第十二話 ていうか、リジーがベタ過ぎる展開で、商店街の福引きを引きました。
困った。
マジで困った。
日本に戻ってから一ヶ月、あれから何も手がかりが掴めない。
「いらっしゃいませ〜♪」
なので昼間はイタチカフェで店員として働く始末。このままではダメだ。ダメなんだけど。
「はーい、お待たせしました。イタチと食べられるトカゲサンドイッチでーす!」
うう、稼ぎが、稼ぎが良すぎるのよぉぉぉ!
「……はーあ、疲れた」
「サーチ、お帰りなさい。コーヒーでも飲みますか?」
「ありがと。甘々のカフェオレで」
「はい」
ヴィーはお得意のパソコンで検索する日々だけど、こちらも収穫皆無が続いている。ちなみにだけど、ヴィーも息抜きがてらネットで商売を始めたらしいが、そこそこ上手くいってるらしい。
「あ、聞いてくださいサーチ。嬉しい報告があります」
「ん、なーに?」
「何と、今日一日で……売り上げ十万を達成しました」
「おお、スゴいじゃん! で、何か七不思議関連の情報は……」
「………………ありません」
……ですよね〜……。
「それにしても困ったなあ。どこでも共通してた『コスプレした人達の殺人事件』って話題が全くないんだもんなぁ……」
念のために外国語版のニュースまで見てるんだけど、そんな話題は全く出てこない。
「はぁ〜あ……リル達は順調みたいだし」
「湖に封印されていたはずの碑文は、やはり行方不明になっていたそうですね?」
「まぁね。相当複雑な術式で封印されていたはずなんだけど、誰かが解呪して持ち去ったみたい」
「……どれ程の術式だったかはわかりませんが、≪万有法則≫を封印していた術式となると、複雑なだけではなく強力なモノでしょう。それを解呪できるとなると、かなりの手練れですね」
「まーね。今はその線でソレイユが探ってるみたい」
そんな会話をしながらコタツでまったりしていると。
「ただいまですわ」
「ただいま帰還致し候」
買い物班のナイア・リジー組が帰ってきた。今日は寄せ鍋の予定なので、いろいろ食材を買いに行かせてたのだ。
「おかえり。ちゃんと全部買ってきた?」
「それよりそれよりサーチ姉! 当たった当たった!」
若干興奮気味なリジーがピョンピョン跳ねながら私に突っ込んできた。
「はいはい。当たったって何が?」
仕方なくリジーを受け止め……る振りからの足払い。
「わ!? とっととと!」
ゴロゴロゴロ ずしーんばたーんどしーん!
おお、見事に冷蔵庫と衝突。
「……で、何が当たったの、ナイア?」
「…………本当にリジーには容赦ありませんわね…………」
あ、顔が引きつってる。
「これが私とリジーとのコミュニケーションなのよ。ナイアもこうしたい?」
「全力でお断りしますわ」
そう?
「あ、それより何が当たったか、でしたわね。実は商店街の福引きがありまして」
……何かベタな展開な気が。
「リジーが特等のオキナワ旅行を当てましたの」
やっぱりかよ! 福引きでも有効なのかよ、呪剣士のマスタースキル≪幸運な呪い≫って!
「……せっかく当たったのに……せっかく当たったのに!」
「あはは、ごめんごめん」
「あはは、じゃない! 痛かったんだから! 物凄く痛かったんだから!」
そりゃあ……痛くなるように、わざわざ冷蔵庫方面へ足払いしたんだし。
「フンだっ! もうサーチ姉は連れてってあげない!」
「別にいいけど」
「謝るなら今のうち………………へ?」
「私一人くらいの旅行代は十分に出せるから、リジーにわざわざ面倒見てもらわなくても無問題なの」
「ぐ、ぐぬぬ……で、でも、それってサーチ姉のお金じゃなくて、パーティとしてのお金と思われ。だからサーチ姉の個人的な事情による流用は違反だと思われ!」
「大丈夫なのよ……紅美!」
「はいはーい……どしたの?」
「私のバイト代」
「あ、はいはいっと……はい、ご苦労様でした」
「ありがと〜……というわけで、これは私のお金よね? もう一回言うけど、沖縄への旅行代は十分に出せるわよ?」
「うぐぐぐ…………うわあああああああん! サーチ姉とコーミの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然大声で泣き出したリジーに、名指しされた紅美はめっちゃ慌てる。
「え? え? 私、何か悪い事しちゃった?」
「何でもない何でもない、単なるとばっちりよ」
「?? ……はあ……?」
キョトンとした紅美の後ろでは、ナイアとヴィーに慰められるリジーの姿があった。
「……さて、話を戻しますか。リジーが沖縄旅行を当ててきました! 拍手〜〜!」
「「「わ〜〜〜!!」」」
パチパチパチ
……どんよりと沈んだリジーには聞こえてないみたい。ヤベえ、やり過ぎたか。
「お、おほん! この功績に対して、先日バベルの塔関連の事件の際に回収した、呪われアイテム数点を与え「有難き幸せ」……って、立ち直り早いな!」
早速呪われアイテムを磨き始めたリジーは放置して、私は話を進める。
「それでさ、最近はバタバタと大急ぎだったから……みんなで沖縄へ慰安旅行に行こうと思いまーす!」
「「「わーっ!!」」」
「ちょっと待って!」
……ん? 紅美?
「慰安旅行に行くのはいいんだけどさ、その間イタチカフェはどうするの?」
「「「……あ……」」」
「この子達を放ってはいけない。だから私は残る。みんなで楽しんできて」
「あー、それなら心配いらないわ」
「え? どういう事?」
「今回は私が残るから」
「あ、そうなんだ。だったらこの子達の事をお願いねって、ええええええええええええっ!?」
紅美のノリつっこみが冴え渡る。
「ちょ、冗談でしょ!? え、えええ!?」
「……ちょっと、リアクションが極端すぎない?」
「だって、サーチなのよ!? あのサーチが譲るなんてあり得なぐふぉえ!?」
「コーミ、そういう言い方は失礼です。サーチだって稀にはこういう事もおぐっふぉう!!」
「コーミ、あり得ないなんて事はあり得ない、という言葉もありますわ。奇跡は起きるのですわぶふぉっふぉ!?」
「………………げふぉうぉ!? サ、サーチ姉、私は何も言ってない……がくっ」
あら、失礼。ついついリジーにも腹パンしちゃったわ。
数分後、全員落ち着いてから会話再開。
「……あんた達が私のことをどう思ってるか、よーくわかったわ」
「「「申し訳ありませんでした」」」
「……私は無関係だからね」
リジー、申し訳ありませんでした。
「ま、それはさておき、ホントにあんた達で楽しんできなさいな」
「で、でも……いいの?」
「あーいいのいいの。これも単位を落とした私がいけないんだから」
「……あ、つまり補習か。なら仕方ないわね」
ま、こう言っとけば角は立たないでしょ。
「……紅美、あんたは大丈夫なんでしょうね?」
「え、私? 首席だから無問題」
な、何気にスゴいな!
こうして私を除いた四人で、沖縄旅行へ行くことになりました。
「さーて……私はお客さんを迎える準備をしないとね」
サーチが居残り!?