第十一話 ていうか、マーシャンを捕まえた私達は、とりあえず東京へ。
黒いイナズマ現象でほぼ炭と化したマーシャンを連れて、私達はピラミッドを出た。
ズズズズズズン……
イタチーズが掘ってくれた穴から、大量の砂ぼこりが舞い上がる。
「……ねえ、これって……」
「ええ。間違いなくピラミッドが崩壊しましたわね」
マーシャンを確保できたからいいか。
「……よし、とりあえずは日本に引き上げましょ。マーシャンを回復してもらわないといけないし、私達も疲れたしね」
「では烈風鼬を呼びましょうか」
「ええ、お願い」
マーシャンとリジーはイタチーズと帰ってもらい、私はナイアのホウキに乗せてもらうことに。
「……ねえ、もうちょっと早く飛べないの?」
「静かになさいませ! サーチが増えた分、魔力も集中力も倍いるんですわよ!」
「あ、そうなの?」
少しいたずら心がウズいた私は、後ろから手を回して先っぽを……。
きゅっ
「はあああああああん!」
え、あれ、ちょっ。
「ナ、ナイア、ホウキが真っ逆さまに墜ちてますよ?」
「あはあ……もう駄目ですわ……」
しまったあああ! 刺激が強すぎて、ナイアが逝っちゃってるぅぅっ!
「ちょっと! 海、海! もうすぐ海だから正気に戻って!」
「……サーチ、愛してますわ……」
「わわわわっ!? ナイアはもっとヤバくなって……ぎゃあああああああああっ!」
どぼおおおおおおおんっ!!
……ここで私の意識は……暗転した。
…………。
『……オキヨ、ワガオンジンヨ……』
……んん……。
『……マダダメージガノコッテオルカ? ナラバシカタナイ。スコシテアラデハアルガ』
きゅっ
「はあああああああん……って、何すんのよ…………って、あれ?」
『メガサメタカ、ワガオンジンヨ』
「……へ? あ、あれ?」
どこ、ここ?
『ココハワガイブクロノナカヨ』
ワガイブクロ? えっと……まさか我が胃袋!? ってことは!
「あなた、もしかしてテラロドン!?」
『シカリ。ワレハオヌシラカラ「カイオウてらろどん」トヨバレルモノナリ』
スゲえ……胃袋から愛を込めてってヤツか。
『オヌシラニハセワニナッタ。ユエニワレハオヌシラニミカタスル』
「ど、どうも」
『トリアエズオヌシラヲトウキョウトイウバショニトバシテヤロウ』
ちょっと待て。トバシテヤロウって、まさか……。
『ソノマサカ』
ブブッ!
いきなり吸い出されたかと思ったら、いきなり空中へ……ぎゃあああああああああっ!
『アンズルナ、チャクチハナントカナルモノダ』
なるかあああああっ! 後先考えてから吐き出せええええっ!
ヒュルルルル……
うわあい、富士山とスカイツリーのコラボが見えてきたぁ。ていうか、衝突コースまっしぐらなんですけど!?
「ぎゃあああああああああっ! ぶつかるぶつかるぶつかるぅぅぅぅ!」
がしっ!
「わわっ!? あ、ナイア!?」
「い、一体何がどうなってますの!? 気が付いたら、サーチと一緒に東京上空とは!?」
「な、何でもいいからとにかく体勢を立て直して!」
「わ、わかりましたわ!」
ナイアは悪戦苦闘しながらも、どうにかホウキに私を座らせて、そのままスカイツリーのてっぺんに着地した。
「ふ、ふはああああ……死ぬかと思った……」
「な、何があったんですの? 急に周りの景色がピンク色になった事しか覚えてませんわ?」
……それは私に先っぽを摘ままれたから? それともテラロドンの胃袋の中だったから?
うーん……桃色展開はめんどくさいから、テラロドンの胃袋説を採用します。
「さ、さっきまでテラロドンに食われてたからね」
「そうなのですか、テラロドンに。生還できたのですから喜ぶべきですわね……って、ええええええええっ!?」
大阪の新しい喜劇並みにお約束の反応だな!
「た、食べられ、く、食われて…………ええええええええっっ!?」
「落ち着いて聞いてね。私達は……その……不慮の事故で海に落っこちて」
「…………はい?」
「だから、海に落っこちて」
「その前です。不慮の事故とは何なんですの?」
うわ、ヤバい。
「えーっと…………きゅ、急にナイアが意識を失ったのよ」
「ワタクシが? 何故ですの?」
「うぅぅ……聞くな!」
「わ、わかりましたわよ」
よし、強引ながらも誤魔化せた。
「で、二人して気絶したんだけど、それを通りかかったテラロドンに助けられて」
「す、凄い偶然ですわね」
……確かに。宝くじに当たる以上の確率だわね。
「で、口から吐き出されて宙を飛び、もう少しでスカイツリーに衝突する……ってところで、ナイアが気がついて……」
「……この現状ですの? 体験したワタクシでも『正気か?』と聞きたくなりますわね」
全くよ。テラロドンに助けられるのも奇跡、吐き出されてスカイツリーまで来ちゃうのも奇跡、直前でナイアが気がついて助かったのも奇跡。
「……偶然は三度重なればば必然、て言うけど……ま、今回は流石に偶然でしょうよ」
「ですわね。さて、サーチ。そろそろ帰りましょうか」
「そーね。ヴィーが首を長くして待ってるだろうし」
「……もう少し遅くてもよかったですわね」
「ん? 何か言った?」
「……何でもありませんわ」
……何でため息をついたのかしら。
その夜。
無事に拠点に着き、復活したマーシャンを交えてドンチャン騒ぎしたあと。
ガチャ ガチャガチャガチャ
『か、鍵が開かない!? うっ、くっ!?』
二重三重四重にロックした扉の外で、ヴィーが四苦八苦する声を聞きながら、早めにベッドに潜り込んだ。
「……すぅ……」
……すると……。
『……キコエルカ……キコエルカ……ワガオンジンヨ……』
んん……。
『ワレハカイオウてらろどんナリ……キコエルカ……』
……うるさいなぁ……。
『……ガブ』
「いってええええええええ……って、な、何?」
『ダカラワレハカイオウてらろどんナリ』
「ま、またテラロドン!? い、一体何なのよ!?」
『ワレハオヌシイガイニモセワニナッタ。ユエニ、ホカノモノタチノネガイモジョウジュスル』
「ああ、ナイアやヴィーやリジー? だったらあの子達の夢に出てよ」
『スデニネガイハキイタ。ユエニワレハココニイル』
へ? 願いを聞いた?
『デハハジメヨウ。サンニンノネガイハオナジデアッタ。ユエニドウジニトリオコナウ』
同じ願い?
『サンニンノネガイハ……オヌシト【いやん】スルコト』
………………はい?
『ダカラテットリバヤクドウジニトリオコナウ。サンニントモ、コノモノハウゴケヌユエニ、スキニスルガイイ』
え、えええ!? ちょ、マジで動けない……!
「……サーチ……」
「愛してますわ……」
「……と思われ……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何で三人とも素っ裸……ど、どこ触って……ちょ、いや、いや、いやああああああああああっ!!」
……チュンチュン
……朝。重い身体を起こす。
「……最悪な夢だったわ……」
半分ふらつきながら台所にいくと。
「おはようございます♪」
「おはようございますですわ♪」
「おはようと思われ♪」
……三人とも、妙にツヤツヤしやがって……!
「……みんな元気そうね」
「「「いい夢を見ました♪」」」
『テンバツ』
うるさいっ!
桃色天罰。