EP2 ていうか、みんなで模擬訓練。
これはマズい。つまりこの世界はアカデミコの≪万有法則≫によって、改変された世界ってことか!
「ど、どうにかして元に戻さないと!」
「サーチ、元に戻すとは?」
「簡単に言っちゃうとね、この世界はゲーム……つまりアカデミコの妄想を具現化した、さっきまでいた世界よ」
「………………は?」
『ま、まさかこれが似非神の真の目的!?』
「いえ、アカデミコの目的だと思う。だからわざと右足を分離したんだわ……」
『……つまり、右足をワシらと戦わせるように仕向けて、徹底的に弱らせて……』
「自分が主導権を握れる状況を演出したのよ! たぶん賭けでもあったでしょうけどね!」
ドンッ!
イラ立ちを紛らすために、近くの壁を蹴る。
『痛いのう!』
「あ、ごめん」
そういや宇宙船自体がマーシャンだったっけ。
「あ、あの、サーチ? どういう事なのですか?」
「ここは別世界ではありませんの?」
「えーっとね……ちょっと話が長くなるんだけど……」
私は十五分ほどかけて、ヴィー達にゆっくりじっくり説明した。
「……つまり、アカデミコが≪万有法則≫を悪用して、絶対にあり得ない世界へと改変してしまったと……?」
「その通りです」
「そ、それって非常に不味い事ではありませんの?」
「その通りです」
「な、ならどうすればいいの、サーチ姉!?」
「……どうしましょうか?」
「「「………………」」」
何とも言えない空気が辺りを支配する。
『……とりあえず「母艦」と呼ばれるキュアガーディアンズの本拠地へ戻ってみるかの?』
「母艦……あぁ、ゲームの普段の生活の場もそこだったっけ」
『まずはどのような世界なのか、情報収集してみん事には何もできまいて』
た、確かに。
「……わかったわ。マーシャン、とりあえず母艦へ向かって」
『わかった』
「……ていうか、マーシャンは宇宙艦の操作方法わかるの?」
『いや、何となくなのじゃが、何故かわかるのじゃ』
そりゃそうか。そうじゃないと移動もままならないし。
「……という事は、私達自身も戦い方はわかっている……かも?」
「そ、そうかも」
『ならば……びーぶろっく? にある闘技場を使うといいわい』
「と、闘技場!?」
『一階層ぶち抜きで作ってある運動場じゃな。高さはあまりないが、広さは十分じゃぞ』
「……暴れて大丈夫なの?」
『問題ない。その闘技場は特別に頑丈に作ってあっての、多少の攻撃ではビクともせん』
そっか。なら……。
「まずは自分の力を知ることから始めないと、ね」
「そう……ですね」
ナイアとリジーも頷く。それを確認したマーシャンのホログラムの案内で、私達は運動場兼闘技場へ向かった。
「うわあ……結構広いですね」
バスケのコートより少し狭いくらいか。天井は3mくらい。
「マーシャン、これだけの広さがあれば十分よ」
『ならよい。思う存分新たな力を試すが良かろう』
そう言ってマーシャンのホログラムは消えた。
「……何かマーシャンが大人しいと思わない?」
「そうですか? おそらくマーシャン自身も混乱しているのでは?」
ま、まあね。私だってまだ混乱してるぐらいだし。
「……まあいいわ。まずは自分自身の能力を知ることから始めましょう。さっき大体は試したけど、ちゃんとはやってないしね」
「わかりました。ナイア、相手していただけますか?」
「望むところですわ。実戦形式で宜しくて?」
「ええ、構いません」
ナイアはホウキ……じゃなくてサイ・ハンマーを構え、ヴィーは聖術……じゃなくてサイキックをアンテナに集中させる。準備完了みたいだ。
「……始め!」
私の掛け声で最初に動き出したのはナイア。月魔術……じゃなくてサイキックを利用した高速飛行で、一気にヴィーの懐に入る。
「はあああっ!」
ナイアの前蹴りがヴィーの腹部を襲う。
が。
「掴まえました!」
足を掴んだヴィーは、≪怪力≫を活かして持ち上げる……はずが。
「計算通りですわ!」
掴まれている足を軸にして、ヴィーの後頭部に延髄斬りを放つ!
「わ……!」
流石にこれはヴィーには受けられないか!?
がしぃ!
「え!?」
「う、受け止めた!?」
何とアホ毛……じゃなくて髪飾りの触手が動いて、ナイアの蹴りを防御したのだ。
「……成程、そういう事ですか!」
一度でコツを掴んだのが、ヴィーは触手を自在に動かしてナイアを放り投げる。投げ出されたナイアはサイ・ハンマーに跨がり、宙に浮いた。
「その髪飾りが蛇の代わりなのですね」
「そのようです。蛇を操るイメージで自在に動かせます……このように!」
「へ!?」
がぶっ
あ、背後から忍び寄ってた触手に食われた。
「ぅぅーっ! ぅぅーっ!」
ナイアはしばらく足をジタバタさせていたけど、やがて観念したらしく触手に三回叩いた。
「はい、ナイアのギブアップ。よってヴィーの勝ちー」
「やりました!」
うん、大した順応性だわ。聖術……じゃなくてサイキック使わずに勝っちゃったよ。
「はああ……ヴィーさんに久々に負けましたわ……」
「え、久々?」
「よくワタクシとヴィーさんとで、模擬訓練をしておりましたの。いつもはワタクシが優勢なのですが……」
「まあ、今回は不意打ちでしたから」
「負けは負けですわ。次回からはこうはいきませんわよ?」
「はい」
うんうん、美しき友情。
「これで次回のサーチとの添い寝権は、ワタクシのリーチのままですわね」
「か、必ず巻き返します」
ちょっと待て。何を賭けてるのよ、何を!?
「さて、次は私達でござーる」
「あ、そっか。私はリジーとね」
「今まで一度もサーチ姉には勝ててない。だから今回こそは」
「あはは、お手柔らかにね」
……とは言ったモノの、どうしよう。何故か羽扇が無くなっちゃってて、≪偽物≫が使えない。武器といえば……。
「……太ももに巻いてるナイフが二本のみ、か……」
ヤバいなぁ……母艦で武器を買い揃えないと、勝負にならないかも。
「サーチ姉、いい?」
私は右は普通に、左は逆手に持ってナイフを構える。
「いいわよ。いつでも来なさい」
「なら……尋常に勝負!」
リジーはカースブリンガーを発動させると、まっすぐに斬りかかってきた。
「ひょいっと」
少し左に動いて避けると、左のナイフをリジーの脇腹に向け…………ちぃぃ!!
ガギッ!
直感でさらに後退すると、私のいた場所にカースブリンガーが突き刺さっていた。これは……!
「うん、こっちでも≪呪翔斬≫使えた」
呪われアイテムを飛翔させて斬りつけるスキル! てっきりリジーは使えないのかと……!
「使えるよ? ただ直接斬った方が快感だから、あえて普段は使わなかった」
危険な理由だな!
「……だから対サーチ姉用の切り札だったんだけど……まさか避けられるとは」
まあ、ギリギリだったけどね。
ビシビシ……パキィ
「やっぱり、このナイフじゃ耐えられなかったか……」
ブリンガーを逸らすために使ったけど……ナイフが一撃で粉々って……。
サーチピンチ!




