第十四話 ていうか、京都に来たはいいけど、どうやってエセ神探そうか……。
そうだ、京都行こう。
……というわけでもないんだけど、私達は京都駅へと降り立った。
「おうっ! びゅーてぃふる! わんだふる! ぶれいかぶる!」
「リジー、別に日本人が話しそうな英語で話さなくてもいいから。それと、最後のはおかしい」
外見が外見なので「全員英語で会話しよう」と決めていた。その方が外国人っぽくて目立たないだろう、という皮算用で。
しかし。
「お、おう、いっつびゅーてぃふる、ふじやま!」
「ここに富士山はありませんから!」
「お、おう、ざっつ、げいしゃ!」
「確かにげいしゃだけど迎車だから!」
「さむらい、にんじゃはどこですかー?」
「すでに英語でもないわああああっ!」
『……たく、全員しっかりしてよね』
『『『『め、面目ない……』』』』
『ていうか、マーシャンも英語話せたのは驚いたわ』
『ピラミッド内で学習しておったのじゃよ。とにかく暇じゃったからの』
『……ていうか、あのピラミッドってマーシャンのモノだったの?』
『そうじゃよ。あのピラミッド自体に≪空間跳躍≫という魔術が付与されておっての、それを使わせてもらったのじゃ』
『そ、そんな便利なモノがあったの!?』
『……でもないぞ。目標からは大きく外れて、あんな砂漠の、しかも地中に出てしまうしの』
あ、そうなの? カムフラージュのために、わざと地中にあったのかと思ってたよ。
『おまけに散々空間の扉を暴走させ、無関係な冒険者達を巻き込むし……』
『あ、あれはマーシャンの仕業だったのね!?』
『しかもピラミッドの防衛魔術まで暴走して、呼び寄せた冒険者達を操り出すし』
『それもマーシャンの仕業か!』
『おまけにワシまで操るし……』
『操られてたって……あれはマジモンだったのかよ!』
ついついマーシャンとの会話が弾んでしまい。
『……サーチ、ワタクシ達、完全に注目の的ですわよ』
『へ!? し、しまったあ! 目立たないようにしてたはずが、逆に目立ってるぅぅぅ!?』
『ははははは、愚か者がおごうっ!』
『うるさい! バカマーシャンは黙ってろ!』
渾身の膝が決まり、マーシャンは昏倒した。
『さて、タクシー捕まえて市内を回るわよ。マーシャンセンサーが反応するか試したいし』
『……サーチ姉、その肝心なマーシャンセンサー、完全に目を回してる……と思われ』
あ、しまった。
『……えっと、ヴィーさん?』
『…………はいはい』
……ヴィーさんの視線が痛い。
「……何も感じんのう」
小一時間市内をタクシーで回ったけど、エセ神の気配はカケラもなかったそうだ。
「となると、京都市内じゃないのか……まあ、そんな簡単に尻尾を出すとは思えないけど」
「逆に誘い出せませんの?」
「無理でしょう。似非神は隠れたいばかりでしょうし」
そうねぇ、私達がこっちの世界に来てるのはとっくに把握してるだろうし。
「……仕方ない。一旦今夜泊まる旅館に行って、今後のことを話し合いましょう」
全員頷く。
『すいません、りっせいかんという旅館へ行ってもらえます?』
私の日本語を聞いたタクシーの運ちゃんは、運転しながら首を傾げた。
『りっせいかん? 聞いた事がないねえ……漢字ではどう書くんだい?』
『えっと、立つに成功の成、それに体育館の館』
『ああ、立成館かい。最近できた旅館だね』
………………んん?
「ねえねえ、ヴィー、リジー。似た名前の旅館シリーズ、どっかで聞いたことない?」
「聞き覚えがありますね」
「よーく聞いた……と思われ」
おいおい、あの女将の一族、ついに空間を超越したってか?
『お客さん達、あんまり聞かない言葉だねえ。どこの国の人なんだい?』
あ、しまった。あまりの驚きで、向こうの世界の言葉で話しちゃった。
『え、えーっと…………アヴァタニ語です』
『はい? どこの国ですかい?』
知らねえよ。適当に言っただけだよ。
『えーっと、北欧の……北極圏に近い辺りの共通言語です』
『そうですか。私も海外には疎いので、そんな言語があるだなんて全然知りませんでしたわ。あはは』
『あ、あはは……』
知ってたら逆に怖えよ。
『……っと、ここですよ。ここがお探しの立成館ですよ』
ここって……ハデだな! よく京都にこんなハデな旅館建てれたな!
『何でも女将さんが世界的なゲーマーで、その趣味丸出しの旅館なんだそうで』
格ゲーかな? 意味もなくヘコんだドラム缶が転がってるし。
『……あ、ありがとうございます。おいくらですか?』
……改めてみると、つくづく趣味丸出しだな……。
「サーチ、軒下にぶら下がってるヤツって、こちらの世界ではよくあるんですか?」
いえいえ、軒下にサンドバッグがぶら下がってる旅館なんて、普通はありません。ていうか、ここだけだよ。
「サーチ姉、何故窓が割れているのが放置系?」
いやいや、あれは割れてるんじゃなく、そう見えるフィルムが貼ってあるだけだから。ていうか、ゲームと何の関係が?
「珍しいですわね、壁に穴が空いているなんて」
おそらく弾痕をイメージしたモノかと。どうやらサバゲーもイケる口らしい。
「な、何て京都に似つかわしくない旅館なんだ……」
でも予約しちゃったし……仕方ない、諦めて入るか。
ギギギィ〜
と、扉がきしむのはわざと?
『す、すいませーん』
再び日本語。
『………………はいはーい』
女の人の声。若いな。
『すいませーん、予約してたリサーチですが』
『……あ、はいはい、お待たせしました』
あら、意外とまともな格好。露出度満点のチャイナドレスか、迷彩服でくるかと思った。
『すいません、リサーチですが』
『……ああ、はいはい! あの冗談みたいな名字の方ですね!』
……サラッと失礼だな。まあ実際の名字じゃないし、私も適当につけたからいけないんだけど。
『えっと、お名前は?』
『あ、はい、サーチ……じゃなかった、幸です』
『…………へ?』
『で、こっちからヴィー、ナイア、リジー………………あの、どうかしました?』
『リ、リジー……?』
……?
『……で、こっちのがマーシャン』
『マーシャン!? ま、まさかサーシャ・マーシャ!?』
!?
『……ちょっと待って。何であんたサーシャ・マーシャの名を知ってるの?』
『え!? い、いや、それは……』
「マーシャン! この人から反応は!?」
「……ビンゴじゃ。微かではあるが〝知識の創成〟の匂いを感じたわい」
その言葉を聞いたとたんに、女将さんは逃げ出した。が、甘い!
びいんっ!
「ひぎゃ!?」
事前に仕掛けておいたワイヤーに引っ掛かって倒れる。
「さあ、捕まえたわよ、エセ神さん!」
あっさり確保?