EP8 ていうか、私が〝闇撫〟ならリルはやっぱり?
キュアガーディアンズ。それは宇宙の平和を守るために創立された、正義の集団である。
各地に設置されているキュアガーディアンズ支所には、今日も多くの助けを求める人々が訪れている。そんな人達を救うのが、我らキュアガーディアンズ!
我らに後退の二文字はない! 正義のためにひたすら前進あるのみ!
行け! 我らのキュアガーディアンズ! 戦え! 僕らのキュアガーディアンズ!
「……何てカッコいいこと書いてあるけど、要はギルドと同じよね。お金さえ払えばどんな依頼でも引き受けてくれるんだから」
暇つぶしにマンガ雑誌を読んでみると、やっぱりキュアガーディアンズのネタが多い。無論、正義の味方だらけ。
しかし現実は違う。小説に出てくる探偵のように殺人事件や組織犯罪絡みの難事件ばかりではなく、ほとんどはペット探しとか浮気調査とかの雑務ばかり。それぞれのチームが己の得意分野・ランクに合わせた依頼を探してキュアガーディアンズ支所に集まり、再び飛び立っていくのだ。ていうか、ホントにギルドと同じだわね。
「各支所長ってやっぱり前の世界のギルドマスターなのかな」
「そうだと思うぜ。キュアガーディアンズってのは、どうやら魔王軍とギルドがゴッチャになったヤツみたいだしな」
私は今日はリル+ジュニアと支所へお使い。ヴィーとエカテルはそれぞれの船でお留守番、残りのメンバーは自由行動にしている。
キキキィ〜
『キュアガーディアンズ支所前、キュアガーディアンズ支所前でございます』
乗合馬車……じゃなかった、無料のコミュニティバスが支所前に止まると、一気にバスから人が降りた。もちろん私達もだ。読みかけのマンガ雑誌を閉まって席を立つ。
ちなみにだけど「キキキィ〜」っていう音からわかる通り、バスはタイヤが付いている。ていうか、空飛ぶ車はないらしい。
「マジでありがたいわ〜、無料って偉大だわ〜」
「無料ほど高いもんはない、て言うけどよ、今回はその意見に反論できるな」
違いない。
「お前らのパーティ……チームか。ランクはBなのか?」
「ええ。チーム始まりの団はBランクだったわ。リル達は?」
「私達もBだ。しかしチーム名が何とかならねぇかな……」
チーム名は……船の底抜き。懐かしい名前だわね。
「だったら竜の牙折りにでも変えたら?」
「……それも懐かしいな……聞いてみる」
人の流れに身を任せて支所に入っていくと、ギルド同様に汗臭さに混じって血の匂いが鼻に入ってきた。
「なっつかしいな〜……地球にはこの匂いは皆無だったな〜……」
やっぱり日本って平和だったのね〜。
「つーことは、お前らがいた世界よりも私達の世界の色が強いんだな」
「そうね。逆に地球や火星の居住区とかの平穏な地域は、私がいた世界に近いのかもね」
そんなことを言ってると、受付の順番が私達に回ってくる。
「次の方〜」
「う…………」
「どうしたの? リルの番よ?」
「サ、サーチ、先にやってくれ。お前がやってからでいい」
リルが船の底抜きのリーダーらしいけど、どうも慣れてないからかぎこちない。私がやってるのを観察してから手続きするつもりか。
「……ありがと。じゃあ依頼ボードをお願い」
「はいはい。ガーディアンズカードをお願いします」
これはキュアガーディアンズが発行している身分証明書。ギルドカードみたいなモノだ。
「え〜っと……ほい」
ギルドカードがそのままガーディアンズカードに変わっている。
「はいはい……え、えええ!? Bランク!?」
どよっ
おい、デカい声を出すな。ていうか、Bランクがそんなにスゴいのか?
「お、おい、あれファイターだよな?」
「ああ、間違いない。ブレードなんて着けてるヤツ、ファイター以外にいるかよ」
……?
「あの、ファイターでBランクってスゴいの?」
「す、凄いどころか、まずいませんよ!? ま、まさか、貴女は〝闇撫〟のサーチさん!?」
……………………はい?
「わ、私がサーチなのは間違いないけど……何よ、その〝闇撫〟って!?」
ちなみに、やみなで、と読むみたいです。
「や、〝闇撫〟!? ど、どうりで……」
「関わるな関わるな、背後から急襲されるぞ」
「だ、たから何なのよ、その〝闇撫〟っていうのは!?」
受付の女の子はキョトンとして、私に説明した。
「何を今更って感じですけど……貴女の功績から考えれば当然の二つ名では?」
「はい?」
「危険宙域〝八つの絶望〟の初の全走破、ランデイル宇宙帝国侵攻戦の際の皇帝暗殺、ブラッディーロア最高幹部〝七首の狼〟の逮捕、そして暗黒宙域での内戦の平定……全て貴女がなさった事じゃないですか?」
何だよ、そのスペースオペラ!?
ていうか、大体は心当たりはあるけど……最高幹部の逮捕?
「あの……ブラッディーロアの最高幹部って血の四姉妹じゃ?」
「何を今更。当時の最高幹部〝七首の狼〟が貴女によって逮捕され、裁判で終身刑になったでしょう?」
終身刑…………ああ、なるほど。絶望の獣を無限の小箱に封印したアレか。
「その妹分だった四人がそのまま昇格し、血の四姉妹と呼ばれる最高幹部になったんですよ。大丈夫ですか? お疲れじゃないんですか?」
「……大丈夫よ……」
精神的に疲れただけで。
「ていうか、何で〝闇撫〟なのよ?」
「貴女の決めゼリフじゃないですか」
は? 決めゼリフ?
「戦う前に『闇に撫でられ狂い死ね』と言うでしょう?」
言ってねえええええええええええっ!! 一言も言ってねええええええっ!
「だからそれを略して〝闇撫〟のサーチ。有名な話ですよ?」
…………せ、精神的ダメージがハンパない……。
「ブ、ブクク……や、〝闇撫〟のサーチ……大層な二つ名だな、プププ……」
「……闇に撫でられ狂い死ね、〝深爪〟のリル」
ぼかっ!
「い、いってええええ! す、少しは加減しろよ!」
知るかっ。
「え、深爪!? 〝深爪〟のリルまで居るんですか!?」
どよっ
あ、あらら? ギャラリーのこの反応は、まさか……。
「ふ、〝深爪〟までいるのかよ!」
「〝闇撫〟に〝深爪〟!? こ、これはヤベえな……」
「な、何だよ、この反応!? まさか私にも……!?」
「ま、まさか〝闇撫〟と共に活躍なさった〝深爪〟のリルまでいらっしゃるとは! 感激です!」
「……よかったわねぇ、リル。〝深爪〟の二つ名、宇宙にまで轟いてるわよ?」
「うあああああ! イヤだああああ!」
……ホントに闇に撫でられ狂い死にそうね。
結局二つ名が効果を発揮し、かなり割りのいい仕事を回してもらえた。よかったよかった。
「ねえ、〝深爪〟」
「うるせえ、〝闇撫〟」
闇に撫でられ、狂い死ね。
い、イタいねえおぐっぶぉう!?