EP14 ていうか、通貨はちゃんとありましたよ。
「はい、報酬です」
母艦に戻って、生け捕った海賊の親玉と部下数名、魔法の袋に収納してきた仏さんを引き渡し、代わりにガーディアンカードに何かして返却する。
「……えっと……?」
「それと、これが明細です」
端末を叩く音が響いたあと、私のガーディアンズカードの裏面にピッと何かする。
「??」
「ではご苦労様でした。次の方〜」
半ば押し出されるような形で列から離れる。
「……これって……電子マネーってこと? それとも振り込み?」
「……ちょっとカードを借りても?」
船に戻ってヴィーに話すとそう言われたので、カードを預ける。受け取ったカードを空中に出た画面にかざす。
「あ、やはり。このカードはお金の支払いや預かりができる機能があるのですね」
そう言って画面の一部を私の前に飛ばす。そこには見慣れない記号の後ろに「2,000,000」という数字があった。
「……この記号は……単位?」
「はい。エニーと言うそうです」
……円を少しいじっただけか。
「じゃあ二百万エニーってことか。うーん、いくらかイマイチわからん
「少々お待ちください……サーチ、前にいた日本との物価の比較です」
再び私に向けて飛ばしてきた画面には、ビール350mlや日本酒一升との値段の比較が載っていた。ていうか、何で比較対象が全部アルコールなわけ?
「……ほぼ同額ね。なら一エニー=一円でいいわけだ」
何て親切設定。少しだけ、ホントに少しだけアカデミコに感謝する。
「紙幣や硬貨は無いのかな?」
「一応あるみたいですが、電子マネーによる支払いが一般的ですね」
財布を持ち歩く必要はないけど、カードが無いと大変なわけか。
「……カードを落としたりしたら、大変なことになるわけね……」
「あ、大丈夫ですよ。カードそのモノがDNA認証機能付きで、登録されたDNAの持ち主以外は使えません」
スゲえな!
「……ていうか、ならDNA認証だけでお金のやり取りした方が早いのでは……」
「それは名残、としか言い様がないみたいです」
……まあいいか。私としてもハイテク過ぎるとついていけなくなるし。
「つまり……デビットカードに身分証明書が付いたって感じか」
「そう考えるとわかりやすいでしょうね」
……これを後ろで固まってるナイアとリジーに説明しなくちゃならないのか……。
「……今までの話で、質問はある?」
ナイアとリジー、二人揃って手をあげて。
「「全部」」
ハモった。ダメだ、こりゃ。
余談だけど、リル達もこの件では相当苦労したらしい。結局エカテルがソレイユにマンツーマンで叩き込まれ、ようやく理解できるレベルになった……とか。ソレイユの苦労は相当なモノだったと思われる。
「……ここをこうすれば……」
「はい。それが検索エンジンです」
私もヴィーからレクチャーを受けて、この空中端末(?)がようやくわかってきたところだ。
「音声認識は?」
「大丈夫です。『オッケー、グー○ル』みたいな風で起動しますよ」
な、なるほど……なら。
「あ、あれ草」
………………。
「反応しないわよ?」
「いや、それは無理ですよ」
何でよ。
「この船の場合は陛下を介して検索します。だから陛下を呼べばいいんですよ」
「え〜〜〜〜〜……マーシャンにプライベートがダダ漏れはヤダなぁ……」
「何言ってるんですか、寝室に至るまで陛下が関わってるんですよ。今更プライベートも何もないでしょう」
「あ、それは大丈夫。もしも私の部屋を覗いたりしたら、端末内にデータ消去ウィルスを拡散するプログラムぶち込んであるから」
「……サーチ、パソコンは苦手なのでは?」
「ま、前世の仕事の一環でね、データ消去ウィルスのプログラムを丸暗記してたのよ」
「…………」
ヴィーは唖然としている。私からしたらポワンカレ予想の丸暗記よりは楽だったんだけど。
「…………サーチ、その才能を他の分野に活かしたらどうですか?」
「イヤよ、めんどくさい」
何が悲しくて身体を動かさない仕事しなくちゃならないのよ。
「……サーチらしいですね」
誉められてるんだか、貶されてるんだか。
「あ、それでだけど、ヴィーやみんなの部屋もマーシャン対策はカンペキだから安心して」
「そうなのですか? なら良かったです」
でも何を検索したかバレバレなのもイヤだな。部屋を出て、マーシャンに呼びかける。
「マーシャン、まさかだけど、私達の検索履歴を閲覧してたりは……しないわよね?」
『すすすするわけないじゃろ!』
してたな!
「ヴィーに頼んでマーシャン対策を強化してもらわないと。私達のプライベートに関わる情報を引き出そうとしたら、即刻ウィルスをバラ撒くように」
『悪かった。もう二度とせんから許してくれ』
「……誠意が感じられないなぁ」
『く……! も、申し訳ありませんでした。許してください』
「じゃあ私達が温泉行くの、全部マーシャンの奢りね♪」
『そ、それで許してくれるならば』
やりぃ!
「なら早速温泉施設を検索して。もちろん地球じゃないとこでね」
『わかったのじゃ………………ん? 地球以外?』
「そ。がんばって探してね〜」
雰囲気からして、マーシャンが愕然としていることが察知できた。
『サ、サーチ、あった! あったのじゃ!』
三日後。マーシャンにムチャぶりしたのも忘れて、月面調査という簡単な仕事をこなしていた。
「……何が?」
『お、温泉! 温泉があったんじゃよ!』
「……どこに?」
『ここに!』
「ここって……まさか」
『そうじゃ、そのまさか! この月にあったんじゃ!』
…………は? はああああああああっ!?
……で、マーシャンに案内されるがままに月の宇宙港まで来た。
「サーチ姉、本当に月に温泉があるの?」
「……さあ?」
「さあって……」
「マーシャンに言ってよ。今回はマーシャンが幹事なんだから」
前回の仕事の慰労と私の趣味を兼ねて、マーシャンの誘いに乗る形で月温泉に行くことにした。
「大丈夫ですよ。月には温泉リゾートが幾つか造られています」
リゾート!? 月面に!?
「ええ。有名なところですと、竹取温泉物語とか」
どっかで聞いたよ、それ!
「まあいいじゃないですか。日本の小説でしたか、月面に結婚式場を作る話もあったでしょう」
よく知ってるな!
「サ、サーチ……」
「な、何よナイア、深刻な顔して」
「ワ、ワタクシ、土足で歩いていいのでしょうか?」
……はい?
「ワ、ワタクシにとって、月は故郷以上の存在。御神体と言っても過言ではありません。ワタクシは今とんでもなく罰当たりな事をしているのですわ! ああ、ああああ!」
……めんどくさ。
月には温泉はありません。あくまでフィクションです。




