながらお風呂へ突入するのは止めてください」


 私の下着やらビキニアーマーやらを抱えたヴィーが、ため息まじりに注意してきた。ごめんなさい。


「ほらほら、ヴィーも入ろうよ」


「入りますけど……本当に止めてくださいね? 先程すれ違った男性が鼻血を噴いてましたよ」


 あらら、ごめんあそばせ。


「まあいいじゃん。良いモノ見れて、その男も悔いはないでしょうよ」


「……まるで亡くなったみたいな言い方ですが、ご存命ですからね?」


 そりゃ失敬。


「それ以上に、サーチの辞書には慎みという言葉が無いのですか?」


 ツツシミ? 何それ、美味しいの?


 ガラッ


「あら、ヴィーさんもいらっしゃったのですね」


「ええ、私はサーチの後始末を」


「後始末って言うのはちょっとヒドくない?」


「何が違ってますか?」


 ……違いません。


「それよりヴィーさんも。ワタクシは先に入りますわよ」


「私もすぐに行きます」


 一旦ヴィーは脱衣場に戻り、ナイアが身体を流す。


「少し熱めですわ……それにしても、温泉はどの星にもあるのですわね」


「火星には火山が多いからね。中にはオリンポス火山なんていう化け物クラスの火山もあるし」


「……化け物クラスとは?」


「標高25,000mだったかな」


「に、二万!?」


 実際は1/3くらい海に浸かっちゃってるから、今は二万は切ってるかな。それでもエベレストの二倍くらいだけど。


「……スケールが違いますわね……」


「だけど大きさは地球の半分くらいなのよ? で、火星の半分は海だから……」


「……一気にスケールが小さくなりましたわね」


 私が着陸したアキダリア国際宇宙港も、実は浮遊港という人工の島なのだ。火星の土地の2/3はまだ有害物質で覆われていて、まだまだ浄化作業が続いている段階。人間が住める土地は、実質ヨーロッパくらいの広さしかない。


「……ホントにスケールが小さくなっちゃったわね……」


「そういえば気になっていたんですが、人面山とは何ですの?」


「ああ、人面山ってのはアキダリア平原にあった山でね、上から見ると人の顔に見えるの」


「そうなんですの……」


「だけどアキダリア平原は今はアキダリア()だから、とっくに海の底に沈んでるけどね」


「…………は?」


 だからこのリゾートに「人面山」の名前が使われていること自体が謎なのだ。



 あとから客引きに聞いてみたところ、あの人面山、火星のシンボルになってるんだとか。確かに火星って言ったら人面山、てくらい有名だけど……。

地名や地形の設定は適当です。

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