EP22 ていうか、敵はモンスター?
宇宙空間に飛び出してから試運転してみたけど、この宇宙スクーターかなり操縦しやすい。
「結構スピードもでるわね。やほー♪」
ギュイイイイン!
『こ、これ! 待つのじゃ! 妾を置いていくでない!』
ゴオオオオオッ!
「マーシャン、その身体になっても魔術は使えるの?」
『問題ないわい。身体を作る際に短縮詠唱をあちこちに刻みつけたでの、魔術も思いのままじゃ』
「賢者の杖は?」
あ。マーシャンが固まった。ということは……。
「ゆ、行方不明なの?」
『…………お、思い出の……大事な大事な杖が…………うおおおおおおおおおおおん!』
遠吠えじゃありません。泣いています。
「あー、ごめんごめん。余計なこと言っちゃったわね……ていうか、涙出るんだ」
『うおおおおおおん! な、涙ではない!』
「あぁ、オイル? それとも燃料?」
『違うのじゃ! 人を何じゃと思うとるんじゃ!』
「……ロボットでしょ?」
『じゃから、ロボットではなく……!』
「まあどうでもいいわ。それより」
空想刃を作りながら、右斜め方向に宇宙スクーターを傾ける。
「何かくるわ! マーシャン三つ任せた!」
一気に加速し、近づいてきた何かに先制で斬りつける!
ざぐんっ!
おもいっきり長く伸ばした空想刃は、見事に相手を両断した。
「うっわ、気持ち悪。巨大ダンゴムシにスラスターがくっついてる!」
ダンゴムシっていうか、ダイオウグソクムシ的なヤツは、お尻のスラスターっぽい器官から何か噴き出して加速する。
ぎしゃあああああ!
「あら、結構加速するわね……遅いけど」
勝手に持ってきた銃を取り出し、ダンゴムシにぶっ放す。
ダダダダダダダダ!
「うわ、小型のマシンガン!?」
ビスビスビスビスビス!
おお、ほぼ命中! 精度いいわね、この小型マシンガン!
ぎしゅああ!
ダンゴムシが怯んだ隙に、空想刃を切り上げる。
「昇○拳!」
ズバッ!
「よっし、二匹目!」
あと一匹! 小型マシンガンで牽制しながら、ジリジリと間合いを詰める。
「……ちっ。決め手に欠く……」
向こうも知能があるらしく、私の空想刃を警戒して近寄ってこない。小型マシンガンじゃ致命傷は難しいし……。
ダダダダダダダダ!
「……とはいえ、まるっきり効いてないわけじゃないか……」
私はもう一丁小型マシンガンを取り出すと、徹底的に撃ち続けることにした。
『ファイアバレット!』
ズドオオオン!
『フム、他愛ないの。所詮雑魚は雑魚じゃな……さて、サーチのヤツはどうなったかの?』
ゴオオオオオッ!
『……ほぼ片付いておるようじゃが……ム?』
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
ぎ、ぎしゃあ……。
『…………サーチ、其方は何を酷い事をしておるのじゃ?』
「あ、マーシャン。こいつさ、なかなか死なないから」
『いやいや、もう虫の息じゃろが、どう見ても』
「ダンゴムシだけに?」
『いや、そういうわけでは……』
マーシャンはそう言うと、大砲の形に変形した左手から火の玉を放った。
ズドオオオン!
ぎゃおおおぉぉぉ……
「ありがと。どうも決め手に欠いてさ」
『さっさと真っ二つにすればよかったじゃろ?』
「真っ二つにするなんてムダの極致よ。マシンガンで急所を探したんだけど、どうやら頭に脳はあるみたいね」
『は、蜂の巣にしながら、そんな事を調べておったのか!?』
「急所を突けばあえなく昇天。これこそ合理的な殺害方法でしょ?」
『……其方は根っからのアサシンなのじゃな』
「ムダが嫌いなだけよ……さて、こいつらは一体何なの?」
『……ま、これぐらいは教えてもよかろう。これは元来地球に居た生物を遺伝子改造し、生物兵器として開発された、通称「モンスター」じゃ』
「モ、モンスター!? この世界にもいるわけ!?」
『結局生物兵器としては失敗作での、全て処分されるはずだったのじゃが……』
「……パターンだけど『研究所から逃げ出した』ってヤツ?」
『間違ってはおらんが……ま、色々あったのじゃよ』
……ま、いいか。そのうちわかることだし。
「それより未確認飛行物体って、こいつらのこと?」
『さてな……シャロン、どうなのじゃ?』
『いえ、モンスターなら識別できます。もっと違う何かです』
シャロンのレーダーにはまだ反応があるらしい。
「……どっちにいるの?」
『ちょうど十二時の方角です』
「わかった。シャロン、ナビゲートして」
『っ……しかし……』
スクーターから聞こえてくるシャロンの声に少しだけ戸惑いが見られたが。
「後追いされたらめんどうだわ。叩けるなら叩いておかないと」
『……はあ、わかりました。やはりお止めしても聞かれる方ではありませんね、マスターは』
……やはり?
『わかりました。視界の上部にナビゲート画面を出しますので、そこでナビゲートします』
「……うん、よろしく」
シャロンの言葉通りに、視界にナビゲート画面が表示される。その中に点滅している丸いのがあった。あれか。
「マーシャン、まだいける?」
『当たり前じゃ』
「なら行くわよ!」
ウィィィィィィン! バシュウッ!
『……やれやれ。好戦的じゃな』
ゴオオオオオッ! ドシュン!
ヒィィィィン……
「……この辺りよね」
ナビゲート画面の表示だと、もうすぐ接触するはず……。
『ま、待つのじゃ〜……』
ボボボボボ ボフッ ボフッ ボボボボボ
「なあにマーシャン、もしかして燃料切れ?」
『ね、燃料なぞ必要ないわい! た、単なる排気ガス切れじゃ!』
……要は息切れか。
「あはは、しっかりしてよ〜…………っ!?」
殺気を感じは、急旋回して回避する。
ドシュウウウゥゥゥ……
「ビ、ビーム!? どこから……っと!!」
ドシュウウウゥゥゥ……
『どうやら妾達の追跡に気付き、早々に退散したようじゃな』
そう言ってマーシャンはビームが飛んできた方向に砲身を向け。
『エレキ・バレット!』
ズドオオオン!
……一発魔術を放った。
『……よし、これでもう何もしてこないじゃろ。引き上げるぞ』
「マーシャン、今のは?」
『奴等が放っておった長距離ビーム攻撃の魔術版、おまけに追跡機能付きじゃ。戦艦には致命傷になる程度の電撃じゃから、向こうは必死に逃げるじゃろうな』
マ、マーシャンも案外えげつない……。
やっぱりモンスターいた。




