EP1 ていうか、全体的に呼び戻して火星。
『本日のご利用ありがとうございました。まもなく終点、火星、火星でございます。お忘れモノ等が無いよう、お気を付けてお降りください。まもなく火星、火星です……』
「シャ、シャロン? どうかしたの?」
『いえ、何も』
ならいいけど……。
『このままアキダリア国際宇宙港に着陸します』
「わかったわ」
いよいよ火星か。
「ねえシャロン、火星自体は地球から独立してるのよね?」
『はい、あくまで事実上、という状態で公式には認められていませんが』
「入国するにはガーディアンズカードだけで大丈夫なの?」
一般人の場合はパスポートやビザが必要になるが、キュアガーディアンズはガーディアンズカードだけでフリーパスである。無論、例外はあるけど。
『火星自体にはガーディアンズカードのみで行けますが、西マージニア国に入国する際のみ、ビザが必要となります』
「今から着陸するのは……」
『アキダリア国際宇宙港は東マージニア共和国ですので、何ら問題ありませんよ』
ホッ、良かった。
人類第三の故郷、火星。ずいぶん昔から居住可能と言われてきたこの惑星は、二十年という極めて短期間のうちに惑星改造に成功した。水が大地を覆い、空気の割合が地球とほぼ同じになり……少しずつ人類の入植は進んでいる。
「……どっちにせよ、実際の西暦と整合性が取れないじゃない」
現在の火星の人口は一億人くらい。まだ一割程度しか土地の開発は進んでいないが、火星を二分する国家・東マージニア共和国と西マージニア国の首都は、地球の主要都市と並ぶくらいの繁栄を誇っていた。
「サーチ、整合性がどうかしたのですか?」
「私達が前にいた地球と同じ西暦使ってる割に、こっち側の技術は進歩しすぎじゃね? と思っただけ」
「それを言い出したら際限なくなりますよ。サイキック自体が異常になってしまいます」
確かに。たまに紅美と会話するけど、未だに周りが使うサイキックに慣れないらしい。
「サーチ姉、火星は赤いんじゃないの? どう見ても青いと思われ」
「惑星改造でガンガン水をぶち込んだらしいからね。そりゃ表面を水が覆えば青くもなるわよ」
だんだん近づいてくる火星表面。妙なモノで、別にSF好きなわけじゃない私でもワクワクしてくる。
「…………あ、街が見えて来ましたわ」
「なかなか整然とした街並みですね」
「呪われアイテム、あるかな〜♪」
ねえよ。
『サーチ、妾も付いていくが良いかえ?』
「別にいいけど……ロボットって目立たない?」
『ロボットではなくアンドロイドじゃ!』
違いがわからん。ていうか、その拘りが一番わからん。
「あんまり目立ちたくないんだけど」
『心配いらぬ。この世界にはかなりの数のアンドロイドが居る故な』
ならいいけど……。
「あれ、でもキュアガーディアンズでは一度も見てないような……」
『それはそうじゃろうな。アンドロイドの大半は火星に集中しておるからの』
「へ? 何で………………って、そうか。惑星改造のためか」
『その通り。アンドロイドじゃったら、環境の変化なぞ屁でもないからの』
惑星改造なんて一言で言えば簡単だけど、実際は超が五つ付いても足りないくらいに過酷で危険な仕事だ。何せ未知の惑星だから、空気濃度に気温に重力に放射線等々、脅威となるものは数多い。全身を保護できる皮膚コーティングが発達したとはいえ、やはり生身では危険と隣り合わせなのだ。
その点アンドロイドは一切心配がいらない。列挙した脅威には全て対応できるし、機械だから疲れない。エネルギー効率も生身の人間とは段違いだし、壊れても修理すれば直るし、最悪部品ごと交換しちゃえばいい。欠点と言えばサイキックが使えないのと、サイキックによる治療ができない……くらいかな。
『妾が一番不満なのは【ぴー】できない事かの』
反射的に鳩尾を殴ろうとしたけどアンドロイドには効かない、と思い。
キィィィィィ〜〜
『っぎゃああああああっ!』
発泡スチロールで曇りガラス、に切り替えた。
『な、何をするんじゃ! 五感が鋭敏な分、聴力的攻撃は堪えるんじゃ!』
「へ? 五感って……触覚もあるの?」
『あるに決まっておろうが! 妾はロボットではないからの!』
そうか、なら。
どげんっ!
『ぅぐふぁああ!!』
あいたたた……蹴りの効果はあるみたいだけど、こっちへのダメージもあるか。
「アンドロイドでも股間蹴られれば痛いのね」
『あ、当たり前じゃあああ!』
マーシャンはのたうち回りながら叫んだ。
『ようこそ、火星へ!』
沢山のアンドロイドが歓迎のダンスを踊っている。有名な火星行き映画でも似たようなシーンがあったけど、踊っていたのはアンドロイドじゃなかった……と思う。
『おほほ、可愛い娘ばかりじゃな!』
「……アンドロイドって男女あるの?」
『あるわい。元の性別を引き継ぐからの』
ま、どうでもいいけど。
「そこのビーストのお嬢様方、うちのホテルはいかがですか?」
威勢のいい客引きが私達を見て叫んでいる。後ろを振り向くけど……誰もいない。
「え? 私達?」
「そうですよ、ビーストの美少女の方々!」
わ、私達がビースト?
「何を今更って感じですが、私達は種族は獣人です」
あ、そっか。獣人が英訳されたってことか。
「よくビーストだってわかったわね」
「後ろの狐のお嬢さんやサイ・テンタクルを使うお嬢さんはすぐにわかりましたよ」
サイ・テンタクルは蛇獣人の専用装備なんだって。
「私は? 完全に見た目は人間でしょ?」
「背中の羽根痕ですぐわかりました。ダチョウ系のビーストですよね?」
ダチョウ言うな。
「それにしても、そのブレードは……もしや〝闇撫〟のサーチ様では?」
ぐあ、その設定忘れてたのに。
「そ、そうよ」
「やはりそうでしたか! でしたら我がホテルに是非お泊まりください!」
……交渉次第かな。
「…………いくらで?」
「そうですね……五名でこれくらいで」
客引きが計算機を叩く。もちろん、空中端末で。
「……これくらいで」
「え、それはちょっと……」
「私が泊まったって宣伝するんでしょ。だから宣伝費としてこれくらいで」
「う……ん……せ、せめて、これくらいで」
「……もう一声!」
「な、ならばこれで! これ以上は無理ですからね!」
よっし、予算内!
「……一応聞くけど、露天風呂あるわよね?」
「勿論です! ちゃんと完備しております!」
よっし、決まり!
「じゃあお世話になるわ」
「あ、ありがとうございます! 〝闇撫〟御一行様、ご案内!」
ガッ!
「……〝闇撫〟の部分を叫ばないでくれる?」
「す、すいません……」
全体的に呼び戻すを英語にすると?




