EP7 ていうか、無の否定だとか宇宙の始まりより、まずは……?
ノックアウトしたエイミアはヴィーに任せ、私達はソレイユに会うことにした。
が。
「ね、ねえ、ホントにここがソレイユの?」
「はい、魔王様の仕事場です」
仕事が終わったデュラハーンの案内でソレイユに会いに来た私達は、着いた扉の表示にたじろいだ。
『ペット探しから人探しまで、何でもお気軽に相談してください。ソレイユと愉快な仲間達興信所』
「興信所!? 探偵!? ソレイユが!?」
「……なーにーよー、アタシが探偵やってちゃ変だっていうのー?」
きったないドアを開け、ソレイユが顔を出す。
「変」
「変だな」
「変ですわ」
「変と思われ」
「……変なの?」
最後のは紅美。そういえばソレイユとは初対面か。
「…………デュラハーン、あんたはどう思ってるの?」
「正直に言わせてもらえば、変と言うより違和感がありありです。何故私の方が社会的地位が上なのか」
「それは仕方ないじゃん。私はサーシャ・マーシャと同様にジョーカー的な存在なんだから、目立つ位置にはいられないのよ」
いやいや、マーシャンはかなり目立ちますよ〜……図体的に。
「だからって、どうやって〝知識の創成〟の意思に逆らったのですか?」
意思に逆らって? ソレイユが?
「ちょっと、それってどういうこと?」
「まだ完全に言い切れる案件ではありませんが、前の世界での地位はこの世界にも反映されているようなのです」
「は、はい?」
「つまり本当なら、魔王様はキュアガーディアンズのトップになっていたのでは、と」
「ソレイユが? 何でそう言い切れるの?」
「私と妻の地位です。魔王軍の時と照らしあわせてみれば、キュアガーディアンズはそのまま魔王軍に該当します」
「それって……魔王軍仲間が沢山いるって事ですの?」
「はい。コーミのように、全員がそうだとは言えませんが」
……確かに。紅美は魔王軍とは何も関係ないもんね。
「じゃあ場合によっては、キュアガーディアンズはソレイユの思いのままに?」
「地道に仲間を増やしていって、魔王様が掌握すれば、ですが」
「地道にって……私にしたみたいに、一人一人に治療薬をバケツいっぱいぶっかけるんですか!?」
「……そうなりますね」
めっちゃ手間じゃん!
「……リル、エカテルはこっちの世界でも薬は作れるの?」
「大丈夫じゃねえか? 船の中じゃずっとゴリゴリしてたし」
……要は薬草をすり潰してたのね。
「ならエカテルにもっと手軽な薬を作ってもらいましょうよ」
「……そうだな。効率は上がるだろうしな」
キュアガーディアンズの掌握については、デュラハーンと紅美にお願いして。
「で、ソレイユ。何であんたがキュアガーディアンズのトップじゃないわけ?」
「ま、気軽でいたいってのが一番の理由かな。キュアガーディアンズの総帥、とかなったりしたら、間違いなく似非神の監視下じゃん?」
「た、確かに」
「で、改変が起きた時に術式にチョチョイと手を加えて、アタシと現総帥と立場を入れ替えたんだよーん」
「入れ替えたって……なら今の総帥は?」
「元の貧乏探偵。ちゃんと総帥してくれてるかな〜」
本人めっちゃ戸惑ってるよ!?
「大丈夫です。頼りない方ですが根はしっかりしているようですし、私達がきちんとフォローしますので」
ならいいけど……。
「それで貧乏探偵のソレイユさん、これからどうするつもりなの?」
「どうするって……世界を元に戻すのよ」
「だから、どうやって?」
「それは勿論、≪万有法則≫を使って」
ソレイユの言葉を聞いて、ナイアが口を開いた。
「……そもそも、≪万有法則≫はまだ存在しているんですの?」
「ん? どゆ事?」
「もしもワタクシが〝知識の創成〟でしたら、苦労して創り上げた世界を誰にも壊されたくない、と考えますわ。その場合、世界にとって最も脅威となるのは……」
「……七冠の魔狼みたいな破壊の化身か?」
「いえ。倒せた前例はありますから、そこまでの脅威ではありませんわ」
「なら魔王様ですかんぎゃひぃぃぃ!」
「あんたはこの世界でもデュラハーン化したいわけ!?」
いや、たぶん首が取れたら死ぬ世界だと思う。ていうか、生きていられた前の世界が異常。
「え、えーっとですね、最大の脅威は、再び世界を改変される事。即ち≪万有法則≫の存在ですわ」
「……なるほどね。世界を改変するような荒業なんて、≪万有法則≫に頼るしかないもんね」
「そりゃそうだけどさ、≪万有法則≫を消滅させる事が不可能な以上、〝知識の創成〟が所有してる可能性が大っしょ」
ちょっと待て。二つわからんことが。
「ソレイユ、≪万有法則≫は消滅しないってどういうこと?」
「そりゃあ消滅は不可能でしょ。≪万有法則≫は全ての始まりなんだよ? つまりは世界そのモノを否定する事だよ?」
……?
「難しいかな〜。いい? 有は無があるから否定できる。だけど無は無以上のモノはない。だから無は否定できない。≪万有法則≫は無から有を生み出すんだから、即ち無と同等なんだよ」
???
「無の否定とは有を否定する事。つまり≪万有法則≫を消滅させる事は、世界そのモノを消滅させるのと同じ……という解釈でよろしいですの?」
「ん〜……大体はそんな感じだね」
ま、まあ要は消滅させられな…………あ、そういうことか。
「だからエセ神が自分で持っている可能性が高いってことなのね」
私の言葉でリルも理解したらしく、大きく頷いた。
「確かにな。この世界でエセ神に手を出せるヤツは、そうそういないだろうからな」
そう。エセ神自身が守ってるのが一番安全、というわけ。
「だったら当面の目的は、エセ神を探し出す……ってことでいいのか?」
「そうね、それが一番だと思うよ」
なら……。
「まずは私達がこの世界を知ることが肝心。だから当面は、キュアガーディアンズの一員として働かない?」
「は、働く!? サーチ姉、何で?」
「……リジー、生きるのに必要なのは勇気と想像力、そして少々の……何だと思う?」
「は、はいい?」
「……才能ですの?」
違う。
「愛」
違う。
「……力か?」
違う。
「ちょっと、何カッコいい事言ってるのかな。そんなのお金に決まってるじゃない」
「ソレイユ、正解!」
「お金がどうかしたのか…………って、そうだ。私達、無一文だ」
「「へ?」」
「その通り。さっき確かめてみたけど、魔法の袋に入ってたお金は……元の世界のお金ばかりだったわ」
「……この世界で……使えるはずねえな……」
私達は世界の改変を議論する前に、働く必要性がありそうだ。
生きるのに必要なものは、勇気と想像力、そして少々のお金。
チャップリンの名言です。