第十七話ていうか、 やっと合流できたんだけど……?
ザアン……ザザアン……
真っ白な砂浜。どこまでも広がる青い海。これで波と風がもう少し弱ければ最高なんだけどなあ……。
ザアン……ザザアン……
……まあいいか。今は全部忘れて日焼け日焼け……。
ザアン……ザザアン……ばちゃばちゃ
……うとうと……。
ザアン……ザザアン……
……キュ
「はあああああああああん! な、何すんのよ…………って、ヴィーか。やっと合流ね」
「やっと合流ね……じゃありません! 何をしているのですか!」
何してるって……。
「ビーチで焼きそばとビールを堪能してたんだけど?」
「そんなのは見ればわかります! 私が言いたいのは、何故東京で店番をしているはずのサーチが、オキナワにいた私達より先にヨナグニシマに到着してるのか、と言う事です!」
「ひとっ飛び イタチの力で 与那国へ」
「何故五七五に纏めてるのですか! 非常にわかりやすい説明でしたけど!」
「ちょっと落ち着きなさいよ……えい」
キュッ
「はああああああああん!」
「冷静になった?」
腰が砕けたヴィーが顔を真っ赤にして……あ、あれ、目がとろんとしてない?
「……サーチ……」
こ、これはヤバいヤツ? このパターンは大体……。
キィィィィン!
「へ? 結界?」
「≪防音≫と≪不可視≫の結界を兼ね備えたモノです」
「あ、そ、そうなの……ちょ、ちょっとヴィー!? 何で服を?」
「それはですね……こうする為ですよおおおおお!」
「え、ちょっとちょ……いやあああああああっ!」
……私のいろんな声はヴィーの結界で遮断された。
酒場での騒動のあと、民宿で寝てたら……お昼くらいに念話水晶の振動に気づいた。
「……ふあい……もしもし……」
『サーチ、どうかしたのですか? 何度も何度も何度も何度も何度もかけたのですが?』
「へ? ……あ、ホントだ。ごめ〜ん……」
『いえ、全然々気にしてませんよ』
めっちゃ気にしてるじゃん! 々がついてるじゃん!
「それよりどしたの? もう着いたの?」
私の言葉を聞いたとたん、ヴィーのこめかみに十字架が浮かんだ。
『もう着く……? 着くはずないじゃありませんかーー!!』
うわ、ヴィーがキレた!?
『コーミにはうまく事情を説明しなければならないしぃ! リジーは呪われアイテム磨き以外何もしないしぃ! ナイアは船酔い車酔いで全く役に立ちませんしぃ!』
「わ、わかるわよ。ヴィーの苦労はよーくわかるから、落ち着いて。ね、ね?」
『サーチに私の苦労がわかるのですか!?』
「……最初のパーティのメンツ、リルとエイミアとリジーよ……」
『そ、それは…………苦労されたのですね……』
伊達に何年もリーダーやってません。
「それで、今はどの辺り?」
『今は海上です。漸くヨナグニシマが見えてきました』
ふうん……てことはもうすぐか。
「だったら手前にビーチが見えてくるから、そこから上陸して」
『はい? 何故その場所を指定されるのですか?』
「いいからいいから」
『……はあ……』
……で、冒頭になるわけなのである。ゲフンゲフンなことが先行したおかげで、焼きそばは冷めちゃったしビールは温くなるし……。
「うう……何かいろいろ奪われた……」
「奪われたとは人聞きが悪いです。私が何を奪ったと?」
「焼きそばの温かさとビールの冷たさ」
「そ、それは申し訳ありませんでした」
あと私の体力をごっそりと。
「……ま、いいわ。それより紅美達は?」
「三人は石にして船に括り付けおごぅほぉ!?」
まだ下着しか着けてなかったヴィーの鳩尾に、膝が綺麗にヒットする。
「あんたね、ウチの娘に何てことしてくれたのよ!?」
「し、仕方ないじゃありませんか! 私はサーチみたいに器用に打撃で眠らせる事はできません!」
「……聖術で眠らせればよかったんじゃ?」
「うっ! そ、それは……」
「どうせ加減が苦手なあんたのことだから、ナイアとリジーを石化したときに巻き込んじゃったんじゃないの?」
「……っ……そ、その通りです……申し訳ありませんでした」
「……ま、いいけどね。石化は考えてみれば一番安全な方法だしね」
メドゥーサのヴィーにかかれば、どのような石にでも変化させられる。無論、金剛石にも。
「どうせナイアとリジーは自業自得なんでしょうから、紅美だけでも元に戻してあげて」
「……いいんですか? サーチが此処にいる事を不思議がられますよ?」
「大丈夫大丈夫。とっておきの手があるから」
「はあ……では」
ヴィーが向かった先には……船、というよりイカダに近いかな。
「どこにいるの?」
「じ、実は……」
ロープを指差す。その先は……海。つまりは。
「あ、あんた、私の娘を錨代わりに使ったわね!?」
「すみませんすみませんいだだだだだだだだだだっ!?」
……しばらく卍固めの餌食になった。
「い、痛いです……」
「そうなの? 蛇だから平気だと思ってた」
「蛇だって骨はありますからね!?」
そりゃ失礼。
「ていうか、ほら。早く引き上げなさいよ」
「あ、はい」
ヴィーは軽く引っ張り上げる。
ざばああん!
どすんっ!
「う、うわあ……スゲ」
時価総額ウン百億になるやら……紅美だけじゃなくナイアとリジーも金剛石化していた。
「……世界一ぜいたくな錨よねぇ」
「確かに。ではナイアとリジーから解除します」
ヴィーの目が妖しく光る。
ビキィ……ビキビキ
バキィィィン!
二人を覆っていたダイヤモンドの膜は霧散し、二人は辺りを見回した。
「【汚いよ】ぇぇ……あ、あれ? ワタクシは一体?」
「ヴィー姉ご勘弁ご勘弁ご勘弁……あれ?」
……大体状況は飲み込めたわ。
「ナイア、酔い止めは飲まなかったの?」
「無論飲みましたわ! ですが効かな……何故サーチがいるんですの?」
「その話はあとでね。さて、リジー。ヴィーから話は聞いてるけど、何か弁解することはある?」
「へ? え? はい? 何故にサーチ姉が?」
「何か弁解はあるかっつってんの」
「え、えっと…………ニャン♪」
「……有罪。ヴィー、石化正座」
「はい」
カチンッ
「おぅふ!? サ、サーチ姉、流石に堪忍してぇ!」
「……≪偽物≫」
「サ、サーチ姉、その鉄板は何?」
「ん? これは鉄板じゃないわ、鉛の板」
「な、なまり?」
「鉄より重い金属よ。ナイア、そこに貝殻やら石やら並べて」
「……わかりましたわ」
「な、何するの!?」
「ヴィー、リジーを貝殻の上に」
「はい」
バキッ! パキパキ!
「いいい痛い痛い痛い!」
「では、執行」
「サ、サーチ姉、まさかその鉛の板を……や、止めて止めて止めて」
ずぅぅぅぅん!
「いぎゃあああああああああああああ!」
江戸時代の石抱きならぬ、鉛抱き。
サーチは気持ち良いのかもおごぅほぉ!




