第二十一話 ていうか、あっさりと右足を取り押さえたんだけど、急々々展開!?
ミシミシミシミシミシ
「いいいだいいいっ!」
「ふーん……ならこっちは?」
メキメキメキッ
「うぎょえええええっ!」
「痛いみたいね。ならこーして、あーして」
めきめきミシミシミシばきぃ!
あ、しまった、折れちゃった。
「のぅわああああああああああっ!」
あーあ、まだ一時間も経ってないのか。いい加減いじめるのも飽きてきたんだけど。
「あぎゃあああ! ぐああああっ!」
……ヴィー、早く何とかしてよ。
いくら世界平和のためとはいえ、ただ右足を痛め続けるだけってのは……疲れる。しばらくは「どの角度で締めつけるのが効果的か?」とか「人間の骨の丈夫さを探る」とか言って楽しんでたんだけど……。
「ぐぅわあああ! あがああああ!」
……ただジジィの叫び声を聞いてるだけじゃ、モチベーションがねぇ……。
「……よし、ちょっと思考を変えて……≪偽物≫」
ナイフを作り、その表面に毒を塗る。
「はあ、はあ……こ、今度は何を!?」
「えい」
ぶすっ
「ぐあああああああっ!」
……しばらく経過観察……ヤドクカエルの毒、効果無し。
「次ー」
ぶすっ
「ぎゃあああああああっ!」
……しばらく経過観察……ウミヘビの毒、効果無し。
「次ー」
ぶすっ
「うがああああっ! か、かはああああ!」
……経過観察……。
「ぐ、ぐはあ! い、息があああ!」
……ふむ、絶息蜥蜴の毒には耐性が無いのね。どれくらい持ちこたえられるかしら?
……ミシミシミシ
足の締めつけを強める。
「ぎゃ…………! が…………!」
おーおー、さっきまでとは痛みが桁違いみたいだわ。ついでに毒の効果で呼吸もツラくなってくるから、苦しみはさっきまでの比じゃないわね。
「…………っ! っ!!」
さーて、どこまで耐えられるかしら? ていうか、これでしばらくは暇潰しできるわね。
「……となると、やはり方法は一つですね」
「うむ、目には目を、という訳ではないが、生半可な手段では逆効果じゃろうしな」
「ならその手で行きましょう。ワタクシが事情を話して連れて参りますわ」
「お願いします」
「……サーチ姉、ハッスルしてる模様。似非神の叫び声が留まる事がない」
「……流石に精神的にも厳しいでしょうから、一旦サーチに合流して手伝いましょう」
「あっははははははっ!」
「むぐぅ! むぐ、むぐぅぅぅ!」
「あは、あははは! ひーっひっひっ、は、腹痛い!」
「むぐぐぐっ! うーうーうぅぅぅ!」
「サーチ、その後どうですか……って、何をやってるんですか!?」
ん? あ、ヴィーか。
「何かいい手見つかったの?」
「え、ええ……って、本当に何をしているのですか!」
「へ? わ、私? エセ神の口を塞いでるんだけど?」
正直アンクルホールドを極めたままでいるってのは、体力的にキツい。で、どうやったら≪万有法則≫の発動を痛み以外で妨害できるか、を考えたのだ。
「そしたら≪万有法則≫の名前の通り、きちんと口から言葉として発しないとダメなんじゃないか、って思い至って」
「そ、それで口を塞ぐ事に?」
「ええ。何度か検証してみたけど、しゃべれない状態だと≪万有法則≫は使えなかったわ」
「……どうやって検証したのですか?」
「いや、ただ単に痛がりながらも≪痛みよ、移れ≫とか言ってきやがったのよ。だからわかったの」
いやあ、メチャクチャ痛かったわ。
「あ、ついでに≪万有法則≫の解除方法もわかったわ。痛みのあまりについエセ神の頭を蹴り潰しちゃったんだけどさ、そしたら痛みがスゥーッと消えたのよ」
「つ、つまりは頭部の破壊が?」
「どうもそうみたいよ」
「うううぅぅぅ! うーうー!」
「そ、それよりサーチ、それは何とかならないのですか?」
「ムリ。だってこれが一番確実だもん」
最初は猿ぐつわを噛ませたりしたんだけど、結局噛み千切ろうとするので却下。で、仕方ないのでオリハルタイトの杭を作って、エセ神の口に刺し込んだのだ。
で、そのまんま後頭部に貫通させる形で地面に突き立てて、私は杭のてっぺんで監視がてらマンガを読んで待機していた……というわけ。
「さすがにオリハルタイト製の杭は食い千切れないもんね?」
エセ神の薄い頭をちょんちょんとつついてやると、顔を真っ赤にして睨みつけてきた。お、まだまだ元気だねぇ。
「でもこれで長時間押さえられるわよ」
「……なら好都合ですね。ナイアが戻ってくるまで時間稼ぎができます」
ん? 時間稼ぎ?
「サーチ、ちょっと耳を拝借」
「あ、待って」
普段持ち歩いているナイフを二本取り出すと、あまり描写しない方がいいような方法でエセ神の聴力を断った。
「うぐぅぅぅぅぅぅっ!?」
「サ、サーチ、流石にそれは……」
「要は聞こえなければいいのよ。で?」
「あ、はい。おそらく≪万有法則≫に対抗するには、同じ≪万有法則≫でした方がいいだろう、と陛下が仰いますので……」
「……そっか。マーシャンがそう言うなら、それしかないんでしょうね。つまりはアカデミコを呼びに行ったのね?」
「ええ、その通りですが……普段扱いが雑な割に、陛下の仰る事は信用なさるのですね?」
「まあ……性格に難はありまくりだけど、魔術の知識に関してはソレイユより上でしょうからね」
「……成程。確かにそうですね」
何て言ってる間に、高速で近づいてくる気配を察知した。おそらくナイアだろう。
「あ、おしゃべりはここまでね。エセ神の聴力もそろそろ回復するころだから」
「あ、あれが回復するのですか!?」
「たぶんだけど、不老不死なんじゃないかな」
「……本当に何でもありですね」
「サーチ、お待たせ…………う、うわぁ」
エセ神の惨状を見て、さすがのナイアもドン引きしている。
「……右足よ、随分と弱ってしまったのですね。だから言ったでしょう、術に偏重し過ぎては駄目なのだと」
するとアカデミコがそう呟き、エセ神へと近寄る。
「確かに私と貴方の望んだ世界は違いました。とはいえ、元々は同じ身体だったのです。協力し合えればよかったのですが……残念です」
「ふぐ!? うぐぐ!」
……アカデミコの様子がおかしい?
「貴方は現在、何もできない芋虫と同じ。そのような状態なら…………私が主導権を握るのも容易」
私が主導権って……まさか!?
「さようなら、私」
「ふぐぅぅぅぅぅっ!」
パアアアア…………!
光が……広がっていく……!
「……み、みんな無事!?」
「え、ええ」
「大丈夫ですわ」
「無事と思われ」
「な、何とか」
よし、みんな無事………………へ?
「ヴィ、ヴィー? 頭の蛇は? ていうか、何よその格好?」
「はい……? あ、あれ? ナイアも、リジーも服装が!?」
「な、何ですの、この空間は!? 外が真っ暗ですわよ!?」
…………いや、真っ暗っていうか……窓の外に見えてるのって……。
……地球……だよね?
突然ですが地球編終了となります。今度は宇宙編? いえいえ、新世界編です。
明日はビキ殺は更新は休み。エルジュ君の出番です。




