第十三話 ていうか、サーチとイタチ達のまったりとした日々……?
『あろは〜おえ〜』
……たく。それはハワイだっつーの。
「はいはい。リジーどうしたの?」
『今オーキナワに着いたと思われ。暖かい』
「でしょうね。こっちはまた雪よ」
東京ってこんなに雪が降るとこだったっけ? 夕方から再び鉄道のダイヤが乱れるそうだ。
『雪ってなーに? 美味しいのー?』
……リジーのニヤニヤした顔にイラッとしたので。
「ヴィー、丸飲み一丁」
『わかりました』
『え、ちょっと待っひやーっ』
バクンッ ばたばたばた
『……消化しますか?』
「脅しになれば十分だから、服一枚溶かすくらいで」
『了解しました』
ごっくん
ちょっ!?
「の、飲み込んだらマズいんじゃないの!?」
『へ? 消化するのでしたら胃じゃないとムリじゃないですか』
「…………そ、そうね。確かにそうだわね」
早とちりだったわ……ていうか!
「こ、紅美は!?」
『海へまっしぐらです……流石に紅美がいる前で、頭の蛇を集束しませんよ』
……そりゃそうか。持っていたモップをイタチ達に預けて座る。
ヴィー達が沖縄へバカンスに出かけてる間、イタチカフェは私一人で切り盛りしている。ヴィーがネットで宣伝しまくったのと、SNSで広まりまくったのが幸いして、店は毎日大盛況だった。
で、流石に一人だとキツいかな……と感じていたときのジャストな雪。おかげで今日は閑散としていた。
『四十七匹とも元気ですか?』
例の騒動で生き残った烈風鼬は四十七匹だけ。まだ氷結大陸にはそれなりに数はいるらしいけど、立派な絶滅危惧種だ。
「元気よ。内蔵助がちゃんと纏めてくれるから楽だし」
『ク、クラノスケ?』
……ヴィーに四十七士がわかるわけないか。
「何でもない。ちゃんと長老イタチがシメてくれてるから無問題よ」
『そうですか。でしたら安心ですね』
ニコッとヴィー。可愛いなおい。
「……ていうか、あんたは泳いでこなくていいの?」
『そのうち行きますよ』
……やっぱ日向ぼっこばっかするのかな? ヴィーは変温動物っぽいし。
『……念の為に言っておきますが、私は変温動物ではありませんから、日向ぼっこばかりする事はありませんので』
げえっ! バレてるし。
「そ、そんなことは考えてないし」
『……おもいっきり目が泳いでますよ』
ヤ、ヤベえ。何か誤魔化す手は……。
ブルルルッ
ナイスタイミングで着信キターー!
「ごめん、ちょっと切るね。電話掛かってきた」
『わかりました。帰るまでに何か言い訳を考えておきましょうね』
念話が切れる。ヴィーの笑顔が怖い。
「はいはい、今度はスマホか…………ってソレイユ?」
とりあえず通話ボタンを押す。
「はろはろ〜♪」
『あ、サーチ? リルを三枚におろしていいかな?』
『ニャアア! 助けてニャアア!』
「……どうぞ」
私が返事すると同時に、通話が切れた。一体何だったのやら。
ザクッ ズザザザッ
「……たくっ。一体どんだけ降るのよ」
昼には店の前に、しっかり雪が積もっていた。まさか雪かきをすることになろうとは。
ちなみにだけど、今使ってる雪かきは羽扇をアルミ製の雪かきに作り替えたものだ。
「……大変には大変だけど、あれと比べたらマシか」
近くの家の人達は雪かきがないので、スコップやお手製の雪かき……棒の先に板を打ち付けたヤツ……でかいている。当然、すぐ壊れる。
「……羨ましそうに見ないでほしいな。これは貸せるモノじゃないし」
さっさと雪かきを済ませて、店の中へすっこんだ。
キュイ! キュキュ〜イ
「……お客さんいないから普段通りでいいわよ?」
『……そうっすか。なら……はあ、だりぃ〜』
『こうも寒いと肩凝るわ……』
『サーチさん、お茶くだせえや』
……こいつら何で、こんなに年寄りくさいのやら……。
「わかったけど……この前みたいなことはカンベンしてよ」
『あはは……あん時はサーチさんがフォローしてくれて助かりましたわ』
先日来店していたちっちゃい子が、誤ってイタチAの尻尾を踏んでしまったのだ。痛みで冷静さを失ったイタチAは、ちっちゃい子を風で吹っ飛ばしてしまった。幸いにも肘を擦りむく程度で済んだんだけど、私が「あらあら、つまずいちゃったか」と言ってケガの治療をしてなかったら……まあ誰も見てなかったのも幸いだったけど。
「イタチA! あんたは尻尾を踏まれても平気になれるように訓練なさい!」
『誰がイタチAですか! 大体尻尾を踏まれても平気になれるわけないでしょう!』
「ふ、甘いわね。世の中には弱点の尻尾を鍛え上げて、克服した強者もいるんだからね」
『そこまでしなくちゃならないんですか!? というより尻尾は弱点じゃないんですが!』
「……じゃあ何が弱点なのよ」
『え? …………脳や心臓?』
「普通だよ! ていうか、脳や心臓を攻撃されて生きてたらゾンビだよ!」
『の、脳なら針で刺されても大丈夫でしたよ?』
「……もう一回やったげようか? 今度は手元をグリグリしてやるからさ」
『全力で遠慮させていただきます』
『サーチねえちゃ〜ん、ジュース〜』
『ジュースジュース〜』
「はいはい」
ちなみにお子様イタチもいる。見た目が一緒なのでわかりにくいが。
『ワシもジュース〜』
「…………おい、長老イタチ。お前くらいなら見分けつくから、お子様の振りして胸に飛びつくの止めろ」
『で、できれば生でハアハアぽげぎゃ!!』
「……頭粉砕してやろうか?」
『う、うぐぐ、ごべんばばい……』
「……みんな、ああいう大人になっちゃダメよ?」
『『『はーい!』』』
よしよし、いい子だ。君達にはジュースを割り増ししてあげよう。
『……ん?』
そんなときだった。ぐーすか寝ていたイタチの一匹が、急に立ち上がったのは。
「ん? どしたの、イタチE?」
『イタチEじゃありやせん、イタゴロウです』
激しくどうでもいい。
『んん……大きな嵐が……』
「嵐?」
『ええ。南側から、大きな嵐が近付いてきやす。えっと、地図は……』
引き出しから日本の地図を出し、テーブルに広げる。
『え〜っと……この辺りでやんすね』
……フィリピン沖? まさかこれって……。
『ねーねー、サーチねえちゃん』
「ん、なーに?」
『こっち側からも何かくるよー?』
こっち側って……太平洋か。ハワイのほうから?
『こ、こっちにも反応があるのう』
そっちは……インド洋じゃない。
『それら全部、この島に集中して来やす』
この島って…………あらら。
「あはは……ヴィー達もついてない……」
その日、アメリカから大型のハリケーンが、インドからサイクロンが。更にフィリピン沖の台風もそれぞれ日本へと迫ってきていた。
ハリケーンとサイクロンと台風がきます。