第三話 ていうか、雰囲気が暗くなっちゃったので、夕ご飯兼恋バナ祭りにするんです!
「「…………」」
サーシャ・マーシャと名前が出たとたん、私もナイアも黙り込んだ。
「……そうだったわね……言われるまで気づかなかった私がバカだったわ……」
砂漠に埋もれたピラミッド、あれ自体がおかしかったんだ。あんなダンジョンみたいな迷路付きピラミッド、構造的にもこっちの世界には存在し得ない。もし実際にあったとしても、ピラミッド自らの重さに耐えられずに崩壊しているだろう。
「私達は操られていると思ってたマーシャンをフルボッコにして、腹いせに石棺に放り込んだ。それこそがマーシャンの狙いだったのね……」
こうすることで、マーシャンは堂々とこっちの世界に残ったのだ。
「で、では、今回の事件の黒幕は……女王陛下だと言うのですか?」
「そう考えると辻褄が合うと思わない、ヴィー?」
ちょうど厨房に顔を出したヴィーにも意見を求めた。
「……動機は?」
「元のダンナ、サーシャを復活させるため」
「そ、そんな。回復魔術を極めた陛下なら、甦生も可能では……」
「それを聞きたかったのよ。例えばだけど、ヴィーにはできる?」
「わ、私ですか!? 無理です」
「……ソレイユでも?」
「……魔王様でも……成功するかは微妙かと」
「ということは、マーシャンの場合も確率は100%じゃないわよね? 失敗した場合って何度も挑戦できるモノなの?」
「いえ。状況にもよりますが、チャンスは一度切りでしょうね」
「……そんな確率の低い魔術に、自分が大切に思う人の復活を託そうとするかしら? より確実な手段を選ばない?」
「つまり陛下は、確実にサーシャという方を復活させる為に、≪万有法則≫を求めたんですの?」
「……まあね。私はそう思う」
私の説明を聞いたナイアとヴィーは、その場で黙り込んだ。
「ちょっと! 深刻な話をしてる暇があったら、手を動かしてくんないかな!!」
…………あ、料理中だったの忘れてた。
「ごめんごめん、話の続きはご飯のときにしましょうか」
そう言って私はカレー粉作りを始めた。
「「「…………」」」
「…………何か暗い雰囲気と思われ」
私とヴィーとナイアが醸し出す重苦しい空気で、いつになく静かな夕ご飯になった。
「しまったああ……夕ご飯後に話せって言うべきだった」
頭を抱える紅美。うむ、これは場を盛り上げないとダメか。
「じゃあマーシャンの話はあとにするとして、紅美」
「何よ」
「彼氏はいるの?」
「ぶふぁ!?」
「き、汚いですわ!」
私の質問に食べていたモノを吹き出した紅美。咄嗟にナイアが料理を避難させて事無きを得る。
「気を付けてくださいませ!」
「ごめんごめん」
流石はナイア、反射神経が鋭い。ああ見えて、私やリルに並ぶくらいの武芸の達人なだけはあるわ。
「ケホケホ! な、何でそういう話になるのよ!」
「だって、暗い話はイヤなんでしょ? だったら明るい話をするしかないじゃない。で、女同士で明るい話って言ったら……恋バナよね♪」
「そうですわね。ワタクシ達も恋バナは飽きるくらいしましたわね」
「たまには違う話も聞いてみたいですね」
「コーミの恋愛模様、興味津々と思われ」
全員ノってきたことにより、追いつめられる紅美。
「プ、プライベートな事はノーコメント!」
「あら? あらあらあ? ウブな紅美ちゃんはいまだに彼氏いない歴=年齢なのかしら?」
「し、失礼ね! 私だって彼氏の一人や二人くらい!」
「へえええええ。みんな聞いた?」
「聞きました」
「聞きましたわ」
「ばっちりちり」
「ふぇ!?」
「だったら歴代彼氏のあらましを細かく白状してもらいましょうか」
「何で私だけ!?」
「あら、知りたければ私のも教えてあげるわよ。初恋から恋愛遍歴、初体験から何もかも」
「ははは初体験っっ!?」
え、この反応って……まさか。
「こ、紅美ってもしかして処ふごごごっ」
「そ、そっから先は言っちゃ駄目!」
あらら、図星でございましたか。
「じゃあ彼氏もまだだったり?」
「い、いや、だから一人や二人は……」
……つまり二人目ってことか。
「ま、いいんじゃない。恋愛なんて人それぞれ、ペースも然り、よ」
「う、うん……ちなみにサーチは?」
……前世は含めないほうがいいか。桁が一つ二つ上がっちゃうし。
「男は一人……いや、二人か。女も二人かな」
「あ、そうなんだ。男が二人で女が………………女ぁ!?」
「あはは、冗談よ冗談」
「そ、そうよね。ビックリしたぁ……」
……ホントだとは言えない。
「それじゃヴィーは?」
「付き合った人数は……多分五千は越えてますね」
「は?」
「経験人数はその半分くらいでしょうか」
「はい?」
「初めての相手は五千年前ですので記憶が定かではありません」
「はいいっ!?」
「……というのは冗談。一桁増やして言いましたよ……年齢以外は」
「な、ちょ、え!? ヴィーって何歳なの!?」
「五千を越えた辺りから数えていません。メドゥーサは基本的に不老不死ですので」
「え゛え゛え゛!?」
あ、うっすら笑ってる。それも冗談か。
「では次はナイアですね」
「そうですわね」
「ちょっとちょっと! ヴィーの話の内容が濃すぎて、頭がパンクしそうなんだけど!?」
何故パンクする? それを言うならショートでは?
「ではワタクシ、ナイアの恋愛遍歴ですが……」
あ、ナイアの「恋愛遍歴」って言葉に反応して、紅美が興味津々に。
「……付き合ったのは一人。初体験もその殿方ですわ」
「……………………えっと?」
「以上ですわ」
「ヴィーに比べて淡泊すぎ! 逆にその相手が気になっちゃう!」
紅美もからかわれるタイプね〜。ナイアも目が笑ってるから、おそらく冗談だな。
「う〜……じゃ、じゃあリジーは?」
「ふえ?」
我、関せずといった感じで黙々とカレーライスを食べていたリジーが、紅美に呼ばれてスプーンを止める。
「リジー、今までに付き合った人数は?」
「突き合う?」
「その突きじゃない!」
「尽き合う?」
「どんなシチュエーションだよ!」
「憑き合う?」
「怖いわ!」
「じゃ、月会う?」
「どうやってよ!?」
「わかったわかった」
スゲえ。リジーにまでおちょくられてる。
「付き合った人数は0。だから経験もナッシング」
うん、これはホントだな。
「そ、そっか。良かったあ、仲間がいた」
紅美、それを傷の舐め合いって言うのよ。
「そういえばさ、リジーって何歳なの? 私とタメくらいかな?」
「私? 今年て四歳」
「…………は?」
「四歳」
「よ、四…………う、うわあああああああん! リジーにまでからかわれてるぅぅぅぅっ!」
紅美は泣きながら飛び出していった。
「……はあ、ヴィーもナイアもからかいすぎよ」
「申し訳ありません」
「つい」
「……サーチ姉、私は嘘を言ってない」
……リジーが一番質が悪いのよね。ホントのことだけに。
ヴィーが一番謎。