第十五話 ていうか、マジな話らしいです……あのマーシャンが。
題名とおりマジな話です。
誤解その二。これもすぐ解けた。
「……なんでワシがこんなダンジョンを攻略しなくちゃならんのじゃ?」
あー……エイミアの理想が儚く崩れていく……。
「それじゃあ何で闇深き森に来たんですか!?」
「お主らが心配じゃったから、怪我を押してまで来たんじゃよ!」
ホントかよ。
「それじゃあ……私達の名前を連呼してたのは、モンスターを自分に惹き付けようとしてくれてたんですね……」
絶対違うよ。
「はあ? ワシが? お主らがおらんと寂し……じゃなくモンスターが手強かったからに決まっておろう!」
んじゃ来るなよ。
「ていうか、まっったく救いようがない……」
「なんでじゃ!」
「どうせドサクサに紛れてエイミアにセクハラじみたことするつもりだったんでしょ!?」
「な! なな何のこ事やら……」
動揺しすぎだよ!
「マーシャン……そうなんですか……?」
「いやいやそんな事は無い……のじゃ!」
あ。エイミアの目が据わってる。
「エイミア! ある程度は構わないけどさっきのヤツはダメよ!」
あれだと私達まで吹っ飛ばされるからね。
「何じゃ、そのある程度とは! エイミアを煽るでない!」
「わかりました。ある程度でいきます」
「うわダメじゃーーー!!」
エイミアはマーシャンに近づき……。
「や、止めい! 止めるの……うぶっ」
……抱きしめた。
「……ほ? ……おほ♪」
柔らかい感触を堪能しているマーシャンに。
「ん? ……あばばばばばばばばばばばばば!!」
静電気が襲った。
「さあマーシャン……逃がしませんから!」
「あばばばば! か、堪忍しでででででででででぃぃ!」
……またエイミアの必殺技が開眼したわね……。
「た〜の〜む〜か〜ら〜……お〜ろ〜し〜て〜……」
逆さ吊りにされてるマーシャンが呻く。
「……怖いから黙ってて下さい、マーシャン」
「……まあ……自業自得よね……」
「ほんっとによー……何のために闇深き森来たんだよ……」
「もうマーシャンのことなんか知りません!」
……。
「ねえ、この後はどうします?」
「……ここって勇者の手掛かりあるんだよな?」
……よし。
「たぶんあるはずだから……時間も限られてるし……手分けして探そ?」
「……まあ構わないけどよ……」
「じゃあリルとエイミアで森の外周をお願いできる?」
「わかりました……でもサーチは?」
「私はマーシャンと探すわ」
「え!? マーシャンとですか? 大丈夫ですか?」
……マーシャン……エイミアからの信用0になってるわよ……。
「じゃあエイミアがマーシャンと回る?」
エイミアは激しく激しく首をブンブン振った。
……あ、マーシャン泣いてる。
「じゃ、そういうことで! 解散!」
「え? でも」
「……いいから行くぜエイミア」
……リルが意味ありげに視線を私に向けてから、エイミアを伴って去っていった。
「…………」
行ったわね……さて。
「マーシャン。お話があります」
「……ここがワシの夫が眠る樹じゃよ」
あれから、マーシャンに連れられて森の奥地に入っていくと、そこにはかなり昔に滅んだのであろう遺跡があった。
「ねえマーシャン。私にはわかってるからさ。普通に喋りなよ」
「……いや……全てが演技では無い……しかしいつから妾のことに気づいておったのじゃ?」
「……ハイエルフだって言ったときから……」
そうなのだ。
この遺跡が示すとおり、ハイエルフはとっくに滅んだ種族なのだ。
……もはや数えきれない時を生き続ける女王を除いて。
「何とのう……そこまで事情を知るそなたとて……普通ではあるまい」
さっすがハイエルフの女王……気づいてたか。
「私が知ってるのは……私の育ての親みたいな人があなたの元相棒だから」
「“飛剣”かえ……懐かしや……」
「聞きたいことはいっぱいあるわ。いいの?」
「良かろう。何でも聞くがよい」
「なぜこの森は突然ダンジョンに……?」
「それについては些か齟齬があるの。突然にダンジョン化することなど有り得ぬ」
「……つまり時間は掛かっていると?」
「それも違う。時間を掛けて準備したのじゃ」
え? それってつまり。
「……マーシャンが……?」
「……そうじゃ」
……ということは。
人為的にダンジョンが作れると!?
「そんな……ダンジョンを作れるのは」
「魔王だけではない、という事じゃな」
「……なぜ?」
「……元々数の少なかったハイエルフは、男子の誕生率の大幅な低下によって……滅亡するのは時間の問題となっておった……」
「他の種族との」
「混血じゃろ? 存在しておるよ。サーチ、そなたもよく知っておる種族がそうじゃ」
よく知ってる種族?
……まさか。
「普通の……エルフが?」
「そのとおりじゃ。エルフとは我らハイエルフと人間との混血種なのじゃよ。古き事柄故に知る者も最早少ないがな」
そ、そうなんだ……。
「話を戻そう。生き残ったハイエルフは人間と通ずるを良しとせず……男と生涯交わることなく皆死んでいった……」
……。
「死んだハイエルフの亡骸はやがて芽吹き、樹へと姿を変える……この森はただの森ではない……ハイエルフの墓標なのじゃ」
……つまり……同胞の墓を守るために……。
「妾はダンジョンを作った張本人じゃからこの森の守護者に襲われることはないのじゃが……中々の演技じゃったろ? そなたもわかっておったから守護者に止めを刺さなかったのじゃな」
そこまでお見通しか。
「それにしても……どうしてマーシャンだけ生き続けられるの? ハイエルフだって寿命は……」
「これ」
ぽかりっ
「いたっ」
「いくらそなたが女子とはいえ、聞いて良い事ばかりでないぞ。特に妙齢の女性に歳の話は論外よな」
妙齢って……。
「……まあいつかは話せる時も来よう……」
このことに関しては触れてほしくないみたいなので話題を変える。
「じゃあもう一つ。これは質問というより確認ね」
「まあ想像はつく……エイミアのことじゃろ?」
「それが私達に近づいた理由……よね?」
マーシャンは目を閉じた。
「……そうじゃ」
……となると……やっぱり。
堕つる滝で勇者の墓所で起きた宝石の色の変化。
滝の真竜が異常にエイミアに興味を示したこと。
そして。
「エイミアはワイバーンと念による会話ができる……つまり≪竜の絆≫を獲得してるはず」
……古来より≪竜の絆≫を持つ者は一人だけ。それは世界でただ一人、竜を従える資格を持つ者。
「エイミアは……勇者なのね」
「……そうじゃ」