第十六話 ていうか、オジー自慢の何とかビール♪
「よっし、店も閉めたし、戸締まりもパーペキ! 無論、事件が解決したあとのための水着、浮き輪、スイカも準備オッケー!」
『……準備できたようじゃな』
「ええ、いつでも行けるわよ!」
『一つ聞いていいかの?』
「何よ、早く行くわよ!」
『寒くないのかの?』
「寒いわよ! 雪が降りしきる中、アロハシャツに短パンにビーサンなんだから、寒いに決まってるでしょ!?」
『いやいや、随分と浮き足立っとると思ってのう』
「だから早く行こうって言ってんの!」
マジで寒いんだよ!
『いやいや、お主もなかなか大胆なぶべしっ!?』
「踏み潰すわよ!」
『す、すでに踏み潰してますぜ!』
「早く行かないと全員毛皮剥いでやるわよ!」
『よし、行くぞぅ! 全速力でサーチさんをヨナグニシマへお送りするぞ!』
『『おおっ!』』
びゅごお!
私の周りをイタチが囲み、風が身体を押し上げる。
「わっ、わっ、う、浮いてる!?」
『行くぞぅ! でゅわ!』
『『『でゅわ!』』』
どっかで聞いたことがある掛け声だな!
どひゅうううううううううんんん!
「う、うぎゃああああああああ! 速い寒い速い寒いいいい! きゃああああぁぁぁぁ…………」
…………ぅぅぅぅううううんん!
どざああっ!!
『よぅぅぅし、ヨナグニシマに到着! 最速記録更新ですぜ!』
ガチガチガチガチガチガチ……
『……あ、あれ? サーチさん、どうされたんですかい?』
『おまけに何故全裸なんですかい?』
「あ、あのねえ! あれだけ凄まじい風圧食らえば、着てるもんなんか全部吹っ飛ぶわよ!」
『あ、あ〜……そりゃ失礼しやした』
とか言いながら私の胸をガン見するな! しかも全員!
身体があったまって予備の服を着てから、全員張り倒しておいた。
『『『痛いよおおお! びええええっ!』』』
うるさい! エイミアかっつーの!
『サ、サーチさん、あっしらはともかく、ガキ共にまでグーパンは……』
「っるさい! ガキのくせにジーッと見物してる時点で同罪よっ!」
新品の下着まで吹き飛んじゃったんだからね!
『そ、それであっしらはどうすれば?』
「……そうね……自由行動にしましょうか?」
『え!? い、いいんですかい?』
「構わないわよ。ただ、私が呼んだらすぐに戻ってくるって条件で」
『大丈夫でさあ! あっしらの名前を呼んでもらえれば、すぐに駆けつけまさあ!』
「オッケー。ならあんた達も楽しんで『ヒャッハアアアアア!!』ちょ、ちょっと!?」
びしゅん! どしゅんどしゅん!
「……飛んでっちゃった……名前聞いてないのに……」
イタザブローだっけ? イタエモンだっけ? 忘れちゃったわよ。
とりあえず近くの民宿にチェックインする。
「お客さん、どうやって来たのさ?」
「あはは、いろいろとあってね」
……まさか「イタチと一緒にひとっ飛び!」とは言えない。
「……与那国島ってさー、露天風呂はないよね?」
沖縄はシャワーメインなため、湯船がない家も多いのだ。
「あるさー」
「あるのっっ!?」
「ちょ、お客さん、近い近い! シャツから胸の谷間も見えてぐべっ!?」
うん、正直に答えたから一発でカンベンしてあげよう。
「……チカンヘンタイゴーカンマ」
「す、すみません……」
「で、ホントにあるの?」
「あ、あるさー。ここをまーっすぐいった道沿いに、新しいホテルがあるさー。そこがやってるさー」
「ありがと。まだ風も雨もないから大丈夫よね」
民宿を出てホテルに向かった。
「いやっはっはっ! こりゃ最高だわ!」
台風の影響でキャンセルだらけだったらしく、露天風呂は貸切状態だ。
「はああ、いい気持ち。昨日まで雪にまみれてたから、格別だわ」
ゆっくりと露天風呂に浸かってから、今度は海へ行ってみますか!
ざざざざ〜ん!
「……流石に泳ぐのはムリよね」
太陽は出てるけど、台風の影響で波はめっっちゃ高い。これは海に入るのは自殺行為だわ。
「うーん、海に潜って調べるのはムリかな?」
浜辺の近くにあったダイビングの店へ行って聞いてみた。
「今? ダメダメ。死にに行くようなもんだよ」
やっぱり?
「それに海底遺跡の辺りは流れが強い海域でね、初心者にはキビしいよ」
「……そうですか。わかりました」
「また台風が行っちゃったら来なよ」
「はーい」
仕方ない、ヴィー達が到着するのを待って対策を考えるか。
夕方になって、近くの飲み屋さんに出かけ、そこで夕ご飯を兼ねて一杯飲むことにした。
ごきゅごきゅごきゅ
「ぷはああ……美味い!」
流石オジー自慢の何とかビール!
「うおお、いい飲みっぷりだねぇ」
「あ、おばちゃん、ゴーヤチャンプルとミミガーちょうだい。それと豚足もね」
「あいよ」
「あ、タコライスも」
「はいはーい」
一人での夕ご飯は味気ないけど、それでも沖縄料理は美味しかった。
……二時間後。
がやがやがや
……さっきまでの静かさは何だったんだろう。誰かが三線を持ち込んで歌い始めると、それに釣られて誰かが踊り出す。テレビでよく見る光景だったけど、実際に見られようとは。
「キレイなお嬢さんさねー」
「ありがと。あ、ビールもう一杯」
「だ、大丈夫かね? もう二十杯は超えてるよ?」
「大丈夫大丈夫。まだ夜は長いわよ」
それを聞いた数人の男が、私の座ってるテーブルに腰かける。
「よっしゃあ、よく言った! こっからは俺らが奢ってやる! じゃんじゃん飲みねえ!」
「え、いいの!?」
「いいさいいさ、ガンガン飲みねえ!」
明らかに地元の人じゃないな。どうせ私を酔い潰して……なんて企んでるんだろうけど、そうはいきますかっての。
「よーし、タダ酒からリミッター解除するよ〜。いいのね?」
「いいって言ってるだろ! ガンガン飲みねえ!」
よし、言質はとった。
「おばちゃーん、今まで私が飲んだ分とこれから飲む分は別料金にしといて」
「いいけどさ……大丈夫かい?」
「うふふ、無問題」
さあ、どこまで私に付いてこれるかしら?
……シラジラと朝日が昇り始めたころ。
「……う、うぇぇ……」
「も、もうムリ……」
「み、水……」
「はい、お勘定」
自分が飲み食いした分を払ってから、男達の財布からお金を抜いて支払う。
「お、お嬢さん……酔ってないのかい?」
「んん〜……少し気持ちいいくらいかな」
おばちゃんは唖然としている。
「それより、こいつらはどうする?」
「若いもんに頼んで何とかしてもらうさー。よくある事だしね」
「そう? ならごちそーさま」
「ありがとね。気をつけてねー」
それから昼まで寝たんだけど、何十回と念話水晶が鳴っていたことに気づいたのは夕方だった。
美味いよ、何とかビール。