第十三話 ていうか、まずはエセ神を探さないと。
「まずは似非神の身柄を確保せねばならんのう」
「でも似非神は人間に転生したのでしょう? どうやって探すんですの?」
「む、それは……」
うーむ、ウン十億人から一人を探せってか? 砂漠の中からダイヤ一粒探すようなもんよね。
「サーチ、似非神は何の為にこの世界に渡ったのじゃ?」
何のためって言われても…………あ、そうだ、アレだ。
「……ミレニアム懸賞問題」
「み、みれ? 何じゃそれは?」
「えっとね、要は超難解な数学の問題で、いまだに証明されてない六つの問題のことよ」
「それが似非神と何の関係が?」
「エセ神との戦いのとき、話の流れで『私が出した数学の問題を解いたら、大人しく負けを認める』ってことになったのよ」
「……〝知識の創成〟の名は伊達ではないぞ? よく勝てたのう」
「そのときに出した問題がこのミレニアム懸賞問題の一つだったの。この問題って元々は七つで、一つは証明されたのよ。それを問題に使わせてもらったわ」
「……因みにじゃが、どういう問題じゃ?」
「……宇宙ってわかる?」
「う、うむ、大体は」
「……例え話なんだけど、ドラゴンの尻尾に超長いヒモをくくりつけて、そのまま宇宙を一周してもらうの」
「……はい?」
「で、戻ってきたドラゴンのヒモを引っ張り戻して、無事に回収できたら、宇宙は丸かったってことでしょ?」
「……???」
「それを数学で証明しようってこと。これがミレニアム懸賞問題の一つ、ポアンカレ予想よ」
「………………よ、ようわからぬが……それを証明して何の役に立つんじゃ?」
「知らないわよ。何かの役に立つからあるんでしょ。私も前世の仕事の関係で丸暗記しなくちゃならなくなって、たまたま覚えてたから問題として使っただけよ」
内容はまるっきり意味がわっかりません。
「……興味本位じゃが、答えはどのような?」
「半日かかるけど聞きたい?」
「結構じゃ」
そうして。私も長々と書くのはイヤだし。
「……ちょっと待ってください。そのミレニアム懸賞問題というモノは、数学の中でも難易度は高いのですよね?」
「たぶん」
「でしたら……」
ヴィーはパソコンに向かい、高速で検索を始める。
「そのような高難易度の問題に関わる人間は、自ずと限られてきます。それだけでもかなり狭まるのでは?」
た、確かに。
「……もしかして、実際に問題を一つ解いてたりでもしたら……」
「可能性はある……と言いたいところですが、残念ながらポアンカレ予想以外は証明されていません」
そっかあ……。
「ですがミレニアム懸賞問題を集中的に研究している機関は幾つか見つけました。その内部にいる可能性はあるかと」
……だいぶ狭まったのは事実だけど……それでも決め手がないなあ。
「……マーシャン、魔力の波長で探ったりは?」
「できない事はないが、似非神本人の波長がわからぬとな」
「あ、それなら無問題。エイミアは元勇者である以上、何らかの影響は受けてると思うから」
「サーチ姉、エイミア姉は向こうの世界」
………………し、しまった。
「それならば問題ない。妾はエイミアの波長を熟知しておる故にな」
「…………な、何故熟知しているんですの?」
「ん? それはエイミアには随分とお世話になっておるからのう」
そういや何かあるたび、エイミアを人身御供に捧げてたっけ。
「……お世話って……本当に陛下(笑)は最低ですわね!」
「下衆の極みですね。流石は陛下(笑)」
「陛下(笑)、陛下(笑)、陛下(笑)」
「や、止めるのじゃ! ならば毎回人身御供をしてきたサーチにも責めはあろう!」
「あ、サーチはいいのです」
「サーチは除外ですわね」
「サーチ姉は許す」
「な、何故じゃああああ! サーチには人望の欠片も無いじゃろがぅぼふぃ!?」
「……人望が無くて悪かったわね」
「……皆サーチの膝が怖いからですよ」
「本当に痛いですわ」
「痛いと思われ」
「あ、あんたらねえ……ヴィーの丸飲みも、ナイアのハンマー型ホウキも、リジーの呪い攻撃も大概よ!?」
「……ひゅー、ひゅひゅひゅー♪」
「ヴィー、鳴らない口笛で誤魔化さない」
「ぴー♪ ぴぴーぴー♪」
「ナイア、鳴ればいいってもんじゃない」
「ア○ロンなら呪われアイテム綺麗にできます♪」
「リジー、それ違うから! 毛糸だから!」
何だかんだ言いつつヴィーは検索を終了し、いくつかの候補にしぼった。
「ドイツにフランスにアメリカ……あ、京都にもあるのね」
「ロシアにも有名な研究所はあります。世界中ですね」
うーん、どこから当たるべきか。
「……ねえ、サーチ姉。似非神がこっちの世界に現れた時、何処に出たんだろうか?」
「うーん……マーシャン、わかる?」
「日本じゃよ。厳密に言うならば、東京都心じゃな」
「日本。なら、近場にいる可能性が高いと思われ」
「……そうか。異世界から来たばかりのヤツが、わざわざ遠方に拠点を作るとは考えにくい……」
「ならば話は簡単じゃ。まずは京都じゃな」
相手は腐っても神。イタチーズを使って移動すればバレる可能性が高い。
「……ということで、今回は新幹線で移動します」
「な、何ですの、この珍妙な鉄の固まりは!?」
「日本で一番早い鉄道ですよ。ほらナイア、さっさと乗りますよ」
「ううむ、この乗り物に呪いは感じられない」
「わはははは! 楽しみじゃのう、楽しみじゃのううう!」
……めっちゃ目立ってるじゃん……。
「……サーチ、あの偉そうなおチビちゃん、大丈夫なの?」
「紅美、一応おチビちゃんは止めてあげなさい。ああ見えて女王陛下(笑)なんだから」
「(笑)が全てを表している気がする……」
今回は流石に危険なので、紅美はお留守番。イタチーズが厳重に警護してくれるそうなので、一人でも大丈夫だろう。
「しかしこんな事が私にできるなんて」
そう言う紅美の手の平に光が輝く。
「ちょっと紅美! 場所を考えて魔術を使いなさい!」
「あ、ごめんごめん」
一応護身用にと、マーシャンが紅美に魔術を教えたのだ。実際に使えるようになったのは≪灯り≫くらいだけど。
「コーミ、其方は筋が良い。独学でも精進すれば、更に使いこなせるようになろうぞ」
「うん、わかったよ。努力してみるね、おチビちゃん」
「おチビちゃん言うでない!」
「あははは。じゃあ気を付けてね」
「うん、行ってくる」
「うわあ、早い凄い早いい!」
「うわあ、凄い早い凄いい!」
動き出してしばらくすると、リジーとマーシャンは「子供かっ!」とつっこみたくなるくらいはしゃぎだし。
「サーチ、京都が楽しみですね」
ヴィーはすっかり観光気分に浸り。
「お、【見せられないよ】えええっ!」
ナイアは相変わらずだった。あーあ、静かな旅とは無縁だわ……。
初新幹線。