第八話 ていうか、裸で戦う訓練をしていたら、突然の砂嵐!
「さあ、どこからでもかかってらっしゃい!」
砂塵が舞う荒野。凶悪なモンスターを討伐せんと、今三人の美少女戦士が立ち上がる。
「早く終わらせますわよ!」
気合一閃、ホウキを振りかざして立ちはだかるのは、伝説上の存在と言われてきた月の魔女、ナイア。白い髪に乗ったとんがり帽子と剥き出しの白い胸が風に揺れる。
「……風で揺れているのではなく、震えてるのですわよ?」
「確かに。砂漠って乾燥してるから、風が強いときって何気に寒いのよね」
そしてもう一人は、運用が難しい職業でありながら、クセのあるスキルを見事に使いこなして敵を屠る、呪いを愛する呪剣士リジー。
「恥ずかしいよ恥ずかしいよブツブツブツ……」
いつも使っている介錯の妖刀と、放てば必ず敵に当たる必中の弓矢を砂に刺し立てて……踞っている。
「ちょっと、前衛のあんたがそんな状態でどうするのよ」
「だ、だって、恥ずかしいし寒いし恥ずかしいし肌カサカサだし恥ずかしいし!」
……要は恥ずかしいわけね。
「さっきも言ったけどあんたが前衛なんだからね! 大体まだ戦ってもいないのにこんな状態じゃ、本番はどうするのよ!」
……はい、というわけで、私達はまだチョガ・ザンビエールにいるわけではありません。まだテヘランに滞在してます。もう出発する手筈は整ってるんだけど、飛ぶはずだった飛行機が故障した加減で予定が狂ったのだ。で、半日ほど暇ができてしまったので、レンタカーを借りて郊外に移動し、戦いのときのフォーメーションの確認をしていたのだ。
え? 何でわざわざ郊外に移動したのかって? 誰にも見られたくないからだよ。
「……やはり半裸で戦うのは、想像していたよりも恥ずかしいですわね……」
胸を出しっぱなしで戦うとこを。
「今回はヴィーがいないからナイアが後衛かしら」
「しかしワタクシの長距離からの攻撃手段は、ホウキを伸ばすくらいしかありませんわよ?」
あ、そうだったわ。月の魔女って魔女の割に殴り合いが得意なんだっけ。
「……となると、ナイアが前衛か。私はいつもの通りに前衛兼遊撃でいくから……リジーは弓矢での後衛かな」
「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい」
「……とりあえず服着ていいわよ、リジー」
「はいい!」
高速で服を着るリジー。そこまで恥ずかしいかよ。
「嘆きの皮鎧と飛び降り靴を装着完了。よし、呪いフルチャージ!」
パンパカパンパンパーン♪ と効果音が鳴りそうな勢いでリジーが復活した。
「私が後衛を担うのね? お任せくだされ、わっはっは」
「……もちろん、素っ裸でよ」
「ガクガクブルブル」
全く、そんなに恥ずかしいかしらね。
「でもルーデルの話だと、フォーメーションそのモノが無意味になる可能性が高いわ。烈風鼬は好みのおっぱいを見かけると、ただただガン見するだけらしいから」
「つ、つまりワタクシ達の前にモンスターが立ち並ぶんですの? それはそれで嫌ですわね」
「でもそうなっちゃえば殺されても気づかないらしいから」
「意味不明。殺されても気付かないって意味不明」
私もそう思うけどさ……。
「……あら? あれは……」
リジーと同様にローブを着込んだナイアが、地平線の彼方を指差す。
「不味いですわね。砂嵐が近付いてますわよ?」
え、砂嵐?
「……あ、ホントだ。仕方ない、引き上げね」
砂嵐なんぞに巻き込まれたらたまったもんじゃない。すぐに車に戻り、高速で発車オーライした。
「……うわぁ、砂の壁だ」
リジーが呟いた通り、巨大な砂の壁が段々と迫ってくる。ていうか、速いな。
「サーチ、もっとスピードを出した方がいいですわ」
「そうしたいんだけどね……砂の上の運転って難しいのよ」
タイヤが空回ったら万事休すだ。
「……ん? 何ですの、あれは」
ナイアが急に窓の外を指差す。
「何が……って何?」
「ほら、あそこ。何かが群れで歩いてますわ」
群れ?
「ラクダ……じゃないわよね」
「違います。もっと小さな生き物ですわ」
……あ、あれか。ミーアキャットみたいな。
「確かに集団で砂嵐を見ている……と思われ」
「見てるっていうか、集団で固まって耐えるつもりなんじゃない?」
「い、いや、ちょっと待って。横一列に並んで砂嵐に突っ込んでったよ!」
へっ!?
「……な、何なんですの、あれ!? 飛んでますわよ!」
あ、あれムササビ? 腕(前足?)と足の間に膜みたいなのがあって、それで凧みたいに飛んでる。
「……どう考えても、あれが……」
「うん、烈風鼬と思われ」
何十匹もいる烈風鼬……ただし推測……は、砂嵐の風に乗ったかと思えば、ぐるぐると回りだし。
……ゴオオオオオオオオオオオオオ……
「風が渦巻いてる……」
「というより、風を渦巻かせてる、というべきですわ。あれは何かしらの力によって風の流れをねじ曲げてますの」
ねじ曲げる……ねえ。
砂嵐は徐々に集束し始め、やがて一本の巨大な竜巻へと変わった。
「もう間違いないですわね。あれが烈風鼬ですわ」
「ねえ、サーチ姉。竜巻の根元に何かいない?」
「何か? あ、あれは……烈風鼬……じゃない?」
竜巻を囲む形で並んだ烈風鼬達は…………あれってどう見ても。
「踊ってるわね」
「踊ってますわね」
「踊ってると思われ」
踊りといっても激しいモノではなく、どちからかと言えば……盆踊りくらいのゆったりとした踊りだ。
「……なるほどねぇ、だから竜巻踊りなのか」
「言い得て妙ですわね……それより、どうなさいますか? 折角向こうから現れてくれたんですから、襲撃しますか?」
「うーん……それをしたいのは山々なんだけど、あの竜巻は危険すぎるわね」
「確かに。それに砂嵐もすぐそこ」
「……仕方ない。車に乗ってやり過ごすわよ。ナイア、軽く結界を張ってくれない?」
「お安い御用ですわ。月よ月夜に月見頃。月並みに踊れや!」
ナイアの詠唱によって車を淡い結界が覆い、風と砂を防ぐ。その間に軽く食事を済まることにした。
「……だいぶ明るくなってきたわね」
二時間ほどすると、砂嵐も段々と弱まってきた。
「これなら時間の問題ね……よし、今のうちに……」
「……サーチ、もう脱ぐんですの?」
「違うわよ。トップの隙間に砂が入り込んだから、今のうちに取っておこうと思ってね」
そう言ってビキニアーマーを外し、砂をかき出していると。
「……あら、急に砂嵐が収まりましたわね」
バリィン!
「!? 結界が破られ……うあっ!?」
「ど、どうしたの……げえっ!!」
ナイアの結界が破られると同時に、車の窓にたくさんの烈風鼬が張りつき。
「……わ、私のをガン見してるわね……」
目を皿のようにして、私の胸を見ていた。怖。
スケベイタチ登場。イメージ的にはミーアキャットみたいなの。