第五話 ていうか、テヘランで情報収集開始。
周りが真っ暗になって、全身ぐるぐる回ってる感覚に襲われる。
「ソレイユの転移とはちょっと違うわね……」
ナイアなら間違いなく酔うな……と考えていると、回転が弱まり、辺りが明るくなってくる。
『っ……サ、サーチ、どうかご武運を……』
苦しそうなヴィーの声が響いてきてら辺りが急に明るくなる。そして。
……ザスッ
森の中に降り立つ。少し先には大きなビルが見えるから、どうやら公園らしい。
「ヴィー、ありがとね……」
そう呟いてから、街の中に紛れ込んだ。
「……初めて来たけど、結構観光客多いんだ……」
ニュースのイメージでガチガチのイスラム文化を想像してたけど、普通の格好をした観光客も多い。普段の露出度はさすがにマズいと思って、普通にジーパンとシャツにはしといたけど。
「……あとはチャドルだったっけ? スカーフでいいのかな?」
近くにスカーフをいっぱい飾っている店があったので、一枚購入する。
『どうやって巻くの?』
『これをこうしてこう…………はい、完成だよ』
『ありがとう』
『お嬢ちゃんペルシア語上手いね』
『あはは、通じるかヒヤヒヤしてたんだけどね』
ペルシア語もバッチリ。中東にはお客さんも多かったからね。
『あ、お嬢ちゃん。このコートも買った方がいいよ』
『コ、コート!?』
『もう少し日が落ちたら一気に寒くなる。そんな薄着じゃ風邪ひくよ』
……結局言うなりに買っちゃったけど、数時間後に感謝することになった。さっきまでの暖かさは何だったのやら。
「……うん、これでバッチリ。あとはひたすら情報収集ね」
まずはバザーで買い物をしながら、店の人に話を聞いていった。
「うーん……結構詳しく聞けたわね」
夜。少ーし高めのホテルにチェックインし、ベッドの上でメモを広げる。普段からその場で記憶できるんだけど、あまりにも情報が集まってくるので、メモせざるを得なかったのだ。
「やっぱり竜巻が多発してるのはチョガ・ザンビール周辺か。これ以上は現地に行って直接見聞きするしかないわね」
最近じゃ妙に作り込まれた剣や杖が落ちてくるらしく、それを闇市場に高額で流してる連中がいるらしい。竜巻の周辺には落下物を探してウロウロしてる車がいるそうで。
「……間違いなく私達の世界のヤツだわ。剣くらいならいいけど、魔杖が流れたりしたら厄介ね」
正しく使わないと大変なことになる。この世界には純度の高い魔力が溢れてるから、ド素人がむやみに魔力を込めたりすると。
どがああああああん!
そう、あんな風に街が吹っ飛び……ってええええええっ!
「ちぃ! 早速誰か魔力を暴走させたわね!」
スゴい騒ぎになってるだろうから現場には行かないけど。
『テロだ!』
『ヤベえぞ! 逃げた方がいいな!』
扉の外で従業員が騒いでる。テロじゃないテロじゃない。
『うっわ、テロリストがホテルに侵入してきたらしいぞ!』
なぬっ!?
『逃げろ……ぎゃあ!』
『全員手を上げろ! 従わなければ撃ち殺す!』
『し、従います! ですから命だけは……!』
マジモンのテロリストっすか! 急いで荷物を魔法の袋に放り込むと、天井の換気ダクトに手を掛けた。
『この部屋に泊まり客は?』
『ちゅ、中国人の女が一人』
バンバン! ドォン!
『……いないな』
『チッ、出かけてやがったか。運が良い女だ』
バタバタバタ……
「……ふぃ〜……危ない危ない」
換気ダクトの蓋を外して部屋に降りる。
「トカレフか……武装的には大したことないわね」
AKだったらどうしようかと思ってたけど、トカレフなら何とかなる。ゆっくりと扉を出て、周りの気配を探る。
「……廊下の左側に五人。三人は跪いてるから……テロリストは二人か」
念のため≪気配遮断≫と≪忍び足≫を併用して廊下の角へ寄り、チラ見する。
「……チッ。一人はAKか」
一発で決めないと……太ももに巻いてあるベルトからナイフを抜くと、AKの男に投げた。
ドスッ!
『うぐっ!?』
『どうした!? な、て、敵』
ザクッ!
『ぐぶっ!』
仲間を呼ぼうとした男も殺しておく。
『ひ、ひいい!』
あ、跪いてた三人を忘れてた。
『……あでゅー♪』
ガン! ゴン! ガン!
『『『あぎゃあ!』』』
全員殴って気絶させておく。ごめんね。
「……この階はこれで全員か。他の」
どっかあああああん!
ばがあああああん!
『テ、テロだあああ!』
『今度は市場だぞ!』
あ、あれ!? また爆発? こいつらとは別口?
「……ま、いいか。ホテル内のテロリストを片づけてから、外の様子を見に行くか」
下の階に気配を感じた私は、AKを拾って走り出した。
ダパパパパパ!
『ぎゃ!』『がっ!』『ぐあ!』
「……はい、これで終わり」
テロリストは全員始末した……と思う。そのあとでホテルの警備室にいき、AK乱射と炸裂弾で防犯カメラの記録を抹消。弾切れになったAKをテロリストの死体に握らせ、証拠隠滅完了っと。
「やれやれ、違うホテルを探さないと」
ずがあああああん!
どごおおおおん!
『ま、またまたテロだあああ!』
『今度は大通りだぞ!』
……はあぁあぁあぁ。こいつらも始末しないと静かな夜は来ないか。拾ったトカレフの安全装置を外し、外へ飛び出した。
「これは……爆弾じゃない?」
あちこちに作られたクレーターは、爆発が原因じゃない。巨大質量を叩きつけたことによる衝撃でできたモノだ。
「これだけの衝撃となると……オーガの上位クラスか、サイクロプス辺りか……」
デカいモンスターの可能性が高いか。
「でも、デカブツなら逆に見つけやすい……」
ずどがああああん!
いた! 後ろだ!
急いで短剣を作ると、刃に毒霧を吹き掛ける。象でも一滴で死ぬくらい強烈なヤツ。
「来い! 私が相手だ!」
わざと大声を出してモンスターを引きつける。すると前から反応が……!
「サーチ姉?」
……へ?
「あ、やっぱりサーチ姉。やっと見つけた」
「やっと見つけたって……リジー、どうやってここまで来たの!?」
「呪われアイテムの〝鈍足の靴〟と〝水霊の足環〟を使った。『素早さ』が極端に下がる呪いと、水に触れると引き込まれる呪い」
……呪剣士は呪いが逆転するから、〝鈍足の靴〟は足が速くなり、〝水霊の足環〟は水に反発するのか。
「……ってことは、ずっと海の上を走ってきたわけ!?」
「ぴんぽーん♪」
………………もはや何も言うまい。
「そ、それよりテロリスト! じゃなくてモンスターよ! リジー、何か見なかった?」
「へ? モンスター? 何も」
「……ってことは、爆発の原因は別?」
「あ、それ私」
…………………………は?
「リ、リジーが犯人?」
「うん。こうすればサーチ姉が来てくれると思われ。実際に来てくれたしおごっほぅ!?」
……一時間ほどボコった。
リジー、KO。