第二話 ていうか、ジッグラトを調べていたら、そこまでの延長線上にはドバイが!!
一週間ほどかけて、バベルの塔の情報収集をがんばったんだけど、それらしい情報が入ってこない。
「……ネットでも異世界人の殺人事件の話題はあがってませんね」
情報屋巡りをしている間にヴィーにネットの検索を頼んでおいたんだけど、結果は芳しくなかった。
「こうなったらいっそのこと、現地で情報を集めた方が宜しいんじゃなくて?」
「その『現地』が特定できないから困ってるんじゃない。ジッグラトを中心に調べてるのが間違いなのかしら……」
「サーチ姉、ジッグラトって?」
「ジッグラトってのは……って、あんた達は何をしてるのかしら?」
「え? ホウキ磨きですわ」
「え? 呪われアイテム観賞」
「サーチ! ナイアとリジーは何とかならない!? 朝から妙な事に集中して、何も手伝ってくれないんだけど!」
エプロン姿でハタキを持った紅美が怒鳴る。もうすぐ新年ということもあって、紅美は昨日から大掃除をしている。二人にはそれを手伝うように言っておいたのだが……。
「……ナイア、そのホウキは床を掃くためにあるんだけど、今すぐに実行してもらえないかしら?」
「な!? サーチはワタクシの相棒を馬鹿にするんですの!?」
ホウキを相棒呼ばわりするナイアを見て、おもいっきり紅美がドン引きする。
「ナ、ナイアって特殊な趣味をお持ちのようで……」
「特殊な趣味とは何ですか! このホウキは月の魔おごふっ!?」
危ない危ない。魔女と言いかけたナイアの鳩尾に拳がめり込んだ。
「……ナイア。言動には気をつけましょうね」
「そうだそうだナイア姉」
「……リジー、あんたも呪われアイテムとか言ってたわよ?」
「そそそそうだっ?」
「だから同罪」
「うぐぉっふぅ!?」
……二人はお昼ご飯返上で窓拭きの刑になった。
「それで、何でサーチは架空の建物に熱あげてるわけ?」
「え…………」
し、しまった。よくよく考えてみれば、私も十分に変な人だわ。
「か、確率はゼロに近いだろうけど、バベルの塔の実在説もあるでしょ?」
「へ? あれってジッグラトがモデルになってるのが定説でしょ?」
「うっ! ……わ、わかんないじゃない!」
「……ま、ロマンを追いかけるのもいいけど、程々にね」
そう言って紅美は自分の食器を下げていった。
「……私達はそういう意味じゃ、毎日がロマンなんだろうな……」
元の世界なんてロマンの固まりだったからね。
「ああ、またですか」
……ん?
「ヴィー、またって、何かあったの?」
「いえ、ジッグラトを中心に調べていると、何故か頻繁に竜巻の発生している事がわかりまして」
「竜巻ぐらいよくあるんじゃない?」
「全てジッグラトの半径5㎞以内ですよ?」
「……え?」
ジッグラトから伸びる竜巻……あれも天まで伸びて……ま、まさか!?
「ヴィー、この場合のバベルの塔って、まさか竜巻のことなんじゃない!?」
「た、竜巻が!? ま、まさか……」
「竜巻なんてまさに天に届く塔みたいなもんじゃない。昔の人からしたら、神秘以外の何モノでもないわ」
「……それに竜巻の周りでは雷雨が起きやすいわよ」
紅美?
「近くで起きた雷によって竜巻が消えた。そう捉えた人がいても不思議じゃないでしょ。実際に竜巻こそがバベルの塔のモデルだって言う学者もいるらしいし」
……あり得なくはない。バベルの塔は落雷によって崩れたらしいから……。
「サ、サーチ、もしかしてなのですが……」
「何?」
「今調べてみたのですが、竜巻に巻き込まれて死亡した人の中に、かなりの率で身元不明の遺体が混じっていたそうです。損壊が酷いらしいですが、中には人間ではあり得ない骨格の遺体も混じっているとか」
ビンゴだああ!
「ヴィー、そのジッグラトはどこにあるの!?」
「え? えっと……イランですね。スーサという場所から近いみたいです」
イランかぁ。入国するのは難しかったっけ?
「とりあえずイラン行きのチケットは取れない?」
「調べてあります。現在はテヘランまでの直行便はありませんので、イスタンブールやドバイから……」
ドバイ!?
「ドバイ? ドバイから行けるの!?」
「は、はい、ドバイからも行けます」
「紅美、ドバイよ!」
「ええ、ドバイだわ!」
「あ、あの……?」
理解できないヴィーが首を捻り、パソコンに何か打ち込む。たぶんドバイを検索してるんだろう。
「……な、何と! 素晴らしい都市じゃありませんか!」
「ヴィーもそう思うでしょ! すぐに準備を始めるわよ!」
「はい! すぐにドバイ行きのチケットを取ります!」
「帰ってきたばっかだけど、もう一回カバンを積め直さなきゃ!」
「ら〜らら〜♪ 新しい水着買っちゃお〜かな〜♪♪」
私と紅美でウキウキしてるときに、ボロボロの雑巾を握ったナイアとリジーが戻ってきた。
「終わったと思われ…………何か良い事があった?」
「あ、お疲れ様。悪いけどお昼ご飯食べたらすぐにカバンを積め直して」
「積め直すって……も、もうバベルの塔に向かうんですの!?」
「そうなんですけど、少し寄り道します。プリントアウトしますね」
やがてプリンターから出てきたドバイ情報に目を通したナイアは、ご飯も食べずに自分の部屋へすっ飛んでいった。
「ちょ、ちょっと、ご飯を先に食べてよ!」
洗い物当番は私なんだからね! 早く片づけて、私も準備しなくちゃならないんだから!
「……おー、カジノ」
「カジノあるけど……リジーはカジノの方がいいの?」
「……フッフッフ。資金を何倍にもしてみせますぜ」
怪しさ爆発だな。絶対にリジーはカジノには連れていかないほうがいいか。
次の日。準備万端、チケットも人数分入手。
「さあ、中東の楽園が私達を待っているわよー!」
「「「「おー!」」」」
喜び勇んで成田空港へ向かった。
が。
「……………………欠航?」
「はい。ご存知の通り、大規模なクリスマス寒波が到来していまして……」
この辺りも昼には雪が降りだすらしい。
「い、いつ頃飛べそうなの!?」
「まっっったく見通しが立っておりません。天気次第ですが、年内は難しいかもしれません」
ちょうど年末の出国ラッシュとカブってしまい、大変な混雑だそうだ。
「昼から雪が降るくらいだから、間違いなく大荒れよね…………ん? 昼から大荒れ?」
ヤ、ヤバい。このままだと……!
「急いで撤収!」
「「「「……へ?」」」」
「早くしないと交通機関がマヒしかねない! 東京は雪が積もったら大変なことになるのよ!」
間一髪で拠点ビルに戻れたのは幸いだったけど、ただいま東京は絶賛機能停止中だ。
「ド、ドバイが……」
「常春の楽園が……」
「輝く青い海が……」
「カ、カジノが……」
「ガマンしなさい」
コタツに潜ってミカンの皮を剥きながら、みんなを諭した。
私もドバイいきたい。