第十八話 ていうか、リジーが語った最悪のシナリオ。
「……本気なの!?」
「はい。もしも実行した場合は、私が責任を取ります」
「はぁ……ちょっと耳を貸しなさい」
「? あ、はい」
……かぷっ
「ひゃはああん!?」
「あのね、そういう血も涙もない策を軽々しく口にしないの。私だったからよかったけど、人によってはドン引きされるわよ?」
「は、はい、すみませんでした……」
ヴィーを解放すると、先に湯船から上がる。
「……だけど、参考にはさせてもらう。ホントにどうしようもなくなったときのために。そのときは、私とヴィーで責任を取りましょ」
「…………はい」
ヴィーは少しだけ複雑そうに笑顔になった。
「あ、サーチ姉来た」
「サーチ、先にいただきましてよ」
当然ながら食べ終わってる……が、律儀に私の分は残してある。
「何よ、遠慮しなくてもよかったのに」
「そうかの、ならワシが貰うぶごぁ!?」
「ご飯の話してんのに、何で鮭に手を出してんのよ!?」
吹っ飛んで動かなくなったマーシャンは放置して、私は自分の席に座った。さーて、いただきまーっす♪
こぽぽっ
「サーチ、お茶ですわよ」
「ありがと」
ズズッ
おう、なかなかの熱さ。けど美味し。
「……よしっ」「く……っ」
あ、そうだ。お手拭きお手拭き……。
「はい、サーチ姉」
「お、ありがと」
「うぐ……」「……よし」
ついでに顔もフキフキっと。さて、いただきまーっす♪
「サーチ、箸ですわ」
「ありがと」
「サーチ姉、箸置き」
「ありがと」
「サーチ、目玉焼きには醤油ですわね」
「いやいや、ソースと思われ」
「いや、私は塩コショウかな」
「「えええっ!?」」
…………。
「サーチ、お代わりはワタクシが」
「いやいや、私が」
「ワタクシですわっ!」
「私と思われ!」
ごんっ! ごんっ!
「「へぶぅ!?」」
「うるさいっ! 全部私でできるから、静かに食べさせなさい!」
「「……は〜い」」
……ナイアとリジーはスゴスゴと下がっていった。
「……サーチ、ツケモノはいただくのじゃぐふぅふぉ!?」
たく、こっちはこっちで油断も隙もありゃしない。
「……何をしているのですか、二人とも」
「……だって、私は……」
「……ワタクシは……」
「ヴィー姉が」「ヴィーさんが」
「「羨ましかったから」」
「……気持ちはわかりますけど、好意の押し付けは逆効果ですよ?」
「うぐ」「あぐ」
「ま、それがわからないようでは、正妻の座は遠いですね」
「うぐぐぐぐ……」「うぬぅ……」
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
アカデミコが食器を片づけだしたので、ついでに聞いてみることにした。
「アカデミコ、あんたは右足の行き先に心当たりはあるの?」
「……正直な話、さっぱりです。何せ見てくれが見てくれですから、どこにも行く事ができないのでは?」
……確かに。片足だけピョンピョン跳ね回ってたら、それだけで大騒ぎだわね。
「なら≪万有法則≫で身体を作ってしまえば宜しいんじゃなくて?」
「いえ、知識を失うというデメリットを誰よりも似非神は恐れているでしょう。そうそう使うとは思えませんね」
「確かに……そうですわね」
ヴィーの見解に唸るナイア。そこへリジーが爆弾を放り込んだ。
「私はむしろ無制限に使いまくる恐れがある、と思われ」
「……へ?」
「ど、どういう事ですの?」
「仮にも〝知識の創成〟と名乗っている以上、溜め込んだ知識は相当な量と思われ。多分、私達には想像もつかない程の量を」
そりゃあ……そうでしょうね。仮にも、仮にも神だし。
「一回の使用でどれだけの知識が失われるかはわからないけど、少しくらい減ったところで、本人は気付かない可能性もあると思われ」
「……そこら辺はどうなの、アカデミコ?」
「……もし、今回私から失われた程度の知識なら……右足の知識量から見れば、微々たるモノでしょうね。おそらく気付かないでしょう」
……なら……!
「まずいわ。何も知らない右足が、バンバン使い始めたら……!」
「そ、それこそ何が起きてもおかしくないですね」
……ガバッ!
その時、昏倒していたマーシャンが跳ね起きた。
「なななな何じゃ、この魔素の異様な動きは!?」
「ど、どうしたのマーシャン!?」
「魔素が信じられない程に凝縮しておる! 場所は……向こうじゃ!」
ダダダダダ!
「お、女将さん! 大変です!」
「何事ですか、お客様の前ですよ?」
「も、申し訳ありません! ですが、空が! 空が!」
「空?」
「とにかく外へ出てみてください!」
「な、何あれ……」
外へ飛び出した私達が目にしたモノは、上空に浮かぶ……もう一つの地球だった。
「ま、まさか似非神が!?」
「こんなことするのは、似非神以外にあり得ませんわ!」
あのバカ……! 地球にあの星をぶつけるつもりじゃ……!
「サーチ! マーシャンが言っている魔素の特異点がわかりました!」
「どこ!?」
「高尾山の山頂です!」
な……た、高尾山!?
「せ、せめて富士山くらいで……」
「…………サーチぃぃ!」
……ん? この声は?
「上よ、上!」
上って……げええっ!?
「こ、紅美!? 何であんたが空を飛んでるのよ!?」
「私が呼びました。まさかコーミが付いてくるとは思いませんでしたが」
ヴィーか。いえいえ、ナイスな判断です。
「イタチーズ! 大変かもしれないけど、私達を高尾山まで送ってくれない?」
『わかりやした!』
「ていうか、場所はわかるの?」
『その為の姐さんでさあ!』
あ、紅美は道案内役か。
「異世界から来たサーチ達には、高尾山なんて言われてもわかんないでしょ?」
わかりますけど何か?
「そ、そうね、お願いするわ!」
「それよりサーチ、私達滅茶苦茶目立ってますけど?」
だよね! 空に浮かんでるんだから仕方がないよね!
「ヴィー、この辺りの人達みんな眠らせて!」
「え!? そんな、急に言われても」
「≪眠れ、そして忘れろ≫」
バタッバタバタ
「ア、アカデミア?」
「くぅぅ……! ドラ○エ2の攻略法を忘れました……!」
「あ、ありがと! それなら私がわかるから、あとでカンペキに教えてあげる!」
「よ、よろしくお願いします!」
「あとマーシャン! この辺りに数発雷を落としてくれない?」
「か、雷?」
「電磁波でカメラやケータイを壊すのよ。いいから早く!」
「よ、良かろう」
さあ、待ってなさいよ〜、右足! 必ず陰謀を止めてやるんだから!
ずどおおおおおん! ずどずどずどずどおおおおおん!!
「…………けほ。だ、誰が私に落とせって言ったのよ……がくっ」
「サ、サーチ!?」
……こうして出発が一時間遅れた。
急転直下。最終決戦は高尾山?