幕間 新生「船の底抜き」の冒険
……ボコッ
「お、戻ってきたみたいだぞ」
「だじょ」
ターニャちゃんと遊んでいると、湖に気泡が浮かんできました。
ボコッ ゴボゴボゴボッ
ザバアアアン!
しゃげええええっ!
「んだよ、単なるウォータースネイクか……エイミアの番だぜ」
「はい……≪蓄電池≫からの……」
バリバリ……
「……全力≪鬼殺≫!」
ずどがああん!
ドチュン!
「あ、あれ?」
エイミア様の放った一撃は、ウォータースネイクを半分ほど削る事になりました。
「うっわ、木っ端微塵どころじゃない、一瞬で蒸発しちゃってるぞ」
「しちゃってるじょ」
「……ま、まあ、倒せたんだから良し!」
「ダメだっつーの。もっと繊細な力加減を覚えろって言ったろ? これじゃオーバーキルもいいとこだよ」
「あ、うぅ……ごめんなさい……」
「いや、私に謝られてもな……」
落ち込むエイミア様もまた可愛くて……わ、私は何を言ってるのでしょう。
「エイミア様、少しずつの積み重ねですよ。努力すれば必ず報われますから」
「び……びええええ! エカテルゥゥゥゥ!!」
私の胸に飛び込んで泣かれるエイミア様。この瞬間も堪らない……わ、私ったら何て事を。
「あ〜あ、そうやってエカテルが甘やかすからエイミアが伸びないんだぞ?」
そうでしょうか? 世の中には「糠に釘」「暖簾に腕押し」「馬の耳に念仏」という言葉もありますし……。
「……エカテル、お前エイミアには何を教えてもムダって言いたいのか?」
「な、何でそうなるんですか!」
「お前の顔に書いてある」
え? ええ? 思わず顔をペタペタ触る。
「冗談だよ……つーかよ、そんだけ動揺してるってことは、マジで考えてたのか?」
「ちちち違います! そのような事は1㎜も……!」
必死の弁明も無駄みたいで、ムスッとしたエイミア様が……。
「エ・カ・テ・ルゥゥゥゥ!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私はエイミア様が不器用で力加減は絶対無理だなんて一言も……あ」
「い、いくらエカテルでも許しません! ≪電糸網≫変化技、≪感電死踊≫!!」
バリバリバリバリバリバリ!
「んぎゃああああああああああ!?」
う、薄れゆく意識の中、粉薬が懐から落ちたのを確認…………がくっ。
……ブクブク……ザバアッ!
「おっまたせ〜! 湖の底の探索、半分終わった…………あれ? 何でターニャ以外泡吹いて倒れてるの?」
「……わかんニャ」
「ま、まだ身体中が痛い……」
あれだけ電撃を浴びれば筋肉痛にもなりますけどね。
「ま、まだ痺れが取れねえぞ」
「エカテルに仕返しされた……びええええ」
「リルさんはともかく、エイミア様には大変申し訳ない事をしてしまいました」
「……おい……」
リルさんの抗議はサクッと無視します。
「エイミア様、中和する薬がありますので。ささ、どうぞ」
「う、うん。ありがとう」
「おい、私にもよこせ!」
「うるさいですね……はい」
「お、さんきゅー……って、マタタビじゃニャーかよ!」
キレるリルさんはサクッと無視します。
「ささ、エイミア様」
「う、うん。でも痺れが残ってて、上手く飲めません……」
「でしたら私が口移しで「≪治療≫《キュア》!」……え?」
あ、あれ? 筋肉痛が嘘みたいに消えて……?
「あ、身体の痺れが消えました!」
「お、おお!? 動く。動くぞ!」
「なーんかめんどくさかったからさ、全員まとめて治しちゃったけど……マズかった?」
「そんな事ありません! ありがとうございます、ソレイユ!」
「マジで助かった、さんきゅーソレイユ」
「うんうん、魔王を崇めるがよいぞ〜」
……あ……く、薬を……口移し……。
「……どうやらエカちゃんだけには悪い事しちゃったみたいねぇ……」
前置きが長くなりましたけど、私達は暗黒大陸中央部の隠しダンジョン「湖底神殿」を無事に攻略し、湖底の探索に移りました。
「……はーい、またまたガラクタの山〜」
とはいえ、肉体労働派のはずのリルさんが泳げないため、リルさんは全く、欠片程も、滑稽なくらい役に立ちません。
「……何か冷たい視線を感じるニャ」
「そう感じるのでしたら、ガラクタの選別を手伝ってください」
「ニャ……ニャ〜ン♪」
誤魔化したって無駄ですからね!
「まーま、てつだうニャ」
「ニャ!?」
「まーま、さぼるだめニャ」
……ターニャちゃんの方がよっぽどしっかりしていらっしゃる。
「わ、わかったニャ。手伝うニャ」
そう言ってガラクタじゃない方の山へ……って!
「リルさん、その山は選別済み……あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ドボボボボボオオオオン!!
「そ、それ全部ミスリル製の貴重品ですよ! 何で湖に投げ込むんですか!」
「へ? いらないモノだから処分するんじゃ?」
「いらないモノかどうか、まず最初に聞いてください! 何よりいらないモノを湖に投げ込むなんて以ての外です!」
「だ、だって手伝えって言うから……」
「何をしたらいいか、最初に聞いてください! ……は〜あ、サーチさんの日頃の苦労がわかります……」
これだけ濃いメンツを束ねていたのですから、やはりサーチさんは優れた指導者なのでしょう。
「……チッ。悪かったよ」
「それは私達に言わずに、ソレイユさんに言うべきですよ」
「……何でだよ」
「今リルさんが放り込んだ場所は、ソレイユさんが探索している場所です」
「……へ? 今?」
「はい、現在進行形で」
ゴボ……ガボガボガボ! ザバアアアン!
「誰だあああ! アタシの頭上にミスリルの武器を投げ込んだのは!?」
ソレイユさん、頭にミスリルの剣が刺さってますよ!?
「エカテル、あんたかああああっ!?」
大きく首を横に振る。
「エイミアかあああっ!?」
エイミア様も私と同じくらい首を激しく振る。
「じゃあ誰だあああ!」
私とエイミア様は迷わずリルさんを指差しました。あ、ターニャちゃんまで。
「リィィィィィルゥゥゥゥゥ!!」
ソ、ソレイユ様の背中に黒い翼が!?
「ま、待て! 私はただみんなを手伝うつもりで!」
「ずっと横になってサボってたじゃないですか!」
あ、珍しくエイミア様の突っ込み。流石のエイミア様も腹に据えかねていたようです。
「エ、エイミアまで!?」
「まーま」
「タ、ターニャああああああ!」
「てんばつてきめん」
「……へ?」
「ターニャちゃんの言う通り、天罰あるのみ! 食らええええ!」
ドガドガドガドガドガドガドガドガンンン!!
「ぎゃあああああああああああ!!」
「……さて、選別を再開しましょうか」
「はい、エイミア様」
「てつだう〜」
……ある麗らかな小春日和の事件でした。暗黒大陸ですから真っ暗ですが。
リルに天罰。