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第十四話 ていうか、沖縄のヴィー達は台風襲来、東京の私は大雪。

『台風三号は現在フィリピン沖の海上にあり……』 『越境してきましたハリケーンは台風一号へと変わり……』

『もうすぐ台風二号へと変わるサイクロンは、各地に甚大な被害を……』


 うわあ……テレビを点けてみたら、どえらいことになってるよ……。


『サーチさん、早く皆さんを避難させた方が』


「そ、そうね。ヴィーならまだ連絡ができるはず……」


 イタチに促されて、念話水晶……じゃなくてスマホで連絡する。もしかして外ならマズいし。


 プルルルル……プルルルル……


『はい、へヴィーナです』


「ヴィー、何度もごめん。まだ部屋?」


『はい、今水着に着替えていたところです。何かありましたか?』


「まずはテレビを点けてみて」


 しばらく間を空けてから、ヴィーが反応した。


『タ、タイフウ? ハリケーン? サイクロン??』


「要は巨大な嵐のことよ。それが近いうちにあんた達がいる沖縄にいくって、イタチ達が言ってるの」


『ここにですか?』


「どれも瞬間最大風速が65m/sあるらしいから、家が吹き飛びかねないくらいの風だわ。今ならまだ飛行機が飛ぶはずだから、早めに避難して」


『……それはオキナワを脱出した方がいいレベルですか?』


「とーぜん」


『……わかりました。明後日には乗れる便を手配します』


「うん。だから今日明日で目一杯楽しんどいて」


『ありがとうございます。では』


 そう言って通話を切ると、すぐにスマホをかけ直す。


 プルルルル……プルルルル……


『はいはーい、魔王のソレイユだよーん!』


「軽いな! ていうか空間越えてるのに感度良好すぎだろ!?」


『それはアタシの聖術の賜物だよーん!』


 聖術何でもありだな!


『で、何だい? アタシにその事を言いたくて念話……じゃなくて電話を?』


「違うわよ! こっちで妙なことが起きてるからさ、少し意見を聞きたくてね」


『あはは、冗談だよ〜……で、何があったの?』


「実はさ……」


 これまでの経緯を説明する。


『ん〜……大規模な嵐が三つ、同じ場所に集まりつつあるって事ね?』


「ええ」


『……よくある事なの?』


「まさか。このクソ寒い季節に台風が起きること自体が異常よ」


『……ふうん……』


 大体台風は水温の高い海域で発生するのよ? 強力な寒気が居座ってる日本に、普通は来ないわよ。


『……似た話を聞いた覚えがあるなぁ……』


「ホント?」


『かなーり昔に報告書が上がってきた覚えがあるわ。暴風回廊(ゲイルストーム)のケンタウルスに念話して調べてもらうよ』


「わかったわ、お願い」


 一旦通話を切る。


「……静かな生活ってのは私には縁遠いのかな……」


 店の外を見て、さっき雪かきした以上に積もっている雪を見てため息をついた。



 ザザザザッ


「ふう、雪かき終了」


 少し大きめの雪かきを作って正解。あっという間に終わったわ。


「「…………」」


 ご近所さんが一斉に私に注目。少し話は変わるけど、前まで人がゴロゴロ倒れてたような物騒な場所だったから、ご近所さんが住んでるかどうかも知らなかったくらい交流はなかったけど、イタチカフェをオープンしてから雰囲気もすっかり明るくなり、怪しい人影も皆無だ。おかげでご近所さんとも挨拶するようになり、たまに子供がイタチ目当てに遊びに来たりする。

 前置きが長くなったけど、そのご近所さんが私に注目する理由は……雪かきだろうな。だけどごめんね。これは私が離すと羽扇に戻っちゃうのよ。


「あの〜」


 ほら来た!


「は、はい、何でしょう?」


「大変申し訳ないんだけど」


「は、はい」


 ヤベえ。この流れは「雪かき貸してくれ」しかなくね!?


