第九話 ていうか、マーシャンの自白は真っ黒でした……。
「≪万有法則≫はな、完全なモノと不完全なモノがある」
「何それ?」
「要は本物と偽物じゃよ。妾が最初に見つけた碑文は偽物じゃったらしく、一度の使用で術は使えなくなったわ」
「偽物ぉ!?」
「おそらくは贋作じゃな。本物を見知っておる者が真似て創ったのじゃろ」
どうやったら魔術の偽物が創れるのか、そっちの方が興味あるわ。
「その贋作は新大陸にあっての、それを用いて迷宮創造……すなわち闇深き森を創ったのじゃ」
「……何でサーシャさんの復活を望まなかったの?」
「その当時はサーシャの魂だけを取り出せる状況ではなかったからのう……まだ五つ首じゃったしな」
「頭減るの!?」
「サーシャが内部から徐々に封印していたんじゃよ。永い時間を経てな」
「……じゃあ、最終的には頭は一つに?」
「そうなれば七冠の魔狼は完全にサーシャの支配下に置かれたじゃろうな」
……ちょっと待ってよ。
「それってさ、ムリヤリ七冠の魔狼を復活させる必要なかったってこと? 時間をかければ平和的に解決したんじゃないの?」
「……それで済むなら簡単じゃ。何故サーシャは時間をかけて封印を行っていたと思う?」
「……さあ……」
「簡単じゃ。サーシャと七冠の魔狼の力の差が圧倒的じゃったからじゃよ。正直、サーシャ一人でよくあそこまで封印できたモノよ」
「そ、それって、もしサーシャさんが負けてたりしたら……?」
「当然七冠の魔狼は即座に復活していたじゃろな」
……ってことは、私達が七冠の魔狼を完全封印したあの日まで、世界はずっと滅亡の危機に瀕していたわけか……。実はサーシャさん、大変ありがたい存在だったんだねえ……。
「そのような危険な状態の七冠の魔狼から無理矢理サーシャを引き剥がせば、どうなるかぐらい想像できようが」
間違いなく復活、ヘタしたら暴走ってとこか。
「じゃから妾も慎重に事を進めたのじゃよ」
「それで闇深き森を……」
「墓守りという意味もあったが、美徳装備を配置する意味もあったでの」
「へ? 何故美徳装備を配置? 一ヶ所に集めておけば楽と思われ」
リジー。
「落ち着いた?」
「う……ご、ごめんなさい」
「まあいいわ。話は最後まで聞きなさいね」
「……はい」
「……で、美徳装備の話だっけ。それは私がわかるわ。勇者の選別のためでしょ?」
「そうじゃ。よくわかったのう」
「ヘタに一ヶ所にまとめておいて、勇者でもない人の手に渡ったら目も当てられないからね」
「あ、そうか。勇者だったら〝八つの絶望〟くらい楽勝だから?」
ま、まあ楽勝とは言えないけど、そういうことよね。
「では話を≪万有法則≫に戻そう。新大陸にあった贋作は、一度使ったらもう使えなくなってしまった。じゃから再び≪万有法則≫を探す事にしたのじゃが、そんなに簡単に見つかるモノではない」
そりゃそうでしょうね。
「じゃが最近になって暗黒大陸にある、という情報を仕入れてのう。それで」
「ちょっと待ってね。その暗黒大陸の情報って、まさかエリーミャさん?」
「ほ、ようわかったのう」
「エリーミャさんが婆様と呼んでた人がいたのよ。エリーミャさんから見ての婆様なんてマーシャンくらいしかあり得ないじゃない」
「……ソレイユは候補にあがらんのか?」
「ソレイユが婆様呼ばわりされてキレないわけがない」
「た、確かに」
そこまで話が進んだとき、リジーが再び妖刀に手をかけた。
「……マーシャン、まさか私達を暗黒大陸に行かせる為に、わざとエイミア姉を拉致させた?」
「ちょちょちょっと待て! それはない! 妾は一切関与しとらんぞ!」
「本当に?」
「本当じゃ…………いや、少しだけ関与したか」
チャキッ
「くくく首に当たっておるぞ!」
「当ててんのよ」
……リジー、何でそれを知ってるの?
「か、関与したと言っても、拉致そのモノに関与してないわい! エイミアに危険が及ばぬよう、妾の手の者を護衛に付けていただけじゃ!」
「マーシャンの手の者?」
「……エリーミャの長女、エィミィじゃよ」
「え、それって…………エイミアの叔母さんってこと?」
「そうじゃ。侍女に紛れてエイミアの護衛をしとった。専属の護衛が逃げた後はエィミィが専属になったようじゃの」
逃げた専属の護衛って……あ、エカテルね。
「……まーさかマーシャンの手の平の上で踊らされていたとはねぇ……」
「いやいや、踊らされておるだけの人物が、絶望の獣封印や暗黒大陸再統一を成し遂げたりはせんじゃろ」
「え? 暗黒大陸を統一したの、私?」
「結果的に、ではあるがの。近々連合王国として一つになるそうじゃぞ」
へえ。
「初代首班はグリムとかいったかの」
ぶふぅぅぅっ!
「ど、どうしたサーチ!?」
「グ、グリムってサーチ姉の元彼おぐぅふぉ!?」
「違うっ! 断じて違うっ!」
「そうかの。露天風呂でなかなか良い雰囲気に」
さくっ
「ぎゃ、ぎゃあああ! 頭が二割斬れたああ!」
「覗いてたのか、クソマーシャン! 斬る! 切る! killkillkill!」
「サーチ落ち着きなさいな!」
「……おほん、お騒がせしました」
「み、鳩尾が……うぇぇ」
「頭が、頭がああ!」
ちょっと力が入りました。
「さて、話が再び逸れたけど……アントワナの件で、マーシャンは本物と思われる≪万有法則≫が違う世界にあるってことを掴んだのね?」
「頭がああ!」
「……縫ってやろうか?」
「じょ、冗談じゃよ、もう治っておる」
「で、どうなの?」
「……その通りじゃ。暗黒大陸にあると噂されておった贋作の調査中に偶然耳にしての」
「なるほどねぇ……それじゃ暗黒大陸の贋作を持ち出したのもマーシャン?」
「……はあ、もうお見通しのようじゃな。そうじゃよ」
「……それを使って……私達をこの世界に飛ばしたの?」
「…………その通りじゃうひょい!?」
あ、マーシャンがいた場所に妖刀が。
「サーチ姉、成敗していい?」
「ちょっと落ち着いて」
ずどがあああああん!
な、何?
「はあーっ、はあーっ」
「ナ、ナイア?」
「……ワタクシが成敗致しました」
へ? せ、成敗って……あああ!
「マーシャン!? ちょっと、潰れてるわよ!?」
「このまま埋葬しましょう」
「そうしようそうしよう」
あ、あんたらねえ……。
マーシャン、生き残れるか。