第八話 ていうか、私の尋問だとマーシャンが昇天しかねないため、リジーに交代。
「いいいいきなり何を言い出すのよ!?」
「しかもがっつり四発おごふぉべ!?」
「だから何を言い出すのよ!?」
焦りのあまり、かなり鋭い蹴りが鳩尾に入る。
「こひゅー……こひゅー……」
「わわわわ! む、虫の息になってるしー! ヴィー、すぐに回復を……しまった、いないんだったあああああ!!」
「……ん?」
「? どうかしたの、ヴィー?」
「今呼ばれた気がしまして……ちょっと失礼しますね……………………あ、もしもし、ヴィーですが……は? ナイスタイミング? マーシャンが虫の息? 一体何があったのですか? …………あぁ、またサーチが加減を忘れたのですね。わかりました、遠隔魔術で回復します」
ヴィーに言われた通りに念話水晶をマーシャンにかざす。すると淡い光が発生し、マーシャンを包み込んだ。
『……くぅ……!』
ヴィーの苦悶の声が響く。苦労させてごめんね……けど艶っぽい。
「……くふぅ……は、はあ、はあ、はあ……」
「あ、マーシャンの呼吸が戻った。脈も安定している」
よ、良かったあ!
「ヴィーありがとお!」
『はあはあ……い、いえいえ……それよりサーチ』
「ん?」
『一晩かけての耐久【いやん】でお願いします』
「はあああっ!? ちょっと、私が死んじゃうわよ……って、ちょっとヴィー! もしもし、もしもし!?」
「ふぅぅ……流石にこの距離は疲れました」
「…………ぅぁぁ……」
「……? どうしました、コーミ?」
「ひゃふ!? ななな何でもありません!」
「……ははぁ……【いやん】に反応したのですね?」
「そ、そんな事ないし! 私は至って平静だし!」
『ねえねえ、【いやん】ってなーに?』
『何それ何それ?』
『教えてよ教えてよ!』
「えええ!? え、えーっとね……」
あら、烈風鼬の子供逹の耳に入ってしまいましたね。少々面倒くさい事になってしまいました。
「……コーミ、後は任せますね……どろんっ」
「え゛!? ちょっと、ヴィー!?」
『ねえねえ』『ねえねえ』『ねえねえ』
「あ、う、あ…………だ、誰か助けてええええええっ!」
「……最悪だ……いや、マーシャンが助かったんだから最良?」
「何をブツブツ言ってるんですの?」
「え、あ、何でもない」
さ、さーて、尋問を再開しますか。
「それじゃマーシャン、あんたの目的はあくまでサーシャさんの復活なのね?」
「うむ。其方が【ぴー】したお陰で、詳しい生態情報も残ったからのう」
「……どういうことかしら?」
「じゃからの、【ぴー】の最後に【ぴー】を【ぴぴぴー】したじゃろ? だからサーチの中に【ぴー】が残っておってぶげひょおっ!?」
「ぴーぴー言うなぁぁ!!」
勢いで側頭部にキレイに蹴りが決まる。
「ぶくぶくぶく……こひゅー……こひゅー……」
「し、しまったああ! また殺っちゃった……!」
「…………っ!?」
「どうしたの、ヴィー」
「……またまた嫌な予感が…………コーミ、そのまま作業を続けていてください」
「わ、わかった」
「……もしもし、サーチですか? 何か嫌な予感がして……は? またですか? あのですね、遠隔魔術はMPの消費が激しいのですよ? わかってますか?」
「……はい、ごめんなさい。すいません。はい、お願い致します」
……ヴィーが怖い。
言われた通りに再び念話水晶をマーシャンにかざす。淡い光がマーシャンを癒していく。
「…………はふぅ………はあ、はあ……」
よ、よし、息を吹き替えした。
「ありがとお! ヴィー愛してる……ってあれ?」
『……これ私でも話せるのかな? ヴィーは疲れてぐったりしてる』
紅美の初念話はヴィーのピンチヒッターでした。
「……ヴィーには『ごめんね、うふ』って伝えておいて」
『わかった……え? あ、わかった……サーチ、ヴィーが「激しくなりますよ」って伝えてって』
止めてっ。立てなくされるのはもうイヤですっ。
「……うむむ……は!? ワ、ワシは一体何を!?」
お、マーシャンが目を覚ました。よーし、尋問再開ね。
「ちょっと待って、サーチ姉。尋問は私がやる」
「リジー?」
「サーチ姉がやったら、あと何回マーシャンが瀕死に陥るかわからないから」
……反論できない。よろしくお願いいたします。
「……それじゃマーシャン、私が質問する」
「う、うむ。それよりリジーや」
「何?」
「何故ワシは呼び捨てなのじゃ? 『〜姉』を付けるとか、陛下と呼ぶのが筋じゃろが」
「敬称を付けるに値しない」
「酷い!?」
「それより質問。何時から動いていたの?」
「……此度の件でか? 其方等に出会う前からじゃ」
「……へ?」
「妾が闇深き森を創ったのも、全てはサーシャを甦らさんが為の諸行よ」
「ちょ、ちょっと待って。どうしてサーシャさんを復活させるのと、ダンジョンを作るのが繋がる? 理由がわからないと思われ」
……サーシャさんを復活させるために必要なのは……復活の魔術に……あ。
「そういうことか……! そうだったのね……!」
「……サーチや。全てを理解したのじゃの」
マーシャンの襟首を掴んで睨んだ。
「……あんたが……あんたが七冠の魔狼復活の黒幕なのね!?」
「えっ!?」
「ディ、七冠の魔狼と言えば……史上最悪の凶獣と呼ばれた!? まさかそれを陛下が!?」
「…………」
マーシャンは目を閉じて、私になすがままにされている。それを見て殴る気力が失せ、手を離す。
トサッ
そのまま座り込んだマーシャンは、地面に座り込んだまま動かない。
「ど、どういう事、サーチ姉!?」
「……元々七冠の魔狼は、サーシャさんが内部から大罪逹を押さえ込むことで封印していたの。それが安定した姿が三冠の魔狼だった。そうよね?」
マーシャンは力無く頷く。
「でも逆に言えば、三冠の魔狼が健在の間はサーシャの魂も解放されることはない……」
「……ワタクシもわかりましたわ。つまり陛下は、夫のサーシャの魂を解放する為に、七冠の魔狼が復活するように仕向けた……という事ですわね?」
「………………そうじゃ」
マーシャンの肯定の返事を聞いたリジーが、妖刀を抜く。
ガギィン!
それを私が褐剣で受ける。
「止めなさい、リジー。マーシャンを斬ったところで何の解決にもならないわ」
「けど……! だけど……!」
「だから落ち着きなさいっての。いい? マーシャンはマーシャンなりに備えてはいたのよ」
「え?」
「美徳装備の一つはマーシャンが持ってたでしょ?」
「……あ、あれって偶々じゃ……?」
「んなわけないでしょ……ねえ、マーシャン」
「……何もかもお見通しなのじゃな」
「まーね。もっと言えば、暗黒大陸でもいろいろと事件に絡んでたわよね?」
「……そうじゃ。妾は更なる≪万有法則≫を必要としたのでな」
……更なる?
マーシャンが黒幕?