第二十二話 ていうか、私達がテラロドンの腹に収まってたとき、紅美は何をしているのかな〜……。
……今頃サーチ達は、他のイタちゃん達と一緒に戦ってるのかな〜……。
『あははは!』『きゃははは!』『あはははは!』
「君達〜、遊ぶのはいいけど、夢中になりすぎて見つからないようにね〜」
『『『はーい!』』』
悪いな〜……とは思いつつ、私はイタちゃん達を連れて露天風呂に来ている。色々と考えたい事があったからだ。
「異世界かぁ……まさかとは思ったけど、イタちゃん達が喋るのを見せられれば、信じるしかないわよね……」
前々からおかしいとは思ってたんだ。肝心な場面になると突然意識を失ったり、急激な睡魔に襲われて寝ちゃったりする。で、気が付くと事件が解決した後なのだ。
「……それにイタちゃん達って、やたらと人間臭いというか……」
テレビに見入るイタちゃん、綺麗好きなイタちゃん、ラジオ体操をするイタちゃん。最初は妙な芸を覚えてるのかと思ったけど、流石にイタちゃんの子供達を見てると変に思えてくる。
「……あの子達、寝言を言うって気付いてないわよね」
最初に『コーミ姉ちゃん……むにゃむにゃ』とか言われた時は、マジで吃驚したわよ……。
「……まあ、サーチ達がきちんと話してくれたから、ようやくスッキリしたけど」
でもサーチって、まだ何か隠してそうなのよね……。
『コーミ姉ちゃん、コーミ姉ちゃん!』
「ん? なーに?」
『向こうからね、変な気配を感じるの!』
向こう?
「……何処?」
『こっちこっち』
イタちゃんが連れてきたのは、露天風呂の脇にあるタヌキの置物の前。
『これ。これが変なの』
そっか。タヌキの置物の事なんか、知るわけがないわよね。
「イタちゃん、これは日本には沢山ある置物なの」
『違うの、違うの! ちょっと待ってて』
そう言うとイタちゃんは数歩下がり。
『……イタチ流しんくー斬りー!』
両手を振り下ろして白い何かを放った。
『うわわわわっ!?』
するとタヌキの置物はジャンプしてイタちゃんの一撃を避けたのだ!
ズバン! メキメキメキ……ズズゥン!
タヌキの置物の後ろの木が真っ二つに分かれて倒れた。
「な……!? タ、タヌキが動いた!?」
『ふぅ〜い、危ない危ない……コラコラ、そんな物騒なもん放つんじゃない。危ないだろうが』
「タヌキが喋った!?」
『何だよ、イタチが喋るのが普通で、タヌキが喋るのがおかしいってのか!』
「違うわよ、陶器の置物が喋るのがおかしいっつってんのよ!」
『ん? ああ、確かにそうかもな。ワッハッハ』
と、陶器の割には表情が豊かなようで……。
『そ、それより……うほ。大胆な女だなぁ』
タヌキは私をジロジロと見て、目尻を下げる。露天風呂だから当然私は裸だ。
「……あんた、雄?」
『陶器に雄も雌もないわい』
そう言いつつも下半身にある立派なモノを揺らして……って!
「あんたどう見ても雄だろがあああああ!!」
がちゃあああん!
『う゛ぎゃあああああああああああ!!』
私の蹴りがソレにヒットし、ソレは粉々になった。
『もう、何て事をしてくれるのよ!?』
ソレを蹴り割られた陶器タヌキは、プリプリ怒り出した…………あれ?
「貴方、さっきまでと口調が違うんじゃない?」
『当たり前じゃないの! 大事なモノを粉々にされたのよ!? 性別を通り越しちゃうに決まってるじゃない!』
…………ああ、成程。工事完了した男性みたくなっちゃったわけね。
『たく、近頃の若い娘は肉付きばかりよくて、中身が伴ってないんだから!』
「はいはい、ごめんなさい……それより、貴方は……貴女は何なの?」
『私はあんたの仲間を捕らえてるわ』
…………はい?
『私はテラロドンと言われるモンスターの分身。あんたの仲間達は今私の腹の中にいるわ』
腹の中って…………まさか!?
『ちょっと、そんなに殺気だたないで。ちゃんと生きてるから大丈夫よ』
「……つまり人質って事?」
『違うわよ。最後まで話を聞きなさいな』
……仕方なく湯船に浸かる。
「……どういう事? 話がさっぱり見えないんだけど?」
『ふう、じゃあ簡潔に言うわね。私はある魔術によって身体を乗っ取られてるのよ』
「身体を?」
『そう。で、私の腹の中に空間の扉を作り、異空間と繋げた。で、無尽蔵に色んなモノを食い尽くしだしたのよ』
「色んなモノをって……あ、そうか。お腹は異空間に繋がってるんだから、満腹にはならないのか」
『そうなの。乗っ取られて本能が剥き出しになってる私の身体は、この世界のありとあらゆるモノを平らげるわ』
ありとあらゆるモノをって……それ、大変な事じゃないの!?
「今すぐに軍隊に出てもらって、魚雷やミサイルを大量に」
『待って待って! 私の身体を吹っ飛ばしたりしたら、中にいる娘達も戻れなくなるわよ!?』
……あ、そうか。
「な、ならどうしたらいいのよ!」
『私の力を解き放ってくれれば簡単よ』
「力を解き放つ?」
『身体を乗っ取られて私が追い出された時、力の大半を封印されちゃったのよ。その力を解き放ってくれれば、必ず私は身体を取り戻せるわ』
…………封印するくらいならこのタヌキを殺しちゃえばよかったのに。
『言っときますけどね、私が死ねば身体も死ぬわよ』
……ちっ。
『ちょっと。舌打ちしてんじゃないわよ』
「はいはいはい、悪かった悪かった。それじゃ封印を解く為には何をすればいいの?」
『え? やってくれるの?』
「当たり前よ、サーチ達の命が懸かってるんだし」
『……失敗したら、あんたもタダじゃ済まないわよ?』
「……覚悟の上よ」
『わかったわ。それじゃあんたに私の命運を託しましょう…………そうだ、名前は?』
「紅美よ」
『コーミちゃんね。そんなあんたが挑戦するのは…………』
ジャジャジャーン♪
『……クゥゥゥゥゥイズゥゥ! テ・ラ・ド・リ・アァァァァァァ!!』
「……帰る」
『ちょちょちょっと待って! 一旦始まったら逃げられないわよ!』
い、今までの真剣な展開が、何で急にこうなるかな!?
「わ、わかったわよ。要はクイズに全問正解すればいいのね?」
『そのとおおおおおおおおおりぃぃ!』
「普通に喋って。ウザいから」
『ウザい!? ……………………くすん、気を付けます』
めっちゃ傷付いてるし! メンタル弱っ!
『それじゃいきます、第一問』
ジャジャーン♪
『……次の四つのうち、紅美の体験人数はどれ?』
がちゃあああん!
『ぎゃああああ! 冗談! 冗談だから壊さないでええ!』
『は、はあはあ……本当の、第一問』
ジャジャーン♪
『……次のうち、「ゆたか」と読めない漢字はどれ?』
A、豊
B、裕
C、湯多可
D、浴衣
「Dに決まってるじゃない!」
『……最後の答え?』
そ、そこは英語で言ってよ!
「最後の答え!」
『……………………』
無駄に溜めるな!
『……正解』
いよっし! まずは一問目当たった!
問題出題、やや割れたタヌキの陶器。
……シュールだ。