第十八話 ていうか、紅美を誤魔化すためにみんなで演技しよう!
「ブクブクブクブク……」
あまりの痛みに泡を吹いたリジーは放置して、今度は一番厄介な問題に対峙することになった。そう、紅美である。
「このままダイヤモンド化しておくのが一番「……ナイア?」……じょ、冗談ですわ」
鉛の板を作り出したら、ナイアはあっという間に引き下がった。
「さーて、とりあえずみんなには水着に着替えてもらおうかしら」
「「……み、水着?」」
「ええ。で、その辺りでビーチボールで遊んでて」
「「……はあ?」」
「いいからいいから」
それぞれに水着を投げ渡し、着替えるように促す。
「サ、サーチ、此処で着替えるんですの?」
あ、そっか。外だった。
「……ヴィー、見えないようにできない?」
「不可視の結界を張っておきます。ついでに人払いの結界も重ね掛けしておきますね」
流石ヴィー、頼りになるぅ。
「それじゃさっさと着替えて」
「それよりもサーチ」
「何よ、ナイア」
「サーチの首筋、何故そんなに沢山の痣が」
かちんっ
ドズウウウウウウウン!
「いぎゃあああああああああ……がくっ」
正座したまま鉛の板を抱いたナイアが失神する。あ、危なかった。
「…………何でサーチ姉とヴィー姉が同時進行で誤魔化すの?」
かちんっ
ドズウウウウウウウン!
「いぎゃあああああ……がくっ」
「……ふう……ヴィー、あんたのせいだからね!」
「すみません、≪回復≫で消します」
ヴィーのクセにも困ったもんだ。
全員がそれぞれの場所に配置する。よし、準備万端!
「ヴィー、石化を解いて」
ボーダー柄のビキニを着たヴィーが頷く。それに伴ってヴィーの胸が揺れる。
ビキビキ バリィィィン!
「三、二、一、アクション!」
私の声がかかると同時に、紅美のまぶたが開いた。
「……あ、あれ? へ?」
「あ、目が覚めたのね」
「へ……? サ、サーチ?」
「おはよ。まだ寝ぼけてるの?」
「……? ……サ、サーチ! 店番は!? イタチ達は!?」
「み、店番? 何言ってんのよ、イタチ達は近くの動物園に預かってもらってるじゃない」
「はああ!?」
「ちょっとしっかりしてよ。私達は沖縄にバカンスに来てる。それは間違いないよね?」
「う、うん」
「で、あんたは与那国島までの飛行機の中で寝ちゃって、結局ここまで起きたり寝たりの寝ぼけ状態だった。これもOK?」
「う、うん」
「だから私がいるのは全く問題ないし、むしろいないことが不自然なの。わかった?」
「う、う〜ん……わかったような、騙された気がして釈然としないような……」
実際に騙されてるんだけどね。
「というわけで、楽しみましょう! …………って言いたいんだけどね、近くまで来てる台風のせいでスッゲえ高波だから……ムリだわね」
晴れてていい天気なんだけど、ひたすら波が高い。
「だからビーチバレーやってるのね」
流石に少し寒いが、気にしない気にしない。
「さーて、このまま遊んでても身体が冷えるだけだから、今夜の宿へ行きましょうか」
「「「そうだそうだ、行こー行こー」」」
「な、何で全員棒読みなの?」
こいつら全員大根役者なのかよ!
「気にしない気にしない。さ、行くわよ」
ぎゅ〜!
「はぅっっっ!?」
「いぁぁぁあ!?」
ナイアとリジーのお尻をギュゥゥ……っとつねる。悲鳴をあげそうになる二人に。
「叫んだらヤットコで摘まむわよ?」
「「……は、はひ……」」
「……んん? どうしてナイアとリジーは汗だくなの?」
「ビ、ビーチバレーをやり過ぎたと思われ…………あははは」
「そ、その通りですわ、おほほほほ」
「え? だけどヴィーは涼しげだけど?」
指弾っ。
ビチィ! ぼこっ
「はぅぅっ!?」
「あ、あれ、急に汗だくに?」
全員あぶら汗だよ。
「みんな疲れてるみたいだから、ホテルに行って露天風呂に浸かりましょ」
「そ、そうしよう」
「そ、その方がいいですわね」
「そ、そうですね」
そうね、汗びっしょりのあんた達は特に入ったほうがいいでしょうね。
温泉に入ってすぐ、ヴィーから抗議を受けた。
「ちょっとサーチ、本当に痛かったですよ!」
「ごめんごめん……ていうか、あんた達があそこまで大根役者だとは思わなかったわ」
「……ダイコン役者?」
「演技がヘタってことよ」
「わ、私にそれを求めないでください!」
……つまり自信がないわけか。
「あんた達も……同じみたいね」
ナイアとリジーもあさっての方向を見ている。
「はぁあぁあぁ……仕方ない、紅美は私が連れてるしかないわね」
「というよりサーチ、これからどうするつもりなのですか? おそらく海底遺跡を調べるおつもりなのでしょうが、この波の高さでは……」
「そうなのよ、問題はそれなのよ」
いくら私達でも、この高さの波の中で潜水するのは自殺行為だ。
「ん〜……ヴィー、聖術で……」
「言うと思いましたけど、幾つもの術を同時進行で使うのは不可能ですからね」
「え? 水中で呼吸さえできれば……」
「呼吸だけじゃありません。強い流れに逆らう必要がありますし、急激な体温の低下にも備える必要があります。深い場所なら視覚の補助も必要です。これでモンスターでも現れようモノなら……」
ううむ……あり得ないシチュエーションじゃないわね。
「それに紅美もいます。一人だけ置いておくわけにはいきませんよ」
ううむむむ……確かに。
「……ねえ、ナイア。あんたの月魔術は……」
「月の満ち欠けを待たずに引き潮にはできますわ。ただそれで波を抑えられる訳ではありませんわよ」
うううむむむむむむ……そうか。
「サーチ姉、一つ忘れてない?」
「ん? 何を?」
「烈風鼬達」
「……イタチーズがどうかしたの?」
「言ってたじゃない。元々は海の底でも生活してたって」
…………あああ、そうだったあああ!
お風呂を出てすぐにイタチーズを呼び寄せる。
『サーチさん、あっしはイタエモンじゃなくイタノスケでさあ』
どっちでもいいよ!
「それよりさ、私達を海底へ連れていくことはできる?」
『お安い御用でさあ』
マジで!?
『呼吸の心配もなく、潮の激しさも関係なく、しかも快適な環境を調えてご招待しやすぜ』
「それはありがたいわ。だったら今すぐにでもお願いしたいんだけど」
『わかりやした。一人に二匹ずつ付けやすんで……おい、イタロー! イタタロー! リジーさんに付け!』
『『へい!』』
……いつから鼬組になったの?
その後もイタノスケの指示で一人二匹ずつ付いていく。
『次は……サーチさんでやすね。あっしとイタゴローが付きやす』
名前と顔が一致しない。ていうか、顔みんな同じだし。
『そして最後に……』
「最後って……私が最後じゃ?」
『いえ、サーチさんの後ろに』
「……ねえ、サーチ。何でイタチ君達が喋ってるの?」
こ、紅美ぃぃぃ!? いつからいたの!?
紅美にバレた!