EP5 ていうか、エイミア暴走気味?
先に到着した船から、ややフライング気味にエイミアが飛び出してくるのが見える。
「あ、リルが追っかけてきて……あ、引き摺って離れてる」
おもいっきり着岸するのにジャマな場所でピョンピョンしてたので、正直助かりました。ていうか、エイミア暴走しすぎ。
「……気持ちはわかりますけど、少しエイミアがハイテンション過ぎませんか?」
ヴィーの一言でハッとなった私は、通信をリルに送る。
「ちょっと、あんたんとこの船員、もう少し大人しくできないの!?」
『だ、だから私が止めに来たんだよ!『サーチサーチサーチサーチサーチサー』す、少し黙ってろ!』
「いくら友達だからって別のチームなんだから、ちゃんと手綱は掴んどきなさいよ!」
『悪かったよ。とりあえず仕事の話もあるから、一旦お前らのボロ船におジャマするけど、いいか?』
「わかった。マーシャンが案内してくれるから、指示に従って」
『わかった。おら、下がるぞエイミア!』
『サーチサーチサーチサーチサー』
プツンッ
「……エイミア姉、怖い」
確かに。
「どうしたのでしょうか? 彼処まで暴走するタイプではなかったですよね?」
「まあここに来ればわかるわよ。マーシャン、外に会話が筒抜け、なんてことは無いわよね?」
『対策はバッチリじゃよ。二つ隣のミーティングルームを使うといい』
「……先に行ってる。マーシャン、案内お願いね」
ダダダダダダダ!
「サーチィィィ!」
リルを引き摺ってミーティングルームにエイミアが入る。で、扉が閉まったとたんに。
「ィィィ……っと、リル、こんな感じで良かったですか?」
「ちょっとオーバーだぞ……まあおかげで怪しまれずに来れたけど」
「いやいや、怪しさ満点だったけどね……久しぶり、エイミアにリル」
「久しぶりです。異世界に飛ばされて以来ですよね」
「……へえ。エイミア少し落ち着いた?」
「落ち着いてませんよ。ただ、必死に我慢……して……」
「あ〜あ、サーチ、責任取れよ……」
しもた。エイミアやっぱり我慢してたのか。
「サーチ、サーチ…………びえええええええええっ!!」
「はいはい、ごめんごめん。心配かけたわね」
「びええええええっ! ざあ゛ぢい゛い゛い゛っ!」
「うんうん、何が言いたいのが全くわかんないけど、よーしよし」
「……サーチ、ぞんざい過ぎるぞ……」
「はいはい、ちょっとここで大人しくしてようね〜」
泣きわめくエイミアを椅子に座らせると、私はリルに向き直った。
「……さて、リル。この世界になる前の記憶、ちゃんと残ってるわよね?」
「ああ。ソレイユが何か察知して、私達を結界で保護してくれたからな」
「……念のためだけど、あんたの通り名は誰がつけた?」
「………………名も無き盗賊の嫌がらせ」
間違いない!
「ホントに久しぶり、〝深爪〟のリル!」
「深爪言うな! だけど久しぶりだな!」
「ひしゃしぶりぢゃにゃ!」
………………んん?
「な、何よ、このリルジュニアは?」
「リルジュニアって……まあ違ってはないけど」
「じゃ、じゃあホントにリルの子供!?」
「そうだ。名前はターナだ」
「ターナちゃんか〜」
「ちがう! たーにゃ!」
「……?」
「ターナはまだ小さいから、な行がニャ行になっちゃうんだよ」
「あ、そういうことか。大丈夫よ、ターニャちゃん。大人になってもたまにニャーニャー言う人もいるから」
がしぃ!
「……子供の前では止めてニャ?」
す、すいません……。
「ま、まだオムツはしてるの?」
「ああ。なかなかオムツ離れに手こずっててな」
「ま、心配いらないわよ。幼稚園に入るころでもしてる子はいるから」
「よ、ようちえん?」
あー、何でもない。
「それにしても、子供を育てたことがある、みたいな言い方だな?」
「そりゃそうよ。一応私は子育て経験者だからね?」
「は? ……あ、ああ、そういや前世で子供がいたんだったな」
あれ、何で知ってるの? 言ったっけ?
「……せっかく驚かそうと思ってたのに……まあいいか。だから経験者は語る、心配無用」
がしぃ!
「サ、サササササササーチ、こ、こここここここ子持ち!?」
「エ、エイミア?」
「だだだだだ誰との子供なんですか!?」
「え〜と……言わなきゃいけないの?」
「ま、まさかまさかまさかヴィーとの!?」
んなわけあるかっ。
「あのね、私の前世の話よ。リルから聞いてなかったの?」
「言えるわけないだろ」
……確かに。
「あ、何だ。そういう事ですか。あー、吃驚した……」
そんな会話をしてると、不意にインカム? に連絡が入った。
『サーチ、何をしてるの? 外で待ってるんだけど』
ありゃりゃ、紅美が来ちゃったか。
「……まあいいわ。マーシャン、紅美を中に案内してくれない?」
『よいのか? なかなか際どいタイミングじゃが』
「仕方ないじゃない。ついでに紹介もしちゃうわ」
『……わかった』
さーて、リル達を驚かすか。
「今から一人来るんだけどさ」
「ああ。新しい仲間か?」
「私の娘だから」
「「はあああああああっ!?」」
「だから、前世で産んだ私の娘。ちょうど同い年くらいだから、普段は従姉妹設定なのよ。本人には『並行世界の私』ってことにしてあるけど」
「サーチの……」
「む、娘……」
あかん。ショックから立ち直れてない。
「少し驚かしすぎでは?」
「うん、やらかしちゃったわ」
『サーチ、コーミが来たぞい』
うわヤベ!
「リル、エイミア、ちゃんと私達に合わせてよ…………いいわよ、入れて」
プシューッ
自動ドアが開き、紅美が入ってくる。
「やほー、紅美。あんたも元の世界の記憶持ち?」
「そ、そうよ。周りにバレないように立ち振る舞うの、マジで大変だったんだから!」
「紅美はどんな状況だったの?」
「私は店に居たら突然周りが暗くなって、気付いたらオペレータールームに居たのよ」
「よ、よくその急展開で動揺しなかったわね」
「滅茶苦茶動揺したわよっ。思わず叫びかけた時、室長が私に声を掛けてきて」
室長?
「うん。『現状を把握できないのは仕方ないけど、とりあえず落ち着きなさい。私がフォローしてあげるから』って」
「そ、その室長って誰?」
「さあ……。とにかく今までは、室長のフォローのおかげでボロを出さずに済んだわ」
室長ねえ……。
「男? 女?」
「男よ。結構渋めのおじ様よ」
渋めのおじ様? 知り合いにいたっけ?
「何だったら会話してみる? 呼んでみるから」
「う、うん、お願い」
しばらく紅美が話し、室長さんが私に直接連絡してくれることになった。
「……一体誰なのやら……」
『もしもし、聞こえますか?』
「え? あ、はい。聞こえます」
『無事そうで何よりです。お久しぶりですね』
「は、はあ…………だ、誰?」
『わかりませんかね。私ですよ、魔王様に仕えている』
ソレイユに仕えてるって………………あ。
「ま、まさかデュラハーン!?」
『その通りです』
ま、まさかの再登場!
デュラハーン忘れてた。