第一話 ていうか、ハクボーンに着いたら立ち直りたい。
「………………」
「サ、サーチ……」
「しー……静かにしておくのじゃ」
「……誰がCなのよ!!」
めこっぐしゃあ!
「ぷぎゃあ!」
「きゃあ! マーシャン? マーシャン!!」
あ……ごめんなさい、つい……。
パンドラーネを出発した私達はハクボーンへと向かった。今回は長旅になる。ダウロ→パンドラーネ間と比べれば、距離はだいたい五倍はあるのだ。
で。
「……船に乗って行けば早いのではないかの?」
「「それだ!」です!」
となり。
ザーン……ザザーン……
……となってるわけです。つまり、今回は船旅なわけでして。
「……はあ……」
……こうも一日中暇だと……。
「……はあ……」
……考えないようにしてても考えちゃうんです…………失ったモノはあまりにも大きい……。
「……はあ……」
悩んでてもしょうがないんだけど……。
「……はあ……」
あ〜あ……バストが一気に二段階アップする技とかないかな〜……。
「……はあ……んあ!」
だ、誰か私の胸を触ってる!?
「ていうか、こんなことするのは……マーシャン!! いい加減にし・な・さ・い!」
≪偽物≫でハンマーを作って!
どごおんっ!
「な、なんだあ!?」
「ふ、船が傾いたぞ!!」
あ、やば。
「体勢を立て直せ!」
「海の藻屑になってたまるかあ!」
甲板が大騒ぎになる。
すごーくまずい!
「おい! 海に女の子が浮いてるぞ!」
あ、マーシャン忘れてた……頭にでっかいたんこぶ作って土左衛門になりかかってる……。
「誰か助けろ!」
あんたが行けよ。
「なんだ無責任な連中だな!」
「あんな女の子が溺れてるってのに……!」
だからあんたらが行けよ!
……はあ〜、仕方ない……よいしょっと!
ドボオン!
ブクブク……
(マーシャン……完全に白目剥いてるわ……)
マジでやり過ぎた。
マーシャンはマーシャンなりに私を元気づけようとしてくれたんだろうけど……方法が良くないのよねぇ……。
(……よし、マーシャン確保)
ザバア!
「ぶはあ! ……はあはあ」
「おーいお嬢ちゃん! ロープ投げっから掴まれー!」
水夫の一人がそう言うと、私の近くにロープの先端を投げ落とす。ロープを掴むと、同時に数人の水夫が引っ張り上げてくれた。
「……自分で蒔いた種だけど……ヤバかった……」
……危うく船を一隻沈めるとこだった……。
「おい! このチビちゃん気絶してるぞ!」
「見ろ、頭の傷……ひでえことしやがる……」
すいません、私です。
「傷の詮索は後だ。まずは傷の手当てだ!」
うん、うやむやのうちに運ばれていって助かった……海上でハンマーは止めよう。
「それにしても……冷たい……」
ビキニアーマーもびしょ濡れ。大蝙蝠の羽根って水含んじゃうのね……。
「ちょっとあんた! その濡れた鎧乾かさないと風邪ひくよ!」
乗り合わせた気っ風の良いおばさんが、私にタオルを掛けてくれた。確かに……カップに水が溜まって気持ち悪いし……。
えーい! 脱いじゃえ!
ブルンッ!
くぅ〜♪
例えCでも揺れる感触たまんない……♪
「とりあえず干すか……あれ?」
何だろう? おばさん含めて女性陣が私を注目してるけど……?
……マーシャンみたいな人ばっかり……なんて悪夢?
「あんた……何なんだい!?」
はい?
「反則じゃないのさ!」
「こんなにお腹は締まってるってのに……!」
な、何すか……?
「「「反則だよ、そのプロポーション!」」」
……?
「……なんで?」
「ぐああ……! しかも天然で!?」
「私がどれだけ頑張っても細くならない二の腕が!」
がしっ
「この細さ!?」
「私がどれだけ頑張っても細くならないお腹周りが!」
ぷにっ
「この細さ!?」
「私がどれだけ頑張っても……」
「あの! もういいですから!」
……それからしばらくの間、部分痩せトレーニングのレクチャーをするハメになった。私の場合はギリギリまで絞らないと『素早さ』に影響でちゃうから、体重管理は必須なのだ。
だけど必要最低限の筋肉も落とさない。このバランスが大変なんだよ。
ん? 何? 胸なんか大きいと邪魔じゃないかって?
……それは別。
「私なんか鍛えすぎて筋肉ばっかりなんだよ」
女戦士さんがバッキバキに割れた腹筋を見せた。筋肉って重いから、鍛えすぎるとスピード落ちちゃうのよねー。
「何だい何だい、筋肉ならまだいいさ。私なんか……」
しばらく女性同士の自虐ネタで盛り上がる。何か非常にいづらい……。
「で、でも私……最近DだったのにCに落ちちゃって……」
……一応私も自虐ネタに参加することにした。
「……はあ〜……何て贅沢な悩みなんだい……」
贅沢な悩み!? わたしゃ真剣だっつーの!
「いいかい! 大きさなんてヤツはね、ある程度はなんとかなるもんなんだよ!」
そういって私の胸を持ち上げた。いきなりなんなのよ!
「だけどね、形はどうしようもないんだよ!」
形?
「張りといいバランスといい……あんた凄いモノ持ってるって自覚ないだろ!」
すごい……モノ?
「あの……そんなにスゴいこと……なの?」
「……あのね、私なんて結構垂れてきてるんだから」
「あたしゃ左右のバランスがねぇ……」
……周りの人達の新たな自虐ネタを聞きつつ、思った。
……意外と……私も捨てたもんじゃないの……かもね。なんか……悩んでた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
「……でも! 私は再び戻ります! 目指せD!」
周りのおばさん達が苦笑いしながら拍手してくれた。
「いいんじゃない? 目指せ目指せ!」
「じゃあ私はGまで行くか!」
「また垂れてくるだけだよ!」
「うっるさい!」
……久々に大声で笑った気がした。
しばらく女同士で騒いで、夜にお酒飲みながらまたバカ話しよう、と言って別れた。
「あー……スッキリした」
なんかすごい解放感だ。久々にパーティとも飲みたいな……ちょうど食堂の前を通ったのでお酒を頼もう。夕御飯のときに飲めるし。
「すいませ〜ん」
「ん? 何だ……のあ!」
え? どうしたの?
「何だよ、うるせ……のあ!」
「おい、頼んだヤツ……のあ!」
「騒がしいな……のあ!」
「のあ! のあ! うるせーよ! ……のあ!」
何なのよ! 人の顔を見て「のあ!」「のあ!」って!
「「「「「ナ、ナイス……ハレ○○」」」」」
ナイス? ○○ンチ?
……て! あ!
「のあ!」
……ブラ着けてなかった……。私が「のあ!」言ってどうすんのよ……。
「サーチ! これ忘れてますよ!」
エイミアが私のビキニアーマーを持ってきた。も少し早くきてほしかった!
「あ、ありがと……」
とりあえずトップを着けて退散した。
しばらくの間、私を見るたびに「のあ!」と言って前屈みになる水夫さんが続出した。
……はやく船から下りたい……。