EP3 ていうか、更に訓練訓練♪
「サーチ姉、ナイフ一本で私と戦う?」
くっ!
「それとサーチ姉……≪偽物≫はどうしたの?」
ニンマリと笑うリジー。リジーのヤツ、気づいてたのね!
「使わないのか、使えないのか……どっちにしても、私の猛攻に耐えられる!?」
げっ! 空飛ぶカースブリンガーが三本追加されてるし!
「行け」
びゅん! びゅびゅん!
「ぎゃあああああ! 冗談じゃないわよおおお!」
「……ねえ、ナイア」
「何ですの?」
「サーチ、以前よりスピードが上がってませんか?」
「ええ。更に動きが洗練されていますわ」
『おそらく無重力へ順応するスピードが高いのじゃろうて』
「あら、陛下。いつからそこに?」
『今々じゃ。と言うより、船の中はほぼワシの視界内じゃよ』
「ま、まさかお風呂やトイレまで!?」
『……風呂はともかく、トイレを覗く趣味はない』
「つまりお風呂を覗くのは否定しない?」
『何を今更。何度も一緒に入っておるじゃろ』
「た、確かにそうですわね……」
「陛下、ナイア。話が逸れてますよ?」
『おお、そうじゃった。この闘技場はな、場所によって微妙に重力が変化するようにプログラムされておる。何せ無重力が普通の世界じゃからの、突然の重力変化がどこで起きるかわからぬ。それらに瞬時に対応できるようになってもらわんといかんしの』
「た、確かに身体が重かったりしましたわ。そういう事でしたの」
「サーチはそれを感覚で感じて、最小限の動きで最大限に重力を活かして、いつも以上のスピードを出しているのですね」
『地味な能力じゃが、確実にそれが差になってくる。ほれ、リジーはもう息切れしておるじゃろ?』
「……しかし……サーチには決定打が放てない」
『それをどうするか、そこがサーチの腕の見せどころじゃな』
「はあ、はあ、はあ……サーチ姉、いい加減にギブアップして!」
「あのね、そんな簡単にギブアップできるわけないでしょ! 私にもメンツがあるのよ!」
……とはいえ、流石に武器がナイフ一本では……あれだけ重装備のリジーには、蹴りは通用しないし……。
「はあ、はあ、こ、これならどう!?」
ひゅん! ひゅひゅん!
ちぃぃ! 段々と私の動きを読んできてる!
ひゅひゅん!
「今! ≪呪われ斬≫!」
ぶぉん!
のおおおっ! 着地点にカースブリンガーがぁぁ!
これは受けないとどうしようも……! 仕方ない、意味不明な両手の小手の丈夫さに賭けてみるか!
がぎぃぃ!
「……へ?」
う、受け止めれた?
「か、硬い!?」
リジーが更に力を込めて……こ、これは受け流すしか……!
ぐりんっ ざす!
「「……へ?」」
こ、小手から……何か生えた!?
「サ、サーチ姉、≪偽物≫できたの!?」
「できないわよ!」
小手から……刃が生えた!?
「……ん? これってまさか……」
がぎんっ!
「こ、このお!」
「はあああああっ!」
ぎん! ぎぃん! がぎぃん!
「サ、サーチ姉の動きに……付いていけない!」
……やっぱり。身体が勝手にこの変な武器を使いこなしてる。
「これが……ブレードS++ってことかあああっ!」
思わずつっこみをいれつつも、小手に魔力を送るイメージが浮かぶ。その通りにすると。
シャキン!
ブレードの根元から私の手の甲に向けて、内蔵されてた剣が生えてくる。長さは短剣くらい。
「やっぱり。ブレードってのは、この小手のことなんだ!」
つまりこれが≪偽物≫の代替品ってことか!
「なら話は簡単! 戦いの中で慣れればOK!」
左右の小手に一本ずつ、突き出た刃が付いていて、右の刃の根元に手甲剣が仕込まれた変わった武器だ。間合いは狭いけど、元々私の得意な武器は短剣だったりリングブレードだったりだから、全然問題はない。
「ていうか、両手が自由だから逆に好都合!」
左右の刃と手甲剣の連撃で、徐々にリジーの手数を上回り始める。
ぎぃん! がぎぃん! がぎぃぃ!
「く、ぐぅぅ……!」
「勝負に焦ったあんたは、体力を使いすぎたわね」
「そ、そんな! わ、私がこんなに早くスタミナ切れを起こすなんて……!?」
「あら、わかってなかった? 私はあんたの攻撃を受け流す傍らで、あんたをある場所へ誘導していたのよ?」
「ゆ、誘導!?」
「そう。あんたは知らず知らずのうちに重力が大きい場所へ誘導されてたのよ」
「そ、そんな!?」
ぎぃん!
「う……」
リジーの喉元に手甲剣を突きつける。
「……私の勝ちね?」
「……ま、参った……」
そういうとリジーは寝転んでジタバタし始めた。
「あ〜〜〜〜!! 悔しい悔しい悔しいいいい! 今回は勝てると思ったのにいいいいい!!」
「ま、これは経験の差ね。ヴィー、リジーを回復してあげて」
「へ? あ、はい。≪回復≫」
アンテナからサイキックが飛び、リジーを包み込む。
「うーん、エフェクトまで変わっちゃってるわね」
「いつもと違うので変な気分です」
体力が回復したリジーはのっそりと立ち上がる。
「さーて、もう一勝負いけるわよね?」
「へ?」
「あんたも理屈はわかったでしょ? なら重力に順応できるように訓練しないと」
「…………うん、わかった。お願いします、サーチ姉!」
「よーし、来なさいリジー!」
こうして模擬戦の第二幕が開始された。
「せい! やあ! たあ!」
ぎぃん! ぎぎぃん!
「だいぶ動きは良くなってきたわね。だけど」
足払い。
「うわぁ!?」
どたんっ!
「足元がお留守ですよ〜……ってヤツね」
「いたた……ま、まだまだあ!」
「そうこなくっちゃ♪」
再び剣のぶつかり合う音が響き渡る。
「はあ、はあ、はあ……」
リジーは完全にノックアウト。私も流石に疲れたわ。
「今日はここまでにしときましょ。リジー、だいぶ重力に慣れたでしょ?」
「はあ、はあ、はあ、、ま、まあ、それ、なりに」
ちょっとやり過ぎたか。
「ヴィー、リジーを部屋へ運んどいてもらえない?」
「わかりました。リジー、立てます?」
「む、無理〜」
「なら引き摺ります」
ズリズリズリ
「え、ちょっとちょっと! 痛い! あだだだだ!! た、助けええええぇぇぇぇ……」
ホ、ホントに引き摺ってったわ……。
「さあーて、私はシャワー浴びてちょっと仮眠してくるわ。マーシャン、母艦が近くなったら呼んで」
『良かろう』
ふぁぁ……疲れた。
「サーチ、一つ聞きたいのですが」
「ん? なあに、ナイア」
「リジーとの訓練……実は自分がその武器に慣れる為じゃありませんの?」
す、鋭い。身体が勝手に使いこなすとはいえ、自分の感覚とすり合わせないといけなかったので、リジーの特訓のついでにやったのだ。
「……ついで? メインじゃないんですの?」
ホ、ホントに鋭い。
サーチは腹黒。