閑話 ビキニアーマー紀行 5 あなたの尻尾ください。
前回のあらすじ
ゴキブリを嫌々々倒して持っていくも素材にならないと叱られる。
で、他に素材はないかとお伺いをたてると。
……嘆きの竜の尻尾の鱗が数枚。 ←今ここ
うわあ……めちゃくちゃ厳しいっす……。
さて、どうなるやら……。
「無理だっての!」
ギルドの酒場でリルが大声をあげた。
「嘆きの竜!? ギルドでも『絶対手出しするな』なんて言ってるくらいの超危険種だぞ! 死にたいのか!」
リルがこれだけ戦いを避けるのは珍しい。
……まあ、無理ないけど。
嘆きの竜。
今いる北の大陸の外れにある通称“嘆きの山”と呼ばれる独立峰。そこにこの竜は棲んでいる。
その力はこの世界で5本の指に入ると言われ、その逸話は多数存在する。
大陸中央にある巨大な渓谷は嘆きの竜の爪の跡だ……とか、大陸から少し離れた島の真ん中にある湖は嘆きの竜の足跡だ……とかエトセトラエトセトラ。
前世の島国の有名なお坊さん並みに逸話に事欠かない竜だ。
でもいっぱいある逸話も、さすがに誇張しすぎだし存在するかもあやふやだし全て創作じゃないか……という歴史家もいた。
そう、いたのだ。
今から40年ほど前。シャレにならないくらいアホで贅沢好きの最悪国王がこの“嘆きの山”に攻め入った。
このアホは「存在も怪しい竜を恐れる必要などない。征服して我が国の旗を山頂に突き立てる」と意気揚々と宣ったらしい。
で、実際にどうなったかと言うと。
国王以下全員消滅。国があった広大な平野も空を飛んできた何かによって焼け野原となった。
「げっ! こんな危険生物ヤバすぎでしょ!」と周辺の国々も嘆きの竜討伐に次々と軍を派遣するものの……ことごとく消滅。ギルドから超危険種として接触禁止が言い渡され、新たにSクラスが追加された。ちなみに数いるSクラスの中でも単体でS認定されているのは地獄門のケルベロスと嘆きの竜だけである。
こうして伝説の竜の存在はもんの凄い犠牲によって証明されたのである。
……話戻ります。
「大丈夫! 寝てたら。それ以外の状態ではずぇっったい手は出さない!」
私も死にたくないし。
「いや、それでも……」
「……仕方ありません。元勇者である私からも嘆きの竜にお話してみます」
やた! 元勇者エイミアの協力ゲット!
「おい、エイミア! お前サーチに甘過ぎるぞ!」
「いいんです! 私はサーチには無制限で甘くするって宣言してます!」
うっ、とリルが黙りこむ。
「あ、ありがとうエイミア! 我が便利屋!」
「……あれ? なぜか急にサーチに協力したくなくなってきたんですけど……?」
……ホントに鋭い。
そして1週間。
私達はすぐに出発して“嘆きの山”へ向かい。
さっき麓に到着した。
……まあ来るまでに紆余曲折あったけど……それはまたの機会に。
「……ホントに来ちまったよ……ブルブル」
「寒いの?」
猫だから寒さに弱い?
「ちげえよ! お前らにはわかんねえかな……この異常なプレッシャー……」
プレッシャーね。
「……PPを倍消耗する」
「はあ?」
何でもない。
「とりあえず登ろうか」
登山の準備はOK。
強力な助っ人に頼んであるのだ。
「……近所にお使い行くみたいな感じで言うな。大陸の最高峰だぞ……」
たぶん高さ的には……富士山の1.5倍くらい?
「大丈夫よー。マーシャ!」
「「マーシャ!?」ン!?」
念話水晶に呼び掛ける。
……。
……10分。
「……出ねえんじゃね?」
……。
……20分。
……。
「……遅いですね……」
……。
……あのロリババア……!
『……何奴じゃ! 妾を呼び出すなど……なんじゃサーチか……そうじゃった忘れておった』
やっと出たよ!
昨日のうちに念話水晶で用件伝えておいて正解だったわ。10回に1回くらいしか出ないからねー、マーシャ。
「あ、久しぶりですマーシャン!」
『おお、エイミアか。久しいな……マーシャンという呼び方も久しいな』
いまマーシャンって呼ぶのはエイミアだけだしね。
「よお」
『リルもか。そなたらが勢揃いか……相変わらす仲が良いのう』
「……サーチが嘆きの竜にケンカ売るってんでな。ほっとけなくてよ」
売らないよ。
『フフフ、サーチらしいのう』
売らないってば!
『で? 妾に何の用じゃ?』
「……昨日だいたい話したと思うけど……予定どおりでお願いしたいの」
『≪遠隔魔術≫でそなたら全員≪結界球≫で包めばよいのじゃな? お安い御用という物じゃな……(約束を忘れるでないぞ)』
わかってるわよ……色々な犠牲があってマーシャを引っ張りだせた。エイミアごめんね。
「!!? ……な、何か寒気が……?」
鋭い。
今度マーシャに一晩中付き合ってあげて。
「じゃあお願いねマーシャ。あ、サーシャにもよろしくね」
『うむ、ではな』
そう言って念話水晶はブラックアウトした。黒くないけど。
「結界球って何です? ……わわっ!?」
エイミアが質問してる間にマーシャの≪遠隔魔術≫が届いた。さすがマーシャ。
「わ! わ! 何だか浮いてます」
エイミアが浮かんだ。
ちなみに≪結界球≫てのは……浮かぶハムスターボールってイメージで。結界に包まれてるから中は温度・気圧とも一定で快適なのだ。
「え〜と……今日は濃い青ね」
「へー……結構大胆だな」
「ふ、2人して真下に来ないでください!」
なんてジャレてる間に私達も≪結界球≫に包まれた。
「これで楽々ね。じゃあ行くわよ……≪結界球≫の操作は体で覚えてね」
「おーけー」
「……ち、ちょっと待って……わっ!」
グルリとエイミアが反転する。慣れるまでは操作大変なのよねー。
「エイミア丸見えよ……だいたーん」
「きゃ!見ないでください! わっ! わっ!」
「……遊んでないで早く行くぞ」
浮かんだままだから早いこと早いこと。
寒さも高山病も一切お構い無しで進む。
4時間足らずで山頂に到着した。
「到着したはいいけど……竜なんていないわね?」
嘆きの竜の姿はどこにもない。
相当巨大な竜なんだろうな、と想像してたんだけど……。
「いや……いる。プレッシャーがハンパない。うぅ、立ってるだけでキツいわ……」
リルがめっちゃ怯えてる。そんなにヤバいのか。
「!! サーチ、リル! 後ろに人が!」
ひ、人!?
「誰だよ! なぜここに人間が」
『人間じゃないよ』
ドクンッ
…………うわっ。
何、今の。
……まるで……素手で心臓掴まれたような気分……。
『ごめんね。プレッシャー強すぎたかな?』
脂汗を流しながら……ジリジリと首を動かし。
後ろを見る。
そこには。
「……はじめましてだね。私が嘆きの竜です……2代目だけどね」
……可憐で巨乳な和風ガールがいた。