EP18 ていうか、マーシャンと悪巧み?
新しく方針を決めた私達は、早速行動を開始した。
「まずはサーシャの捜索願を出すわ」
「「「へっ!?」」」
「人探しをする場合は、こちらが探す努力をする以上に、捜索対象が探されてることを知るのが重要なの」
「……あ、名乗り出る可能性ですか?」
「そういうこと。それと国家の捜索能力を甘くみてはいけないからね」
マイクロチップがある以上、ほぼ100%探し当てられるだろう。
「……サーチ、ならばヴィーさんにもう一度はっきんぐしてもらえばよろしいのでは?」
「何度もハッキングしてるから警戒されてる恐れがあるし、一応違法行為だから。それにやましいことはないから、堂々と利用すればいいのよ」
「……サーチにも違法行為を躊躇する良心があるのでおぐっふぉう!?」
うるさい!
「でもサーチ姉、そうするとマーシャンに知られちゃうかも」
「知られた方がやり易いわ。ていうか、今からマーシャンを回収しにいくわよ」
「「…………え?」」
「いやね、よくよく考えたらサーシャのことを、私達は全く知らないじゃない? となるとマーシャンを巻き込んだ方が探しやすいかと」
「そうですね。知られて不味い事ではありませんし、却って探す効率は上がりますし」
「……覗かれるリスクは上がると思われ」
うっ!
「ま、まあ、そこは管理次第でどうにでもなるわ」
「……その管理を食い破って覗くのがマーシャンだと思われ」
うぅっ!
「……ま、まあ、その場合はリジーを人身御供に「……サーチ姉?」……じょ、冗談だからね」
不満や不安はくすぶるけど、とりあえずマーシャンを回収しに向かうことになった。
「困りますよ。飼うんでしたら、ちゃんと管理してくださいね!?」
「「「「大変申し訳ありませんでした」」」」
月の動物保護施設でこっぴどく叱られた私達は、一時間ほど拘束されるハメになった。現在月では動物の持ち込みは許可されてるモノの、捨てるヤツが多くて社会問題になってるらしい。一番多いのはウサギだってのが笑えないけど。
「わんわんわん! がうがうがうがう!」
おお、マーシャンが噛みついてくる。だけどホログラムだから全く痛くない。
「ヴィー、制限を解除してあげて。ただし私達の意思表示によってすぐに犬の姿に変わってしまう、という条件を残して」
「わかりました」
「わうー! がうがうがうがうがう!」
めっちゃ抗議してるけど、知ったことじゃない。やがてヴィーの端末によって犬の姿は解除され、元のマーシャンの姿に戻っていく。
「がうがうがうがああアアチィィィ! よくも妾をあのような獣の姿に……!」
あ、マジギレしてる。
「はいはーい、大人しくしてないと、またまた犬になっちゃうよ〜」
「ぐ……うぬぬぬ……!」
めっちゃ歯ぎしりしてます、笑えます。
「まあまあ、そんなに怒ったら身体に悪いと思われ」
「うるさいわい! どうせホログラムじゃ、身体に悪いも何も無いわい!」
ごもっとも。
「だけどカチンときたから、犬になれ」
「な、何じゃとおおぅぅぅわうわうわうー!」
おお、逆再生。おもろいわ。
「戻れ」
「わうわうだ、だから犬になるのは」
「犬になれ」
「嫌じゃと言うてわうわうわうわう!」
「戻れ」
「わうわうわうわ止めるのじゃあ!」
「犬にならずにそのままで」
「だから遊ぶでわうわうないわい!」
あ、ちょっと犬になりかかった。
「犬にならずに戻らずしばらく犬になるな」
「わうわだから遊ぶでわうわうないわん!」
リジーが遊んでるのがおもしろくて見入ってたけど、肝心なことを思い出したので止める。
「ストップストップ。リジー、そこで止めて」
「はーい」
「はあはあはあ、ど、何処まで妾を愚弄する気じゃ……!」
ヤベ、怒らせすぎたかな。
「マーシャン、取引しましょ」
「はあはあはあ、と、取引? いきなり何を言い出すのじゃ?」
「マーシャン、≪万有法則≫の行方について、何か心当たりがあるんじゃない?」
私の言葉を聞いたとたん、マーシャンは急激に冷めた顔になっていった。
「……さて、何の事やら。妾にはわからぬの」
やっぱりしらばっくれるつもりね。
「言わないと犬に戻すわよ」
「知らない事を答えよと? 犬にされたところで、知らぬ事はどうしようも出来んわ」
「……なら犬になってお手、おかわり、三回回ってワンをする」
「っ……! し、知らぬ!」
「なら犬になって餓えたオス犬の群れに投げ入れられる」
「っぅ……! し、知らぬわ!」
ならムチじゃなくアメで。
「じゃあエイミアと一緒に入浴」
「うぐっ」
「オマケに背中を流してくれるサービス付き」
「うぐぐっ」
「もちろんタオルを巻くような無粋なマネは無し」
「うぐぐぐぐっ」
……ガマンするわね。ならば。
「それにナイアが付いてきまあぎゃああ!」
「勝手に人を取引材料に使わないでくださいまし!」
す、すいません……。
「何と言われようと、知らぬモノは知らぬ」
うーん……あくまでシラを切りとおすつもりか。
「……だったらマーシャン、私からの切り札よ」
「ふん、知らぬと言っておる」
「この世界にいるであろうサーシャを探すのを手伝ってあげる」
この言葉を聞いたとたん、マーシャンの目の色が変わった。
「な……! サ、サーチ、其方はサーシャの行方を知っておると言うのか!?」
「知らないわ」
「…………な、何じゃ。ならば取引も何もあったモノではない」
「いえ、取引は成立する」
「……ほぉう。その根拠は?」
「私が三冠の魔狼の番に選ばれてたのは知ってるわよね?」
「うむ、知っておる。で?」
「私を番に選んだのは、サーシャが主だったころの三冠の魔狼だった。だから、サーシャとは細いながらも繋がった線がある」
「線……魔力経路か」
「そう。だから近くにいれば私にはわかる」
「………………成程。サーシャの奴め、余程其方を気に入ったのじゃな。まさか魔力経路を結ぶ程とは」
「どう? これならマーシャンの目的とも合致するんじゃないの?」
「………………良かろう。その条件で妥協してやろうではないか」
「……なら」
「妾が知る限りの≪万有法則≫の情報、教えてやろう…………但し」
や、やっぱり「但し」きたあ!
「あくまでサーシャを確保してからじゃ。そうでなければ、一切教えるつもりはない」
「わかった。ただし≪万有法則≫の情報がサーシャ探索に関わるような場合は、例外としてくれないかしら?」
「……良かろう」
こうして私達の目的は、しばらくは「サーシャ探索」となった。
協力関係成立。だけどマーシャンはたまに犬になるフラグ立つ。




