第二十話 ていうか、≪万有法則≫を使わせない、これに尽きる。
こういう頭でっかちは、とにかく引っかき回して冷静さを失わせるのが一番。
「バーカ、バーカ、エロジジィ。悔しかったら、こっこまでおいで〜♪」
「こ、小娘ぇぇぇぇっ!」
何でもありの相手だから、ちょっとでも冷静になられたらお仕舞い。とにかく隙を見つけて、一発で決めちゃわないと。
「≪百万の炎よ、降り注げ≫」
今だ! 言葉を発しようとする一瞬、私から意識が逸れる。その一瞬を逃す私ではない!
ザンッ!
「げばああああああっ!?」
頸動脈を切断したけど、まだまだ!
ドスッ!
「かっ…………!」
今度は長めの針を右目に突き刺す。当然、超強烈な猛毒付きで。
「…………っ」
しばらく痙攣していたエセ神は、頸動脈から出る血が少なくなっていき……。
「……がふっ……ごふっ。うぐぅ、あ、あーあーあー。ふぅぅ、いきなりやってくれるのう」
き、効いていない!?
「それと頭に叩き込んでくれた毒じゃがの、生憎我には通用せんよ。あと毒に含ませたアレルギー物質、アナフィラキシーショックを狙ったのかわからぬが、それも対処法は知っておるから無意味ぶっ!?」
バラエティでよく使われてるパイを顔面に叩きつける。
「みんな、とりあえず逃げるわよ!」
私の声に反応して、全員回れ右した。
「……ふ……ふふふ……ふふふふ……ふはははははははははっ!」
べちゃ!
「おのれぇぇぇぇぇ、小娘があああ!」
「どこじゃあ! どこへ逃げたぁぁ!」
ぴょんぴょん飛んできたエセ神が、予定通りに輪っかに侵入!
「ちぇい!」
びいいいいいいん!
「のわああああっ!」
よし、見事に一本釣り成功!
「今よ!」
私の声に反応して、待機していたヴィー達が立ち上がり。
べちゃ! べちゃべちゃ!!
「ぶふぁ!?」
再びパイ攻撃、しかも集中砲火!
「…………」
呆気にとられてるエセ神の側頭部に、ドラ○ブシュート!
ばかあああん!
「がっ!?」
「それじゃエセ神が何かする前に、徹底的に袋叩き!」
「「「「おうっ!」」」」
ばがああん!
「ごばあっ!」
ヴィーの鉄拳がエセ神の歯を砕く。
どがあああん!
「ぶべぇっ!」
ナイアのハンマー型ホウキがエセ神の鼻を潰す。
さくさくさくさくさくさくっ
「や、止めるのじゃあああああ!」
リジーの妖刀がエセ神の残り少ない髪の毛を刈り取っていく。
ぼかん! ぼかぼかぼかぼかあん!
「うぎゃああああああ!」
マーシャンの魔術がエセ神の口の中を徹底的に焼く。
ばきがんどごさくさくさくぼかんぼかんぼかあん!!
「ぐ、ぐぎゃあああああああああっ!」
これでもかって言うくらい徹底的にボコってから、全員戦略的撤退に移行した。
「…………ふふ……ふふふ……ふふふふ……ふはははははははははっ!」
ぶちぶちぃ!
「あの小娘共がああああっ!」
「サーチ、どうも顔に攻撃しても意味がない気がするのですが」
「確かに。脳をやられてもぴんぴんしてるわよね」
「サーチ姉、あの足って元々はアカデミコのでしょ? もしかしたら足の方が本体だったり…………と思われ」
……そうか、その可能性もあり得るのね。だったら……。
「もはや我慢ならん! この辺り一体吹き飛ばしてくれる! ≪巨大な業火よ、この山を≫」
今だ!
「低空おしおキィィィィック!」
がづんっ!
「ぎゃあああああっ! す、脛が! 脛があああっ!!」
全人類共通の弱点、脛攻撃!
「行きますよナイア!」
「わかりましたわ!」
ハイヒールを履いたナイアと、なぜかタンスを持ったヴィーも突撃。
ぎゅむっ
「うっぎゃあああああっ!」
うわ、ハイヒールに足を踏まれるのって、マジでシャレになんないのよね……。
ごつんっ!
「あぎゃああああああああっ! こ、小指が! 小指があああ!」
さらに定番、足の小指にタンスの角。この痛さも全人類共通だろう。
「リジー、止めよ!」
「ういっ! えいっ」
ぷすっ
「ぐぎゃあああああああああっ!?」
そして定番中の定番、深爪。
「さあ、少しは効いたんじゃない!?」
「……サーチ姉、やった後に言うのも遅いけど……これってただの嫌がらせレベルじゃない?」
…………確かに。
「け、けど大ダメージは与えてるわよ!」
「確かに大ダメージですが、時間が経てば回復する類のダメージですわね」
うぐ、た、確かに。
「お、おのれええええええええっ!」
うわ、これはヤバい。
「そ、そうだ! サーチ、何かプロレス技で足を痛めつけるのに、ちょうどいい技はありませんか?」
「へ? あ、足を? あるけど……」
「なら今すぐにその技を! 痛みで妨害されれば、流石の似非神も≪万有法則≫を使えないでしょう!」
そ、そうか! すぐにエセ神を捕まえ、がっちりとアンクルホールドを極める。
「あいだだだだだだだだだだだっ!?」
「とりあえずしばらくは安全ですね」
「そのようじゃな。この際じゃ、消し炭にしてやってもよいのぅぶべしっ!?」
「陛下、サーチがいる事をお忘れですの? 巻き込むおつもりですの?」
「わ、忘れておらぬし、巻き込むつもりはない! 其方等、妾に対する突っ込みが厳しすぎるぞ!?」
「それだけの突っ込みをされても仕方ない、と思われる陛下に問題があるのですわ」
「わ、妾が悪いの!?」
「……ていうかさ、いつまでこうしておけばいいの?」
「サーチ姉、やり方教えてくれれば交代する」
「あ、それはダメ。ほら、私の足を見てみなさいよ」
「え? あ、この似非神、サーチ姉に噛み付いてる!」
「しかも絶賛毒を流し込んでるわ。私は≪毒耐性≫があるから平気だけど」
「う……や、止めとく」
「ていうか、この噛みつきは痛いから止めてくれない?」
「ん、わかった」
リジーはエセ神の頭を私の足から引き剥がすと、こめかみ付近から妖刀を刺して地面に固定……って、ええ!?
「ぎゃあああああっ! いだいいだいいだいいいっ!」
「苦しんでろ、バーカ。サーチ姉に噛み付いた報いだ」
う、うわ、リジーの目が据わってる……。
「当然の報いですね」
「その通りですわ」
「酷いには酷いが……致し方ないの」
全員納得済み!? 怖いな!
「とりあえずサーチが時間を稼いでくれている隙に、何か対策を考えましょう」
「「「そうしよう、そうしよう」」」
小学生の学級会のノリだな!
「……ま、いいけどさ、早くしてね。結構疲れるし、何より足が臭いのよね……」
アカデミコは足の匂い対策をがんばるべきである。
エセ神は一応不死身です。