「雪を……」


「あの、申し訳ないんですが……」


「……捨てさせてくれない?」

「この雪かきは父の形見でして……」


「え?」「え?」



「ありがとうね〜。東京って土地が狭いから、雪を捨てられる場所が限られるのよ」


「いえいえ、そういうことでしたら」


 ……私が店の駐車場に雪を積み上げてるのを見て、周りの雪を積ませてほしかっただけだった。ご近所さんには「雪かきが父親の形見なんですって」という奇妙なウワサが流れることになっちゃったわよ……今度からヘタな誤魔化しは止めとこう。


「結構あるけど大丈夫?」


「無問題ですよー。どうせこの雪ですから、車で来店される人はいませんし」


 一応三台くらい止められるくらいの駐車スペースはある。昔は電竜(エレキドラゴン)の牙の電撃で、気絶させられたバカを積み上げていた場所だけど。


「それじゃ井戸水を流して地道に雪を溶かしておくか」


 地下水なら使い放題だし。ポンプの電気代くらいのもんだし。


「…………視線を感じる」


 ホースを伸ばしていた私をジーッと注目するのは……烈風イタチーズ。


「……何よ」


『雪で遊びたーい!』

『ゴロゴロしたーい!』

『穴掘ってみたーい!』


 ああ、子供イタチーズか。


「遊びたいって……雪で?」


『『『うん!』』』


 …………ま、いっか。


「いいわよ。好きにしなさい」


『『『わーい!』』』


 子供イタチーズは喜んで店から飛び出し、雪の山へ突っ込んでいった。


「ホドホドにね〜」

『『『はいはーい』』』


 ……ならこのままにしとこうか。伸ばしたホースを片づける。


「…………また視線を感じる」


 視線を辿ると……またまた烈風イタチーズ。


「今度は大人イタチーズよね?」


『お、俺達も遊びたい!』

『私もゴロゴロしたい!』

『ワ、ワシも穴掘ってみたい!』


 長老イタチまで混じってるし!


「……どうぞ。ただしやり過ぎないようにね」


『ひゃっほー!』

『きゃー♪ 雪よ雪よー!』

『ワシの雪じゃあ! ヒャッハー!』


 ……あ、そっか。氷結大陸に住んでたんだから、雪は当たり前にある環境だったんだ。


「……海沿いに住んでる人が海に行く感覚なのかな」


 寒いので、中に引っ込んだ。元気だなー、イタチーズ。



「ふわあ……」


 コーヒー飲んで一休みしてたら、あやうく睡魔にもっていかれかけた。いくらヒマとはいえ、店開けたまま寝るわけにはいかない。


「もう雪積もってないでしょうね…………げっ!」


 外の様子を窺ったら、とんでもない光景が飛び込んできた。


「ゆ、雪の山が……ノイシュバンシュタイン城になってるぅ!?」


 私を見つけたイタチーズが、私の元へ駆け寄ってきた。


『サーチさん、如何ですかい!?』

『この写真を参考に作りやした!』


 それは……店に飾ってあったパズルの。


「……ヴィーが千ピースのを完成させたときもビックリだったけど、これはさらにビックリだわね……」


 ……器用な連中……。


「わ、すげ! イタチが城で遊んでる!」

「これ雪!? 雪でできてるよ!」


「あ、近所の子達だわ。みんな、しゃべるの終わりね」


 キュキュー!


 手を挙げて応えると、イタチーズは子供達の元へ走っていった。


「す、凄いじゃない! 店員さんが作ったの!?」


 あ、ご近所ママさんズ。


「え、あ、はい。あまりにもヒマだったので」


「凄い凄ーい! SNSに投稿しよー!」

「あ、私も!」

「私も!」


 ……仕方なく私が製作したことにしたけど……ま、いいか。



 次の日からイタチだけじゃなく、ノイシュバンシュタイン城目当ての客が急増し……私は一人てんてこ舞いになった。SNS、恐るべし。

ノイシュバンシュタイン城、雪バージョン。

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