EP17 ていうか、方針転換のための会議!
月を出港して四時間ほど経ってから、私達は航路から外れた場所で船を停めた。
「しばらくこの場で停泊するわ。維持は任せる」
『了解致しました』
「サーチ?」
首を傾げるヴィーに向き直り、私は切り出した。
「これより始まりの団と船の底抜きとの合同会議を始めます」
「え? 船の底抜きの皆さんとですの?」
「リル姉達来るの?」
「いえ。今回は最新の技術を駆使して……それじゃ始めて!」
『了解致しました。戦闘艦ボトム・フォールアウトとの同調開始します』
たぶん向こうの制御システムとのやり取りは順調にいったのだろう。それは数分も経たないうちに起きた。
『外見データ読取完了。ホログラムによる再現開始します』
……ジジジジ……ブゥン!
「リ、リル姉!?」
突然リルが現れたのだ。
「うっわ、スゴいわ。毛の一本一本まで再現されてるわ……はろはろ〜、聞こえる?」
『ああ、聞こえてるさ。スゲえな、ちゃんと声が耳元に聞こえるぜ』
「指向性スピーカーを使ってるのよ。私の姿も見えてる?」
『おう。相変わらずの格好だな』
「そりゃそうよ、自信があるなら見せなきゃ損々」
『……それを露出狂って言うんだよ』
……カチン。
「あーら、リルったら、無いモノまでキッチリと再現されてるわね。制御システムに頼んで、そこは修正してもらえばよかったんじゃないかしらー?」
そう言って真っ平なアレを凝視する。
『な……! いい度胸じゃねえか、テメエ!』
そう言って指にはめた指輪を軸に鋭い爪を形成する。
「はん、殺ろうっての? いい度胸はあんたよね」
私も小手の刃と手甲剣を形成する。あ、空想刃って言うんだっけ?
『食らいやがれぇぇぇ!!』
リルが飛びかかってくる。そのままジッとして、リルに殺られるがままにする。
『おらあああ!』
スカッ
『へっ!? う、うわわわわわわわっ!!』
どんがらがっしゃああああん!
「……あのバカ、私達がホログラム同士だって忘れてたわね……」
だから私は敢えて避けなかったのだ。
「……サーチ、意地が悪すぎますよ……」
いいのよ。私を露出狂呼ばわりするなんて、万死に値する。
ジジジジ……ブゥン
何て言ってると、私の前に金髪の女性の後ろ姿が現れた。
「ん? エイミア?」
『え? あ、サーチ!』
「今度はあんたか」
『サーチ……サーチィィィィ!!』
私に向かって走ってくるエイミアは、両手を広げて……って、ちょっと!?
「エイミア、これはホログラム……」
スカッ
『あれ!? きゃああああああああ!!』
どんがらがっしゃああああん!
……バカだ。リル以上のバカだ。
『エ、エイミア様!?』
あ、影の薄いエカテルだ。
『…………? 何故でしょうか、サーチさんに異常に殺意を抱いてしまったのですが?』
鋭い。
「ていうか、エカテルなら話がわかってくれそうね。そのバカ二人は放っておいて、会議に参加してくれない?」
『え、でも二人を介抱しないと……』
「……その二人、ケガしてるの?」
『もにたあに頭から突っ込んでピクピクしてます』
「………………ま、まあ、ピクピクしてるなら大丈夫でしょ。会議に参加して」
『え、でも……』
「……命令。参加しなさい」
『ひゃう!? わ、わかりました!』
よしよし、エカテルの奴隷契約はまだ有効なようね。
「なら会議を始めます。今回の議題はズバリ『今後の活動方針』についてね」
『今後の……活動方針ですか?』
「ええ。最初のころは単純に『アカデミコを探して≪万有法則≫を奪う』だけでいいと思ってた」
「思っていた……過去形ですわね」
「そう。私もいろいろと調べてみたけど、アカデミコもエセ神も存在している形跡が無いのよ」
ヴィーにハッキングまでしてもらって、政府の住民データまで調べた。それでも該当する人物はいなかったのだ。
「この世界では生まれてきたその日に、マイクロチップを体内に埋め込むのが当たり前。つまり、住民の所在はカンペキに政府が把握している」
「……つまり、政府のデータにない以上、存在しない……と思われ?」
「まあね」
『サーチさん、そのデータ、本当に信用できますか? 何者かの手で改ざんできないのですか?』
エカテルの疑問に、ヴィーが答える。
「できなくはないです。但し相当上位のアクセスレベルじゃないと操作は不可能ですね」
『ヴィーさんが為さったような手段では?』
「ハッキングですか? 住民データは完全に外部から遮断されたハードに保存されていますから、物理的に不可能です。今回は過去に個人の端末にダウンロードされていたデータから抜き取ったモノですから」
『だから同じ手段で……』
「とっくに消去されてますよ。私がデータを抜き取っている間に、すでに侵入警報が鳴りましたからね」
それで消してなかったらリル以上のバカだわね。
「……というわけだから、今回からアプローチを変えようと思って」
『アプローチを?』
「ええ。まずあんた達は、≪万有法則≫の伝承が無いか探ってみて」
『伝承……ですか?』
「ええ。エセ神の存在は無くても、≪万有法則≫は存在しているはず。ならば何かしらの伝承は残っているわ」
『……成程。〝知識の創成〟からのアプローチではなく、≪万有法則≫への直接のアプローチに変えるわけですね』
流石はリル達の中で唯一の頭脳派。
「そ。お願いできる?」
『わかりました。そのように進言します』
よし、エカテルが言うのなら間違いないわね。
『あの、サーチさん達はどうなさるのですか?』
「あ、私達? 私達はサーシャを探そうと思ってるの」
「「「『……へ?』」」」
全員目が点になってる。ま、ムリもないけど。
「な、何故そこで陛下の話になるのですか?」
「……おそらくだけどね……マーシャンは何か隠してるわ」
「何かって?」
「みんな、おかしいと思わなかった? 私を含めて、自分の装備しているモノすら理解できない状態だったわよね?」
全員頷く。エカテルも頷いていた以上、リルやエイミアも同様だっただろう。
「なのにマーシャンは、母艦の存在から船の構造までいろいろと知っていたわ」
……と言うより、知りすぎている。
「だからマーシャンから聞き出すのが一番なんだけど……マーシャンが口を割るとしたら……」
「……そうですわね。サーシャさんを取引材料にでもしない限り……」
核心部分には迫れないだろう。
リルとエイミアは相変わらず。




