第十五話 ていうか、沖縄はいよいよ大変なことになってきたけど、私はどうすることもできないなあ……?
『台風三号が一号を吸収し、更に勢力を増し……』
『台風二号も三号の進路に重なる為、どちらかが吸収される恐れも……』
『気圧はすでに880hPaまで下がっており、十分に警戒を……』
……スゲえ。このままだと歴代最強の台風になるのは間違いないわね。
ブルルルル ブルルルル
ん? 念話水晶?
「はろはろ〜……あ、ヴィー」
『サーチ、大変です! 日本本土への飛行機が全て欠航しました!』
…………は?
「何でよ。台風はまだ近づいてないじゃない」
『台風が強力すぎて風の影響が出ているそうです。とりあえず船での移動は可能ですので、現在は鹿児島行きの便を探しています』
「わかったわ。それもダメならホテルに籠った方が安全だから、ムリに移動しないようにね」
『わかりました。では』
プツンッ
「……一日早く旅行を切り上げたのに、それでもダメだったか……」
台風もここまでくると超巨大竜巻よね。
ブルルルル ブルルルル
ん、今度はソレイユか。
「はろはろ〜♪」
『サーチ、とっっても大変な事になるわ』
「な、何でいきなりシリアスなのよ!?」
『アタシでもシリアスになるわよ! 大変な事態になりかねないんだから!』
「大変な……こと?」
『ケンタウルスに調べさせたんだけどさ、過去に同じ事例があったのよ』
同じ事例ですって!?
「ま、まさかそっちにも台風とかサイクロンがあるの!?」
『呼び名は違うけどあるよ〜。魔素嵐って言ったり、増幅風って言ったり』
ブースターって…………火の嵐なのかしら。もふもふ。
『ま、それはいいんだけどさ。同じように三つの嵐が合体して、とんでもない嵐になった事があるのよ』
「と、とんでもないことって?」
『その嵐で六つの国が壊滅したわ』
「そりゃ壊滅的被害でしょうね……」
『違う違う、壊滅。滅亡って言った方が早いかな』
「…………は?」
『実際に国が六つ滅亡したの。それも新大陸の帝国並みのヤツが』
「そ、その合体嵐が通りすぎただけで!?」
『そう』
そ、そんなんできたらマジで日本がヤバい!
「な、何とかできないの!?」
『何とかできると思う?』
……ムリ……なのね……。
『何とかできるよ』
できるんかよ!
「なら方法を教えてよ!」
『ちょっと落ち着きなさい。まだ嵐は合体してないんだから』
「う………は、はい」
『サーチが珍しく焦ってるわねぇ……。少し考えてみなさいな。今まで前例がない事が起きてるのよ。だったら原因があるんじゃない?』
原因? そんなの≪万有法則≫が使われてるに決まってるじゃない。今までの七不思議もそうだったし……………あ。
「……七不思議……そうだ、あと一つが見つかってないんだった……」
七不思議の一つとして数えられるモノはたくさんある。だから最後の一つが絞り込めてなかったんだ。
「イタチ達の話だと、風の動きを考えても沖縄付近に台風がくるらしい……だったら沖縄に最後の七不思議が?」
沖縄にそんな古い遺跡ってあったっけ? 琉球王国関連じゃ時代が新しいか。
「遺跡……遺跡ねえ……」
ヴィーのパソコンを借りて検索してみる。すると「沖縄 遺跡」で出てきたワードの中に、気になるモノが一つあった。
「与那国島の……海底遺跡?」
与那国島は沖縄県……よね。うわ、日本の最西端か。今ヴィー達は沖縄本島のはずだから、結構離れてるか。
「……ん? 海底遺跡って…………ま、まさかこれが最後の七不思議なんじゃ!?」
今までは世界的に有名な遺跡を中心に検索していたから、これは予想外だったわ。すぐにヴィーに念話する。
『…………ひゃい?』
「ひゃいって……あ、ごめん。ご飯中だった?」
『もごもご……ふう、失礼しました。もう大丈夫ですよ』
無事に丸飲みしたか。
『丸飲みしてませんからね!?』
何でわかるのよ!?
「ていうか、それどころじゃなかったわ。ヴィー、与那国島の付近で何か変わったことが起きてないか調べられない?」
『よ、与那国島ですか…………え、リジーが? いいですけど?』
リジー?
『しもしも、リジーだけど』
「……今度は何の影響を受けたのよ」
『それよりも、与那国島の事は新聞に出てた』
新聞に?
『最近微弱な地震が起きてるのと、外国人と思われる遺体が多数浜辺に打ち上げられてたって記事』
それだわ!
「その外国人の遺体って、コスプレしてるとか書いてなかった?」
『コスプレとは書いてなかったけど、変わった服装だったみたい』
十中八九間違いない!
「ヴィーに代わって」
『ほーい』
念話水晶からリジーの姿が消え、ヴィーが現れる。
『代わりました』
「ヴィー、七不思議の最後の遺跡は沖縄だわ」
『……やはり。そうじゃないかとは思っていましたが……しかしそれらしい遺跡が無いのですが?』
「おそらくだけど、与那国島の海底遺跡だわ」
『海底遺跡? 確か海底地形と出ていましたが?』
「ま、諸説ありってことみたい。ただ古い遺跡で該当するのがそこしかないのよ」
『……可能性はありますね』
「だからさ、今すぐに向かってくれない? 与那国島へ」
『……今なら何とかなるかもしれません。努力します』
「私も向かう……って言いたいけど、流石にムリだわ」
『サーチは東京ですからね。今回は私達で何とかしてみます』
「任せたわ。じゃ」
そう言って念話を切ったけど、私ができることは……今回は後方支援すらもムリだわね。
「……うーん……イタチーズの面倒を見るくらいしかできないか」
『サーチさん、何か不味い事態になってるんですかい?』
パソコンの電源を落とした私の足元に、イタチEが駆け寄ってきた。
「まーね。どうやら台風は沖縄の与那国島にいきそうなのよ」
『オキナワですかい…………かなり西になりやすね』
「あれ、わかるの?」
『へえ。風さえあれば』
「ふーん……だけど流石に細かい情報はムリよね?」
『細かい情報でやすね? 少しお待ちくだせえ』
そう言ってイタチEが外に飛び出す。
「え、ちょっと!?」
急いで追うけど、すでにイタチEの姿はなかった。
……三十分後。
『……戻りやした!』
「戻った……ってどこ行ってたのよ!?」
『とりあえず報告だけ。海は時化てやしたが、まだまだ穏やかでしたぜ?』
「……そう言うってことは、まさか与那国島まで行ってきたの?」
『へえ。ひとっ飛びでさ』
ひとっ飛びで行ける距離じゃないでしょ……ん、待てよ。
「……ていうか、モノも運べる?」
『運べやす』
「……もしかして……私も?」
『運べやす』
「……時間的には?」
『今ぐらいで』
「……台風が来てても?」
『無・問・題!』
は、早く言えええええええええっ!!
サーチ、飛びます!?