第四話 ていうか、降り止まない雪は何かの前兆……?
次の日も大雪。これはバベルの塔の呪いではなかろうか。
「やはり飛行機は全て欠航です。空港で缶詰めになってる人も段々と増えているとか」
そりゃそうでしょうよ。ニュースを見てると深刻さがひしひしと伝わってくる。
「海も荒れ放題だから船って手も使えないし……困ったわね」
流石にこのビルを襲撃してくる連中も、1/10以下にまで減った。たまに電撃の音と救急車の音が響いてくるから、こんな日でも侵入を試みる勇者はいるらしい。
「リジーはそこだ!」
「うぎゃあああ、殺られたあああ」
「コーミ、後ろががら空きですわ!」
「甘い!」
「きゃ!? ト、トラップですの!?」
「ふはははっ! 誰も私には勝てないのよ!」
……こっそりリジーと交代して、紅美の背後に回り……ずぎゅーん!
「ぅわっ!? だ、誰!?」
「近接ばかり気にしてるから、狙撃されるハメになるのよ」
「そ、そんな……サーチはバケツじゃなかったの!?」
「本職はアサシンだから……はい、リジー」
再び三人の激闘が始まる。
「サーチもプレイしたいのでしたら、参加されればよいのでは?」
「あはは、私が出れば一方的になっちゃうから」
紅美達は暇潰しにイカの塗装ゲームに熱中している。三人の中では多少やり込んでいる紅美が一番強いのだが。
「ま、私の相手にはならないわね」
「サ、サーチが強すぎるのよ! バケツ持たせたらほぼ無敵じゃない!」
「だからハンデでバケツは封印してるでしょ? 悔しかったらこれくらいゲットしてみなさい」
私はとある優勝カップを見せつける。
「なっ!? そ、それはワールドチャンピオンシップの優勝カップ!? サ、サーチ、何者!?」
「んっふっふ……ななしあさしん」
「げええっ!? か、勝てるわけないじゃない!」
一応今年の覇者です。南米に行ったときに、寄り道してサクッと優勝してきました。
「おーっほっほっほ、あんたも私のむす……い、従姉妹なら優勝くらいはしてもらわないとね〜?」
「むっきぃぃぃ! だったら私がブッ倒してやるわ! 一応紅色小町って言えば、上海辺りじゃ有名だったんだからね!」
「おーっほっほっほ、一都市だけ? 私はワールドクラスよぉ?」
「むっきぃぃぃ! 返り討ちにしてやるぅぅ!」
「……ナイア、リジー、そんなに楽しいモノなのですか?」
「「楽しい」ですわ」
私が紅美をけちょんけちょんにしてる後ろで、ヴィーがナイアとリジーから操作方法を習う。
「……成程。でしたら私は筆でやります」
「え? ホウキではありませんの?」
紅美のプライドがズタズタになってる頃、ヴィーが準備万端になったようで。
「サーチ、今度は私がお相手します」
「え、ヴィーが? 大丈夫なの?」
「多分ですが。どうかよろしくお願いします」
「……手加減できないからね?」
……今度は私がプライドをズタズタにされる番だった。な、何者なのよ、ヴィーは……。
なぜかスーパー台風クラスの爆弾低気圧の大量発生によって、年内の出国はキビしい状態になってきた。
「おかしいわね……異常気象とはいえ、あまりにも異常すぎる」
「珍しい事ですの?」
「東京に雪が積もることすら珍しいのに、50㎝超えとなると……」
東京は完全にマヒ状態だ。食料は買い溜めしてるから大丈夫だけど、他は大混乱らしい。
「……まさか……≪万有法則≫の?」
「え? コトノハって何?」
くっ! こういうときばっか目敏いんだから!
「≪強制睡眠≫」
バタッ
「グー……スー……」
「さ、さんきゅ、ヴィー」
「気を付けてくださいね」
す、すいません……。
「そ、それより、サーチはこの雪も人為的なモノだと言いたいんですの!?」
「そうとしか思えないわ。あまりにもタイミングがよすぎる」
ちょうど私達がバベルの塔に行こうとした、まさにこのタイミングで。
「……バベルの塔にはよっぽど見られちゃ困るモノがあるようね」
「そうなりますと……≪万有法則≫の核心部分が?」
そういうことね。
「だったら意地でも行くしかないと思われ」
「「「どうやって?」」」
「え…………い、意地と根性?」
「そうやって言うんならリジーが行きなさい! そういう根性論がパワハラの元なのよ!」
「わかった」
「だいたいあんたはいつもいつも…………って、あれ? リジーは?」
「出掛けましたよ」
……ホントに……行ったんじゃないわよね?
「……ま、いいか。でも何かいい方法ないかな〜……ソレイユがいれば転移してもらうんだけど」
「…………あ、転移ですか。その方法がありましたね」
「……あのね、ヴィー。ソレイユがいない以上、そう簡単には「私はできますよ」……はい?」
ヴィーさん、今何か爆弾発言しませんでしたか?
「ですから、私は転移聖術を使えますよ?」
……………………へ?
「い、いつからできるようになったの?」
「政治活動の傍らで、聖術も修行してましたから」
「で、できるなら早く言ええええええええっ!!」
今までの飛行機代、いくらかかってると思ってるのよ!!
「ちょ、ちょっと待ってください。私ができる転移は一人だけ、しかも一週間くらいのクールタイムが必要です」
「え!? そ、それってヴィー自身も?」
「はい。しかも転移を行ったすぐは立つ事すらままなりません。転移先にモンスターがいたら一巻の終わりですね」
……むむ……となると。
「一人が転移したら、次は一週間後しか来ないってこと?」
「あくまで順調にいって、ですが」
……仕方ない。
「ヴィー、私をテヘランまで送れない?」
「サーチをですか!?」
「とりあえず私が先行して、情報収集してみる。あとはヴィーのペースでリジーとナイアを送ってくれればいい」
「お待ちなさいな。ワタクシはホウキで行きますわ」
そう、ホウキで……ホウキで!?
「か、かなり距離あるわよ?」
「高速飛行すればヴィーさんの回復を待つより早く着きますわ」
「…………ナイア、大丈夫なのね?」
「サーチも無茶をなさるのでしょう? ならワタクシも多少の無茶はしますわ」
「……わかったわ。ナイア、お願いね」
「任されましたわ」
そう言うとナイアは部屋から出ていった。旅の準備をするのだろう。
「あ、ヴィーは今回は留守番ね。完全な状態とは言えなくなるだろうし、紅美を誤魔化してほしいし」
「そう……ですね。行っても足手まといにしかなりませんし……今回はサポートに専念します」
「オーケー! あとはリジーの転移は任せるわ」
そして、次の日。
「それじゃあワタクシは行きますわね」
「気をつけてね」
「サーチもですわ」
ナイアが空に飛び立ったあとで。
「ではいきますよ…………空間を飛び越えよ! ≪片道転移≫!」
……私は空間を越えた。
ル○ラほど気軽じゃない。




