第十五話 ていうか、エセ神の白状によって、新たな局面に突入!
「さあ、捕まえたわよ、エセ神こと〝知識の創成〟!」
「な、何の事ですか? 私にはさっぱり」
「ふ、白を切ったってムダだからね。あんたが〝知識の創成〟だってことはわかってるんだから!」
「だ、だから何の事を言ってるんですか? 私はこの旅館の女将に過ぎませんよ」
「だったら……何で私達の世界の言葉が理解できるのよ!?」
「……………………し、しまったああああっ! いつの間にか『』が「」に変わっていたああ!!」
「さあ、どうなのかしら!?」
女将はがっくりと肩を落とすと……観念したように座り込んだ。
「すみませんが……この話は後にしていただけませんか? 旅館の女将としての業務もありますし、他のお客様もいらっしゃいますので」
「そう言って逃げる気と思われ」
「そのような事は致しません! お客様を放っぽって逃げるなんてとんでもない!」
そう言ってキッと見返す女将の目は……真剣そのモノだった。
「……わかったわ。なら夜中の十二時に部屋に来てもらえるかしら?」
「サ、サーチ姉!?」
「わかりました。必ず」
「……いいの?」
リジーの問いに、私は笑って返した。
「大丈夫よ。これだけ真剣な目をしている人は、仕事を投げ出したりしないから」
「し、信用していただきましてありがとうございます!!」
「勘違いしないでね、全面的に信用したわけじゃないから」
「……それは重々承知しております」
「だからさ、女将さん。宿泊代タダにしてくれたら信用するわ」
「セコッ!?」
コンコン
あ、来たわね。
カチャ ギィッ
「……いらっしゃい」
「お邪魔致します…………ぅゎ」
「あはは、あいつらは気にしないで」
思わず女将がのけ反るほど、部屋の中はヒドい惨状だった。
「サーチ、サーチはどこに行ったんですかぁぁ……ひっく」
すっかりできあがったヴィー。
「わはははははははは! わーっはっはっはっはっはっはゲホゲホゲホッ!」
酔っぱらって笑い上戸になり、咳き込みながらも笑い続けるマーシャン。
「ウフ……ウフフ……ウフフフフフ……」
酔っぱらっても結局呪われアイテムを磨くリジー。
「お、お【汚物注意】えええっ!」
……結局吐くナイア。
いやはや、当事者の私でもヒドいと思えるくらいヒドい。
「いやあ、タダ酒だと思うとついつい盛り上がっちゃって」
「タダじゃありませんからね!? 流石にこれだけの数のアルコール、タダにしたら経営傾いちゃいますからね!?」
け、経営傾くほど飲んでない……よね。でも二部屋埋まるくらいの空ビンは確かに飲み過ぎたか。
「わかったわかった、アルコールの分は払うわよ」
「宿泊代もですから! タダになってませんから!」
ちぇ、ケチくさいわね。
「それで。全て話してくれるんで「サーチぃ!?」「あーっはっはっはっはゲホゲホゲホ!」「ウフフ……ウフフフフフ」「お【汚いなっ】ええっ!」……は、話できるかしら」
仕方ない、場所を変えよう、と言い出す前に。
「≪眠れ≫」
「サーくかぁぁ」「あははははすぴーっ」「ウフフグー」「おえzzzz……」
「…………へ?」
「酔っ払いを相手にしても時間の無駄ですので、少し眠っていただきました」
「眠ってって……まさかっ!?」
「ちゃんと皆生きてますよ。確認していただいて結構ですよ?」
全員の脈をとってみるけど、異常はない。呼吸もしてる。ホントにただ寝てるだけみたいだ。
「……! あんた、何てことをしてくれたのよ!」
「え!? わ、私は何もしてませんよ! ただ眠らせただけですよ!?」
「違うわよ、眠らせたタイミングの問題。トイレで吐いてたナイアが……」
「え!? ま、まさかそのまま……あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
……お察しください。
ナイアを可能な限り除菌洗浄脱臭してから布団に寝かす。
「……さて、これでようやく本題に入れるわね」
「そうですね」
「まずは……ちぇすとおおおっ!」
ごがんっ!
「ぶきゃ!?」
「こんのクソジジイ! 私の下着を返しなさいよ!」
「え、下着…………あ、あああ! あの透け透けのや紐みたいな下着は貴女のぶごばぁ!?」
「触ったな! 私の下着に触りやがったな! 天誅ぅぅぅっ!」
……話は逸れたけど、以前に〝知識の創成〟をブッ飛ばした際に、いろいろあって私の魔法の袋が使用不能になったのだ。そのときに中身の下着一式も行方不明になっていたのだが……想像通りジジイが持っていってたらしい。
ちなみにだけど、スケスケのやヒモみたいなのは、私が気の迷いで購入し、一度試着して封印したモノである。
「ちょ、ちょっと待ってください! 話を最後まで聞いてください!」
「な〜に〜? この件に関して申し開きたいことがあるの?」
「ありません。この件に関しましては、全面的に謝罪して賠償致します」
「あ、そう? ならアルコール代「賠償額と見合いません!」……はい」
女将は正座し直すと、深々と頭を下げた。
「私も女性です。自分の下着を他人に晒される気持ちは痛い程に理解できます。大変申し訳ありませんでした」
「……モノさえ返してくれればいいわよ。ていうか、あんたも一応女なんだね」
「……実はそのことで問題が発生しておりまして……」
問題?
「……どういうこと?」
「はあ……少し複雑な話ですので申し訳ないのですが……実は私の半身が今回の騒ぎの黒幕なのです……」
は、半身?
「私は〝知識の聖剣〟と〝死神の大鎌〟の衝突のエネルギーを使ってこの世界へと渡り、死産となるはずだったこの身体に乗り移る形で転生しました。その後は紆余曲折あって、ゲームの世界では名前を知らぬ者はいない、と言われるまでの存在となりました」
おーおー、自分でそこまで言うかねぇ。
「しかし私は、その現状に段々と我慢できなくなってきたのです。自分は〝知識の創成〟なのだぞ、知識を求めずにどうするのか、と」
あー……やっぱそうなるか。
「しかし私の中には、今の自分を誇る自分もいたのです。最初は小さなモノだったのですが、その思いは段々と強くなっていき……」
「……まさか人格が二つにわかれた?」
「……その通りです。知識を求める欲望はやがて人格を形作り、やがて自我に目覚めました。そして……」
女将は着物をたくし上げて、足を見せる。しかし右足は……義足?
「私の右足を支配し、自ら千切れる形で私から離れていったのです」
「み、右足だけで!?」
「はい。知識の大半を持っていかれた私は、それからもゲーム道を邁進し……そして今に至ります」
「……つまりあんたは、今回の事件の黒幕は、自分から分離した右足じゃないか……って言いたいのね?」
「……はい」
んなアホな!
右足だけで黒幕かよ!