第二話 ていうか、水着回……たまには私以外に。
この世界では基本的に船上にモンスター出現はありません。
海の中にもモンスターはいますが…甲板に上がってくる→ぱくぱくバタバタ→死亡。
空からもモンスター来ますが…空からモンスター来る→長く飛んでいたのでヘロヘロ→ひと休み中に瞬殺。
…こんな感じです。
出港してから三日。イヤになるくらい穏やかな航海が続いている。
「なー、サーチ。最近モンスターと戦ってないよな?」
「なんてったって海だから……仕方ないわよ」
リルと二人で甲板に寝っ転がっている。周りを見ると、同じような人がチラホラ。
私は格好は普段どおりだ。こちらの世界にはビキニというものはない……のかも。私自身が見たことがないだけで、実際はあるのかもしれない。とりあえず、マーシャンを始めパーティメンバーは知らなかった。
……とはいえリルが着ているような、ビキニに近いセパレーツがあるので問題ないか。
さっきも言ったけど……私は当然ビキニアーマー!! でも金属部分が熱いのは黙って我慢してます。
「……サーチ、お前のビキニアーマー……蒸れないか?」
めっちゃ蒸すわよ。汗疹できて痒いわよ。
「……水着に替えてくる……」
「何なんだろうな……お前の微妙なプライド」
ビキニだったら着たわよ! ていうか、自分で作れたらよかったのに……私裁縫は苦手なんだよね……。
泊まってる部屋に戻ると。
「サーチ! ちょうどいいところに!」
エイミアがいた。私のビキニもどきセパレーツを持っている。何事?
「ちゃんと着れるように採寸を直しておきました!」
「……直すのは採寸じゃなくてサイズね。ありがと…………ちょっと待て……何のサイズを直したのかな?」
「それはもちろん胸のいひゃーい!」
「な・ん・で・立ち直ったばかりの私に皮肉めいたことするかな〜?」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「も〜あったまきた! とことん頬っぺた伸ばしまくってやる!」
「いひゃい! いひゃーーーい!」
「……お主らは見ていて飽きんのう……」
ちょうど同室のマーシャンが帰ってきた。いろいろあってリルとエイミアはマーシャンとの同室を拒否するようになり……必然的に私とマーシャンは同室が基本となった。私がマーシャンから襲われることがないからだ。
いや、一度あったんだけどね……仕掛けたトラップに引っ掛かってからはもうない。朝まで逆さ釣りはなかなかにツラいそうだ。
「それ以上やるとエイミアの顔が広がるぞい……可哀想じゃから止めてやれ」
……まあ、いいか。はい。
「はみゅ……びええ、痛かったよ〜……」
「痛かったじゃろ、よしよし」
解放してあげたらマーシャンに泣きついた。ちょっと力入れ過ぎだったから痛かったかも。
「良い子じゃ良い子じゃ。よし、今夜はワシが慰め」
「それは勘弁してください」
うわー……「遠慮します」じゃなしに「勘弁してください」か。地味にキツい返しよね……。
「……傷付くのう……良い物を貰ってきたというに……」
良い物?
「何もらってきたの?」
「フッフッフ……妾じゃなくて、ワシの元臣下じゃなくて、知り合いから献上されたじゃなくて」
「一回落ち着きなさい!」
「う、うむ……ワシの知り合いの水着デザイナーが新作を発表してのう……サイズ的にワシには合わんから、お主らにどうかと思うてな」
新作水着ね。
どれどれ……。
「……ていうか、誰が着るつもりで作ったのかな!? どんだけデカいのよ!」
私にはがばがば過ぎる。さすがにここまで差があると、諦めがつくぐらい。
「あやつはかなり特殊なサイズも作るのでな……それが最後まで残ったのじゃ。ワシは一人心当たりがあったのでな」
一人だけ心当たりって……あ。
「なるほどね……」
確かに……着れそうね。
「……え? な、何ですか? 二人して私をガン見して……?」
「マーシャン……あなたは私の同志ですか?」
「同じ志と書いて同志……我が心に偽り無し」
「「ならば! 心は一つ!」」
「な、な、何ですか!? サーチ、目が怖いんですけど!」
がしっ
「捕まえたのじゃ!」
「マーシャン!?」
「いよっし! 剥いちゃえ!」
「え? え? え……い、いやあああああああぁぁぁぁぁ…………」
十分後。
水着に着替えて甲板に出た。
「遅かったな……て、おい!」
リルがビックリして身体を起こした。
「お、お前! 普段のビキニアーマーより露出度高いじゃないか!」
少ーし改造してもらってムダな布を切り落としたのだ。かなり前の世界のビキニに近付いたでしょ!
「どうよ?」
「どうよ? って……露出狂……」
うるさい。
「リルだって御自慢の脚線美むき出しじゃない?」
リルは慌ててタオルで足を隠す。
「そそそそんなつもりは……」
はいはい、そういうことにしといてあげる。
「マーシャンも来ると思うわよ……」
「……もう来ておる」
……マーシャンは……。
「……普通ね」
「……普通だな」
「……流石にワシの歳でサーチのような格好は無理じゃ」
「「何をいまさら」」
「お、お主らはワシをなんじゃと」
「「変態」」
「なっ……びえええぇぇぇ……」
あ、泣いて逃げた。
「ま、いいか。放っとこ」
私はリルの隣に座った。リルは隠していた足を出す。
「……日焼けするとさらに綺麗に見えるのね……」
「わかったから私の足を話題にするのは止めてくれ!」
なら足出さなきゃいいのに。
「でもさ……私もリルも周りから注目されてるのわかってる?」
「げっ……そうなのか」
……自覚無しかよ。
「ま、いいじゃない。私達なんて比較にならないのがいるから」
「比較にならない? 誰…………おい、まさか」
「そのまさか……エイミア! いい加減出てきなさい!」
……入口付近でモジモジしてるの丸見えなのよ。
「エイミアがよく水着を着る気になったな」
「ムリヤリよ!」
「……エイミアが不憫だよ」
「あっそう。リルは見たくないの?」
「見たいけど……」
けど?
「……こっちのダメージがデカすぎる気がする……」
うっ!
「しまった! 考えてなかった……!」
どうしようか……。
「あの〜」
「……何でエイミアがここにいるのよ……」
「忘れられてる気がして……」
ガッチリとタオルでガードして登場しやがった。
……ていうか、その恥じらいの姿だけで私達より注目されてるし……。
「ここまで来たんなら私も覚悟を決める! ちぇすとおお!」
バサッ
「きゃっ! サーチ、タオル返してー!」
「いーやーでーすー!」
「返してー!」
ゆっさゆっさ
「サーチお願いー!」
ゆっさゆっさ
「タオル返してー!」
ゆっさゆっさ
「や、やっぱり私への当て付けかー! あんたは何でそこまで揺れるー!」
「え……いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「そんだけ揺れるのはコツか!? 技術か!?」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「さっさと吐きなさい! 吐けー!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃーい! ひゃひゅへへー! (助けてー!)」
周りの男性が次々に前屈みになっていく。そんな光景を見ながらリルはため息を吐いた。
「……いつになったら成長するのやら……あいつら胸の成長より、頭の成長の方が重要だろ……」