閑話 魔王様とエイミア様の合体技
エカテル視点になります。
あれから私達は随分時間がかかりましたけど、ようやく碑文を発見する事ができました。
魔王様とエイミア様とで湖から引き上げた碑文は、私とリルさんとで綺麗に泥や水草を洗い流します。
「う〜、めんどくせぇ。何で私が泥落としなんか……」
「仕方ないじゃないですか、リルさんは泳げないんですから」
「そ、そういうエカテルだって、水に入りたがらなかっただろ!」
「当たり前です。薬が湿気って使えなくなっちゃうじゃないですか」
そんな会話をしながら碑文を磨いていると、着替えた魔王様とエイミア様が戻ってみえました。
「あー、さっぱりした」
「本当に。即席温泉ありがとうございます、ソレイユ」
「いえいえ。なかなか良いモノを見せてもらったし、フッフッフ」
「そ、そういうスケベオヤジみたいな視線は止めてくださいね!?」
「え〜、いいじゃない。お互いに身体の隅々まで知り尽くした仲じゃん」
「ひ、他人が聞いたら誤解されそうな事を言わないでください! もう!」
「え〜、誤解って何の誤解? アタシは『一緒にお風呂に入った仲』って意味で言ったんだけど?」
「そ、それは……」
「え〜、まさかサーチとへヴィーナみたいな仲を想像した?」
ま、魔王様、その話題は禁句……!
「サ、サーチとヴィー…………び、びええええええええええっ!!」
バチ、バチバチ
「リ、リルさん逃げましょう!」
「あ、ああっ!」
「ちょっ、エイミア落ち着いて! サーチとへヴィーナの事なんて、今更って話でしょ!?」
ああ、火に油を……!
「びえ!? びええええええええええっ!」
バリバリバリバリ! ズドオオオオオン!!
「あきゃああああああああああああっ!!」
……エイミア様のフルパワー≪蓄電池≫が炸裂し、流石の魔王様も。
「…………こほ」
全身真っ黒焦げになって、仰向けに倒れました。
「きょ、強烈だったわ……。まさかこのアタシがノックアウトされるなんて……」
「最近サーチさんと会話もできてないせいか、特に禁断症状が酷いんです」
「サーチ中毒なのっ!?」
私は魔王様の傷の手当てを終わらせると、今度は飲み薬を取り出します。水で溶いてコップに注ぎ。
「はい、これをどうぞ。痛みが和らぐはずです」
「はいはーい…………に、にっがああ!?」
「良薬は口に苦し、て言いますでしょ。その代わりにすぐに痛みが引きますよ」
「苦い! 苦々々々…………あれ? い、痛くない?」
「エカテルの薬師としての腕は超一流だ。死んでても生き返るぜ」
基本的に戦闘では前衛のリルさんは、一番手傷を負います。私にとっては一番の常連さんですね。
「スゴいよ、エカちゃん! アタシの部下に欲しいくらい!」
エ、エカちゃんって……。
「はい、これで治療は終わりです」
「ありがと〜」
「銀貨二枚です」
「高っ!? ていうかお金取るの!?」
「ああ。毎回私も取られてるよ」
「薬草って仕入れ値が高いんですよ」
「ほ、本気なんだ…………わかったわよ、はい」
「ありがとうございます……って、何ですか、これ」
「アタシの羽根だよ」
「羽根? 私はお金の方が……」
「アタシの羽根は一枚で金貨一枚くらいになる…………ちょっとエカちゃん? 何で目を¥マークにしてアタシに近寄ってくるのかな?」
「……は!? わ、私ったら何てはしたない真似を…………あ、でも、魔王様か寝ている間にこっそりと一、二枚くらい…………いやいや、今のうちに眠り薬を吹き掛けて……」
「……ちょっとリル、エカちゃんってこんなキャラだったの?」
「知らねえよ。でも前に『薬師はお金がかかるんです』ってグチってたな」
……それ以降、魔王様は私の前で羽根を広げられる事は無くなりました。何故でしょうか?
「……概要はわかったけど、何も反応無し。もう使えないね、これ」
「「「……は?」」」
「この碑文に刻まれてるのは、一回しか効力を発揮しない贋作。魔力の欠片も感じないから使用済みね、これ」
「し、使用済みって……」
「つまり役立たず。折角の私達の苦労も骨折り損だったってわけ。あ〜あ」
魔王様が座り込む。それに釣られる形でエイミア様もリルさんも座り込んだ。
「……な、何でですか。これでサーチを助けられるんじゃなかったんですか!?」
「落ち着きなさい、エイミア」
「これが落ち着いていられますか!? サーチを救い出す手段が無くなっちゃったんですよ!? 他に手段があるんですか? この贋作に頼る意外に手があるんですか? ねえ、教えてよ! ソレイユ、落ち着いてって言うんなら教えてよぉぉ!」
「エイミア、ホントに落ち着け。ここでソレイユに噛みついたって仕方ないだろ」
私も何かエイミア様に声を掛けた方がいいだろうか、と思って立ち上がりかけた時。
コトッ
自分の足元に転がっていた石に、何か文字が書かれているのを見つけました。
「何です、これ……………………げっ」
「ん、どうかしたのか、エカテル」
「え、あ、いや、その、み、見ない方が……わひゃあ!」
無理矢理私を退かして、石の文字を読み始めるリルさん。あああ、段々と怒りのオーラが……!
「……マ……マ……マアアアアアアシャアアアアアンンン!!」
「うわビックリした! ど、どうしたのリル!?」
「何かあったんですか!?」
あああああ、一番見せてはいけない二人にぃぃ……!
「何これ? ふむふむ……………………………エイミア、ちょっと読んでみなさい、これ」
「な、何ですか…………へ? …………な、な、何ですってええええええええええ!?」
やっぱり魔王様もエイミア様も怒っちゃったあああああっ!
……ちなみに、石にはこう書かれていました。
『わざわざ湖から引き上げた方へ。ワシが先に頂いたのでな、今回は諦めるがよい。まあ、何と言っていいやら…………お疲れじゃ(笑)』
……どう考えても、陛下ですよね……!?
ブルルル、ブルルル
ん? 念話?
「はろはろ〜♪」
『……もしもし』
エ、エイミア!?
「久しぶりじゃない! 元気だった!?」
『…………大変申し訳ありませんが、マーシャンに代わってください』
「マーシャンに? 一体何が……ひぇ!?」
ヤ、ヤバい。今のエイミアには触れちゃいけない。
「マ、マーシャンね。今すぐ代わります」
『サーチ』
「な、何?」
『……必ず助けますから』
「う、うん……」
すぐにマーシャンに念話水晶を渡すと、ナイアとリジーの手を引いて駆け出した。
「な、何!?」
「何ですの!?」
「絶対に後ろを振り返っちゃダメよ!」
「へ、後ろ……ひぃ!」
「後ろを…………ひああああ!」
「だから後ろを振り返っちゃダメだって行ったの! すぐに離脱するわよ!」
「「了解!」」
……その後、黒いイナズマが複数回目撃されたが、何が起きたのか知っているのは……エイミア自身と、黒焦げになったマーシャンだけであろう。
これ以降、マーシャンはエイミアに指一本触れることはなかった。
黒いイナズマが〜♪