第六話 ていうか、とりあえずリジーと合流し、ナイアを待つだけ。
「うぅ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいサーチ姉」
「…………」
……耳元で呻くリジーの声で目が覚めた。
たっっぷりとリジーにお仕置きを加えてから違うホテルに泊まったはいいんだけど、結局一部屋しか空いてなくて、狭いベッドに二人で寝ることになった。
「あふ……まさか一晩中謝り続けるとは思わなかったわ……」
しかも寝言で。あまりにもうるさいので仕返しがてら、呪いを解く際に使われる聖句の一節を呟いてやったら、さらに謝罪スピードが早くなってしまった。
「……しまったなあ……」
眠気覚ましにシャワーを浴びてからリジーを起こす。
「リジー、起きなさい。朝よ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいブツブツブツ」
「起きなさいっての」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいブツブツブツ」
「……この者に巣食いし穢れよ、天より降り注ぐ奇跡の光」
「ぎぃぃあああああああああああ…………あ?」
よし、起きた。
「おはよリジー」
「………………ふえ?」
リジーは眠たそうに周りをキョロキョロしてから。
「……あれ。私解呪された? あれ、あれ?」
「何を寝ぼけてんのよ。早くシャワー浴びて着替えなさい。朝ご飯食べに行くわよ」
「……ん」
やっぱり眠たいのか、私の言葉に素直に従ってシャワールームへ向かった。
「…………」
シャワーを浴び始めてから五分後、お湯の設定温度を一番下まで下げてみる。
「…………ひぃあああああああああああ!!」
リジーが素っ裸で飛び出してくる。よし、目が覚めたわね。
「ほら、早く着替えなさいっての」
「ガタガタガタガタカチカチカチカチ」
「……冷たかったのはわかるけど、口でガタガタカチカチ言ったって仕方ないでしょ」
ていうか、カチカチって何よ。
「うぅ〜……サーチ姉、お願いだから止めて」
「止めてほしければ一晩中寝言は言わないことね」
今度から聖句で起こすことにしよう。それでダメなら水シャワーで。
「むぐむぐ……ご飯モノがあるとは思わなかった」
「イラン料理って意外とご飯モノが充実してるのよ」
ホテルのレストランで朝ご飯……というよりはブランチを食べていると、外が騒がしくなった。
「……? どうしたのかしら」
「むぐむぐ、またテロと思われ、むぐむぐ」
「あんたが原因だったでしょ。そう毎回はあり得ないわよ」
それにしても、集まった人達全員空を見上げて………………あ。
「……リジー、ちょっと来て」
「むぐむぐ、まだ食事中」
「いいから。早くしないと聖句を唱えるわよ!」
「行く行く行く」
口を拭いながら付いてくるリジー。ていうか、行くって連続で言うのは禁止。え、何でかって? 言えるわけないでしょ。
バンッ!
ムリヤリホテルの屋上へ飛び出して、観衆が見上げてる方角を注視すると…………やっぱり。
「リジー、あの未確認飛行物体を射落として」
「未確認飛行物体って……え、いいの? あれは……」
「いいからいいから」
「ん、わかった」
リジーは必中の弓を取り出すと、矢をあさっての方角に放った。すると矢は勝手に軌道修正し、まっすぐ未確認飛行物体へ……。
「…………うぎゃあああああああああ!」
あ、フラフラと墜ちていく。よし、作戦終了。
「さて、朝ご飯に戻ろうか」
「い、いいの?」
「いいのいいの」
市街地にホウキで降りてくるバカには、いい薬になったでしょ。
……十分後。
……ダダダダダ!
あ、来た。
「サーチ! な、何故矢を放ったんですの!?」
お尻に矢をブッ刺したまんまのナイアが怒鳴り込んできた。
「え〜、私知らないし〜」
「ム、ムカつきますわね……!」
「ていうかね、魔術が発達してない世界なんだから、魔術めいたことは隠すのが必然でしょ?」
「うっ! た、確かにそうですわね……で、でも矢を射る必要性はありませんわ!」
「矢を放ったのは私じゃなくてリジーだけど?」
「え!? サーチ姉!?」
「……リジー?」
「ちょ、ちょっと待って! それはサーチ姉の指示であって」
「でも従ったのはリジーでしょ? 私だったら命令を無視してでも仲間に矢を向けたりしないけどな〜」
「サーチ姉!?」
「リジー……貴女という人はぁぁぁぁぁ!!」
ナイアのハンマー型ホウキが振り下ろされ……。
どがあああああん!
「いみゃああああああああああっ!」
リジー、成仏しなさいよー。
「サーチも同罪ですわ!」
へっ!? ちょっ……!
どがあああああん!
……意識は暗転した……がくっ。
…………。
『……おい』
…………。
『……おい、起きろ、サーチ』
…………。
『起きろっつってんだろ!』
…………ううん……うるさい。
『…………』
がぶっ
「いてええええええっ!?」
『やっと起きたか。久々だな、サーチ?』
「なっ…………何だ、三冠の魔狼か。あんたさ、毎回私を起こすために噛みつくのは止めてくんない?」
『さっと起きればこんなことはしねぇよ……それよりもだ、今お前は偽暴風回廊へ向かってるな?』
「偽……? あ、バベルの塔のこと? ええ、今から竜巻が異常発生してる場所に向かうとこよ」
『バベルの塔って言うんだな……ま、そのバベルの塔なんだがな、原因はモンスターだ』
またぁ? 穢れを撒く者みたいなヤツ?
『氷結大陸に生息するA級モンスター烈風鼬が大量にそっちの世界に流入してる』
烈風鼬ねぇ……要はカマイタチみたいなもんか。
「やっぱり空間の亀裂から?」
『おそらくな。俺も実際に目にしたわけじゃないが、氷結大陸に発生してるのは間違いない』
「……厚かましいモノ言いするけどさ、あんたくらい強ければ、氷結大陸を偵察するくらい簡単じゃないの?」
『無茶言うな!!』
無茶?
『ん!? あ、あー、何でもない。忘れろ』
……ま、関わりたくないし。素直に忘れておきますか。
『で、だ。その烈風鼬を何とかしたいだろ?』
「そ、そりゃあ、まあ……」
『ちょーっといい情報を掴んだんだが……いるか?』
「……何よ、勿体ぶってないで話しなさいよ」
『……わかった。なら烈風鼬の習性について教えてやる』
習性?
『烈風鼬ってのは、モンスターの中ではトップクラスのスピードを誇っていてな、容易に捉えられるようなもんじゃない』
ふむふむ。
『但し、あるモノに非常に執着する悪癖があってな、それに集中してる間は殺されても気付かないと言われている、らしい』
殺されても気付かないってスゴいな!
「……で? そこまで気違うモノって何よ?」
『……言っとくが、変態の領域だぞ?』
……イヤな予感がする。
『ストレートに言うぞ、おっぱいだ。しかもデカければデカい程良いらしい』
変態モンスター出現。




