EP16 ていうか、海苔と納豆と梅干し
「あー、いい風呂だったわ」
「ちょっと飲みすぎました……あ、ふらっと来ました」
「……そう言ってわざとくっついてこないの」
少し飲みすぎた感じのヴィーが私の腕にくっつく。
「「…………」」
それを見ていたナイアとリジーが頷きあう。まさかこいつら……!
「ワ、ワタクシも酔いましたの〜」
「私も飲みすぎてフラフラ〜……と思われ」
ヴィーをマネてくっついてこようとする。
カチンッ
が。
「私の貴重な時間を邪魔しないでください」
……あーあ、二人揃って石に……っていうか!
「あんた、この世界でも≪石化魔眼≫使えるの!?」
「ええ。ですが≪怪力≫は全く使えません」
「え、≪怪力≫が? ならスゴい攻撃面でダウンだわね」
「私もそう思っていたのですが……思いの外、このサイ・テンタクルが使いやすいので」
そういって頭からサイ・テンタクルを伸ばし、私に巻きつける。
「こうして敵を捕らえ、至近距離で聖術……じゃなくてサイキックを放ったり、もう一本のテンタクルで攻撃したり。戦術が多彩になりました」
「へええ……ていうかヴィー、何で私に巻きつけるのかしら?」
「それは勿論、身動きが取れないようにする為です」
ちょい待ち、このパターンっていつものアレよね!?
「ちょちょちょ、ヴィー落ち着きなさいよ?」
「サーチ、私はとっても落ち着いてますよ?」
ていうか、完全に目が据わってるんですけど!?
「サーチ……」
忍び寄ってきたヴィーは、私の浴衣に手を……!
「ごめん、ヴィー!」
「え? ぐほぉぉぉう!?」
自由な右足を振るい、無防備だったヴィーの脇腹にミドルキックを叩き込む。
「あきゃあああああ!」
ゴロゴロゴロゴロ! ずどおおん! ガラガラズシィィィン!
勢いのまま転がっていったヴィーは、壁を二枚ほどぶち抜いてから、奥にあった階段を落ちていった。
「あ、あれ? 思った以上に威力が……?」
少し前からおかしいとは思っていたのだ。重力が小さいのが原因かと思ってたけど、それにしてはスピードが上がっている気がしていた。
「……まさか、脚力が上がっている……?」
その後、階段下で目を回していたヴィーを回収し、石像の二人を魔法の袋に収納して、どうにか退散した。壁に空いた大穴は案の定大騒ぎになったけど、私は知らぬ存ぜぬで通した。
「……おはようございます、サーチ」
「お、おはよう」
朝、ヴィーは普通に起きてきた。エカテル印の薬草を持っていたのが幸いし、ヴィーの打ち身や擦り傷は全て消えている。
「…………私、あれからどうしていたのでしょう?」
「あ、あれからって?」
「いえ、お風呂で飲んだのは覚えているのですが、そこから後の事が……」
……ま、まさか。
「ヴィー、脇腹は痛くない?」
「脇腹? いえ、特には」
…………よし、このまま無かったことにしよう。
「いやね、あんたが酔っぱらって大変だったのよ」
「ええっ!? 私、何かしてしまいましたか?」
ここぞとばかりに、石像になったナイアとリジーを取り出す。
「っぎゃああああ! 私ったら何て事を!」
急いで≪石化魔眼≫を解除する。
「……っとと、あ、あら?」
「……??」
「二人とも大丈夫?」
「へ? サ、サーチ?」
「これは一体?」
「悪ノリしたあんた達を、ヴィーが怒って石にしちゃったのよ。覚えてないの?」
「え……ええっと……?」
「……何かした……と思われ?」
ま、石にされたタイミングがタイミングだったから、覚えてるわけないわね。
「ほらほら、悪ノリしたあんた達が悪いんだから、ちゃんと謝りなさい」
「は、はい。申し訳ありませんでしたわ」
「……平にご容赦を」
「ほら、ヴィーも石化はやり過ぎなんだから、二人に謝って」
「すみませんでした」
「よしよし、喧嘩両成敗で一件落着。良かった良かった」
私には実害無し。善きかな善きかな。
「「「……??」」」
三人は納得いかないみたいだけど、記憶に残ってないのでどうしようもなく、ただただ頭上に「?」が増えていくだけだった。
「ふう、ごちそうさまでしたっと」
やっぱり朝はご飯と味噌汁、これに尽きます。
「「「…………」」」
「どうしたの、三人とも?」
「こ、この糸を引く豆は何ですの?」
「この赤い玉は一体?」
「黒い紙みたいなのが……」
「ああ、納豆と梅干しと海苔か。全部ご飯に相性抜群よ」
「こ、これがですの?」
「醤油とカラシを混ぜて食べるの」
ナイアは言われた通りにして、ご飯に乗せて食べる。
「……あら。独特の風味ですが、意外とイケますわね」
お、意外とナイアは納豆好きみたいね。
「サーチ、これは?」
「そのまま食べてみなさい。ただ種があるから気をつけて」
ヴィーは丸ごと食べる。おもいっきり酸っぱい顔をしてから、ご飯を口に入れた。
「…………あ、ご飯の甘みで酸っぱさが緩和されて……これはご飯と合いますね」
そう言って種を出すヴィー……てっきり味わうことなく、種ごと飲み込むと思ってたわ。
「サーチ姉、これは?」
「醤油を付けてご飯を巻いて。そのまま食べるの」
リジーは悪戦苦闘しながらご飯を巻き、口に入れる。
「! 美味いと思われ!」
へえ〜。意外と和食もイケるのね。わざわざ遠慮して洋食作る必要はなかったのか。
……試しに。
「ナイア、梅干し食べてみて。ヴィーは海苔。リジーは納豆を」
一人一人違うモノを食べさせてみたが。
「っ〜! 酸っぱ〜! とても食べられませんわ!」
「く、口にくっついて……! とても飲み込めません!」
「臭! 臭い臭い臭いー!」
……全部が全部大丈夫なわけじゃないらしい。
「……ただいま〜」
一泊二日の短い月温泉旅行を終えて船に戻ると、中はシ〜〜ンと静まり返っていた。
「あれ? マーシャン?」
…………何の反応もない。おかしいな。
「……明かりを点けて」
パッ
あれ、動く。
「……全システム始動」
ウィィィィン
あれ、動き出した。
「……音声にての操作を有効に」
『了解。サーチ様の声を登録しました』
あれ? 動く?
「……マーシャンは?」
『マーシャンが不在の為、サブシステムによる操作に変更致しました。所在は不明です』
ふうん……サブシステムがあるのか。
「戦闘や航行に支障は?」
『ありません。マーシャンより効率性が上がり、性能も改善されるモノと推察』
……ならいいか。
「だったらこのまま出発で。手続きをお願いね」
『了解致しました』
どこかで悲しげな犬の遠吠えが聞こえた気がしたけど……無視無視。
マーシャン、さようなら(笑)




