第十話 ていうか、スケベイタチ達の大量治療。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
「ま、魔神ですって!?」
『そうじゃよ。ワシらの中では「荒神」と呼んでおるがの』
暗黒大陸のゴールドサンに少しだけ痕跡が残されていたっけ。あの世界の生物は魔神……一人の生物学者とその関係者……によって作り出されたモノなのだと。獣人、ハイエルフ、果てはモンスターですら。
「……ん? その荒神様が現れたのっていつの話?」
『そんな前の訳がないじゃろ。大体四年くらい前の話じゃな』
「そ、それじゃ、この世界に来たのも?」
『荒神が今年になって久々に現れての。ワシらに三つの命令を残して、この世界に置いていったのじゃよ』
「三つ?」
『うむ。一つ目はこの彼方にあるチョガ・ザンビール周辺で竜巻を百回起こす事』
「百回? 何で?」
『知らぬよ。ワシらには何も理由は言っておらなんだでの。二つ目は、この世界の住人は殺さぬ事』
この世界のって……地球人限定?
『そして最後の三つ目、竜巻を百回起こしたら……ワシら全員、自ら命を断つ事』
………………は?
『最後の命令を出す時は本当に楽しそうじゃったな。ニヤニヤとした顔が今でも目に焼き付いとるわい……クソッタレめが』
……正直、何で魔神がそんな命令を下したのか、私にはさっぱりわからない。一体何がしたいわけ?
「あ、他の烈風鼬もいるのかしら?」
『随分と数は減ったがの、チョガ・ザンビール周辺にまだ幾つか集団が残っとるわい』
「……なら私達に協力してくれない? 交換条件で、あんたの仲間を同じように治療してあげるから」
『な、何じゃと!? そりゃ同胞を救ってもらえるならば、多少の協力は吝かではない』
「ホント? なら……」
「……オーケーよ、交渉はまとまったわ」
車で待機していたナイアとリジーが飛び出してくる。
「サ、サーチ、怪我は!? 怪我はありませんの!?」
「大丈夫よ。だいたい交渉するだけで、ケガしないっつーの」
ナイアが胸を撫で下ろす。リジーもホッとしたようだ。
「話は聞けたから、あんた達にも教えるわね。はっきり言って胸くそ悪くなる話だけど」
烈風鼬から聞いたことを伝える。詳しいことはあとからで、今は省略してだけど。
「……魔神……ですの……」
「ん? ナイアは知ってるの?」
「……サーチは知らないかもしれませんわね。魔神は暗黒大陸では信仰の対象にもなってますわ」
「へ? そうなの?」
「後でエカテルさんに聞いてみるといいですわ。古人族は自らを『魔神に愛された種族』と言っていたそうですから」
「それって……つまり魔神を信仰していたのが古人族ってこと?」
「そうなりますわね」
……そういえば……魔神のことを調べるって言って別れたフリドリのこと、今の今まですっっっかり忘れてた。一度帝都で会ったけど、調査は進んでるのかな?
「……あとでエカテルに連絡してみるわ。あ、それでなんだけどね、あんた達には更なる活躍が期待されるのよ」
「「……はあ?」」
「そろそろかな……全員誘き寄せるって言ってたけど」
「お、誘き寄せるって……」
「ま、まさか……」
……ん? あれは……砂嵐ね。
「よーし、おいでなすったわね。それじゃ二人とも、上だけ脱いで車から出てね」
ニッコリと微笑むと、二人はがっくりと肩を落とした。
『そうじゃ、全員キチッと並ぶのじゃ』
『もう本能に振り回されて生きる事はないのじゃぞ!』
本能から解放された烈風鼬達が、まだ本能に支配されたままの烈風鼬達を整列させる。
じぃぃぃぃっ!
「はい、プスッとな……次のイタチどうぞ〜」
上半身裸のリジーが涙目で治療後のイタチを連れていく。本能を殺されたはずなのに胸をガン見してるってことは、元々烈風鼬達は種族的におっぱい星人なのだろう。
「はい、次のイタチさんですわ」
完全に腹を括ったナイアは、胸の谷間を強調して誘導する始末。なんか悔しいのでナイアの先っぽを摘まむ。
キュッ
「はああああああああん! な、何をなさるんですの!?」
「いや、別に……何となく」
腹いせです。
「もうっ! 金輪際止めてください!」
ナイアはプンスカ怒って乱暴にイタチを誘導した。
『お、おっぱいに雑な扱いされて……はあはあ』
おおい!? イタチにも変態いるのかよ!
プスッ
「……はい、終わり。これで全部かしら?」
『皆の衆、まだ終わってない者はおらぬか?』
長老っぽい真っ白なイタチが声を掛ける。
が。
じぃぃぃぃっ!
『し、しまったあ! 娘さんや、早くその御神体を仕舞ってくだされ!』
ナイアとリジーがブラを着けると、ガン見していた烈風鼬達は揃って倒れ。
『あ、あれ?』
『か、身体が動く! 動かせるぞ!』
『あっはっはっは! やった、やったぞおおおっ!!』
次々と正気を取り戻していった。いやはや、良かった良かった。
……しかし冷静になってみれば、スゴい光景だわな。
施術する先生←ビキニアーマーの私。
看護師二名←上半身裸のナイアとリジー。
患者さん←イタチ。
看護師の手伝い←イタチ。
患者の家族←イタチ。
……よくよく考えたらカオスだわ……。
『そうか、イタゾウは冒険者の手に掛かったか……』
『イタスケも殺られた』
『イタオもだ』
名前安直だな!
『しかしこれだけの人数が残れたのは奇跡じゃよ。皆の衆、よう耐えてくれた』
『『『長老……!』』』
「はいはい、お涙頂戴シーンに割り込んで申し訳ないけど、私達からの条件はわかってるわよね?」
『無論じゃ。烈風鼬一同、必ずやお主らの恩に報いるぞい』
「それじゃ早速だけど、私達をチョガ・ザンビールまで連れてってくれない?」
『お安い御用じゃ! 女子を三人連れて飛ぶなんぞ訳無いわい!』
そう言うと数匹の烈風鼬が集まってくると、私達に飛びついて。
『では行くぞい!』
『『『ルー○!』』』
ちょっと待て。なぜそれを知ってる。
『……石板はこれですじゃ』
イタチ長老がチョガ・ザンビールの近くから持ってきたモノは、確かに≪万有法則≫の碑文だった。
『それと妙な鎖があったのじゃが、いるんかの?』
「鎖? いらないいらない。捨てといて」
『ならワシが貰うが……』
「どうぞどうぞ」
……こうしてバベルの塔に関わる一件は全て完了した。
「ねえ、私達を日本っていう国に帰してほしいんだけど」
『そうそう、それなんじゃが……一つ頼みがあるんじゃ』
「はい?」
『我ら烈風鼬が住み着けるような場所を、紹介してもらえんかの?』
…………へ?
イタチが住む場所って?