第十二話 ていうか、対〝知識の創成〟で、マーシャンから情報を聞き出す。
「ねえサーチ」
私が皿洗いをしていると、テーブルを拭いていた紅美が。
「んー、何ー?」
「昨日の夜、変な夢でも見たの?」
カチャン!
うわ、ヤベヤベ。割っちゃうとこだったよ。
「さ、さあ。覚えてないなあ」
「そうなの? てっきり起きてるのかと思うくらい、大きい声だったから」
ガチッ!
あああ、欠けちゃった! この皿は使えないなあ、トホホ……。
「ち、ちなみに、紅美はどんな声を聞いたのかしら?」
「え? 私がトイレに起きた時に、まずは『あああああっ!』って叫び声が」
ガチャン!
うわ、割れちゃった!
「サ、サーチ、大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫……で、ほ、他には?」
「あんまり大きな声だったから、気になって部屋に入ったら……」
……ごく。
「サーチったら、【チョメチョメ】に手を入れて【ぴーーーっ】を【ごにょにょにょ】しながら『イ【きゃあああ】ぅぅ』とか言い出して」
ドンガラガッチャアアアアン!
「サ、サーチ!? お皿や茶碗、全部割れたんじゃない!?」
「紅美! 今の話、誰にも話してないわよね!?」
「え? う、うん。でも……」
でも!?
「入口の廊下でマーシャンさんがスタンバってるけど……」
ダダダダダッ! がしぃ!
「ぐえっ!」
速攻でマーシャンの背後に回ると、≪偽物≫でワイヤーを作り、首に巻きつける。
「マーシャン、何か聞いてたのかしら?」
「わ、ワシは何も知らんよ!」
「聞いてたわね?」
キュイッ
「ぐえええっ! すいません聞いてました聞いてました!」
「……どの辺りから?」
「こ、後半だけです! 後半だけですじゃああ!」
キュキュイッ
「ぐえええええっ! 全部聞いてました、すみませんんんっ!」
キュイイイイン!
「うぐえええええええ…………がくっ」
ぶらーん ぶらーん
「ママママーシャン!?」
「紅美、しばらく放置で」
「ほ、放置って……あああ、顔が紫色に!? ヴィー! ヴィーちょっと来てええええっ!」
「……紅美、治しておきましたよ……二割程は」
「に、二割って……」
「陛下の扱いはそれくらいでいいのですよ」
リジーもナイアも無言で頷く。
「か、仮にも陛下と呼ばれてる方の扱いが、あまりにも雑すぎると思うんだけど」
「いいのですよ、あれくらいで。陛下の人望が原因なのですから」
リジーもナイアも無言で頷く。
「……何となくマーシャンって人がどういう人か、わかった気がする……」
紅美も悟ってくれたようなので、今度から遠慮なくマーシャンをシバき倒せます。
「……さーて、話はずいぶんと逸れちゃったけど、今後の対応よね……」
「……まさか再び〝知識の創成〟と関わるとは……迂闊」
「そういえばサーチ達は、あの似非神と関わりがあったのですね」
「あぁ、そうでしたわね。暗黒大陸以外では創成神が奉られていたのでしたわね」
そっか、今のメンバーだと〝知識の創成〟と直接関わったかのは、私とリジーだけなのよね。
「……っていうか、エセ神はともかく、創成神って?」
「さあ。ワタクシ達の間では〝知識の創成〟は魔神に列なる者、とされていて、皆『創成神』と呼んでいましたわ。其なりに信仰もされてましたわよ」
ふうん……。
「で、どのような関わりでしたの?」
勇者と〝知識の創成〟との関係について説明した。
「……勇者であるエイミアが創成神の依代だったと……。ヴィーさんが似非神と呼ぶのも頷けますわね」
「元々私達魔王軍は、似非神と敵対していましたので」
「それを差し引いても似非神で十分ですわ」
違いない。
「でもサーチの話ですと、似非神はこの世界に転生してるのですわね?」
「そのはずよ。とはいえ、アイツが言ってたことが事実なら、って前提でだけど」
「……探すのは不可能なりか?」
なぜ急にコ○助?
「姿かたちが同じってことはないだろうから……」
「神と呼ばれた相手ですわよ? 相当な力を持ってますわよね?」
「たぶん。ただソレイユにかなり力を削られた姿しか見てないから、実際にどれくらいの力を持っていたかまでは……」
「全盛期の〝知識の創成〟は、ソレイユに引けを取らぬくらい強かったよ」
背後から聞こえた声。それはマーシャンの声だった。
「……あ、そうか。陛下(笑)なら知っている……と思われ」
「ちょっと待てリジー! (笑)は何じゃ、(笑)は!?」
「あら、マーシャンにはちょうどいい形容詞じゃない」
「お、お主らはワシを何じゃと思っとるんじゃ!」
「「「「……陛下(笑)」」」」
「う……うわあああああああん!」
あーあ、泣いちゃった。
「はいはい、ごめんごめん。続きを話してくれないかな、マーシャン」
「ぐす、えぐ……も、もう陛下(笑)とか言うなよ?」
「はーい、言わない言わない」
たぶん。
「あんた達もお願いね」
「「「はーい」」」
あ、全員の顔に「たぶん」って書いてある。
「本当じゃな!? 信用するぞ?」
「はーいはい、だから早く続きを話して」
「う、うむ……」
返事をするとマーシャンは女王モードに切り替わった。
「……まだ七冠の魔狼がこの世界を荒らし回っておった頃、今は魔王城となっている居城にヤツは籠っておった」
「ち、地上が荒らされているのに、何もしなかったんですの!?」
「あの者の興味は自身の知の探究のみ。地上がどうなろうと知った事ではなかったのじゃろうて」
「や、やっぱり似非神で十分ですわね!」
「その点は妾も同意する。自らを犠牲にして七冠の魔狼を封印したサーシャを、助けようともしなんだ外道じゃからな」
マーシャンに外道扱いされるんなら、エセ神こそ真の外道だわ。
「外道から外道認定されるんだから間違いない、と思われ」
大きく頷くヴィーとナイア。今、パーティの心は一つになった。
「こ、今度は外道扱いか! お主らは妾を何じゃと………………もう良いわ、はあ」
あ、マーシャンが諦めた。
「で、じゃが。あれだけの力を持った七冠の魔狼が、一度も立ち入れなかった場所が二ヶ所ある。一つは〝嘆きの山〟。そして、もう一つが……」
「エセ神が籠っていた城……ってこと?」
「そうじゃ。あの者は守備に長けておるのじゃよ」
守備かあ……。
「陛下、サーチが話していたような手段で空間を渡った場合、その力には影響は及びますの?」
「……転生した以上、全盛期よりは遥かに力は削がれたはずじゃ」
「……なら安心ですね」
「……ただ、この世界で新たな力を得た可能性はあり得る」
新たな……力?
「転生とは魂を納める身体の入れ替えじゃ。それによって失う力も有ろうが、得るモノもある……これはサーチ自身が一番わかっておるじゃろ?」
私は小さく頷いた。
地球編も佳境です。