第二十一話 ていうか、ピラミッドから脱出したあと、いろいろと辻褄合わせ。
「紅美は?」
「まだ寝ています」
ホントによく寝るな! まあ、気絶させた私が言うのもアレだけど。
「……逆にちょうどいいわ。紅美には私達は大学生ってことで通してるから、リジーもあとから合流した同じ学科の大学生ってことにしとく」
「らじあ。だけど三つ質問」
「……何?」
「ひとーつ。ダイガクセイって何?」
「あ、知らないか。この世界の学校の一種で、かなり専門的なことを学ぶことが多いかな。ちなみに私達は考古学を学んでることにしてる」
「大体は理解した。ふたーつ、私にはこの世界の言葉がわからない」
「……私がマンツーマンでビシバシビシと教える。英語はマスターしてもらうわよ」
「ビシバシビシお願い。さて、みっーつ。そもそもコーミって誰?」
…………あ。
「……知らなかったのか……」
ていうか、知るわけないよね。一から説明するしかないのか……。
「えーっとね……一言で言っちゃえば……私の娘」
「へ〜……………………へ?」
「私の娘」
「……誰が?」
「紅美が」
「……誰の?」
「私の」
「……いつ?」
「前世で」
「あー、成程………………ええええええええええええええ!!?」
……このあと、リジーの言語道断なリアクションによって、砂漠に大規模なクレーターができたことだけ明記しておく。え? クレーターができるリアクションって何だって? 私が聞きたいわよっ。
「な、何!? 何が起きたの!?」
今の爆発音によって、さすがに紅美も飛び起きた。
「あ、えーっと……ダ、ダイナマイトよ! ちょっとダイナマイトで砂漠を削ったのよ!」
「そう、ダイナマイトで…………ダイナマイトぉ!?」
「そ、そうそうそう。サ、サソリがいたから……つい、ね」
「は、はあああっ!? サソリ相手にダイナマイトって……危ないじゃないの!」
「仰る通りです。大変申し訳ありませんでした。私がどうしてもサソリが苦手なものでして」
ヴィ、ヴィー、ナイスフォロー!
「ワタクシ、爆発物には大変詳しいんですの。ですから手持ちのダイナマイトがあったのですわ」
ナイアもナイスフォロー! かなりムリがあるけど。
「爆発物に詳しくて……手持ちのダイナマイト……ま、まさかナイアってテロリストなんじゃ?」
「違いますわっ! 爆薬で解決を図ろうとする野蛮人と同じにしないでくださいまし!」
いやいや、ナイアが言うな。ていうか爆薬を仕事で活用なさってる皆さんに謝れ。
「……暴力で解決を図るって、まるでサーチ姉みたいおぐぅっほ!?」
「悪かったわね! 確かにテロリストに似たような仕事したこともあるけど、あんたに言われたくないっつーの!」
頭にきたからスコーピオン・デスロック!
「んんぃぃぃぎぃあああああああ!」
「おらおらおら! サソリの本場でサソリ固め食らう気分はどうよ!?」
「いだいいだいいだいいだいギブギブギブギブギブギブギブ!」
「何をブギブギ言ってるのかしら〜? もっとドギツい角度までいってやるわ!」
ごきん
……ん?
「ぶくぶくぶく……」
あ、やべ。
「……ヴィ、ヴィー、ちょっとやり過ぎちゃったみたいでさ、外れたらマズい場所が外れちゃったみたい……」
「リ、リジー!? リジー!?」
げ、ヴィーが焦ってる。
「……っ……サーチ、聖術じゃないと難しいので……紅美を」
オーケイ、わかったわ!
「紅美、ごめん!」
「え? ぐふぉ!?」
突然のクロスチョップ……からのフランケンシュタイナー!
ドズボッ!
ばたばたばた!
「よし、砂漠に突き刺して視覚と聴覚は封じたわ!」
「で、では今のうちに≪完全回復≫!」
……徐々に反対側に曲がっていたリジーの身体が元に戻っていく。ほっ。
「助かったわヴィー! さすがは便利屋!」
「……サーチ、何故か殴りたい衝動に駆られているのですが……?」
じょ、冗談よ冗談。
「あの〜……サーチ。コーミの足が動かなくなりましたよ?」
あああっ! こっちもこっちでヤバかった!
「けほっ! ごほごほごほ!」
「ごめんごめん。急にプロレス技がかけたくなってさ」
かなりムリな言い訳だけど気にしないでください。紅美が目やら鼻やら口やらに入った砂を取っている隙に、再び便利屋に働いてもらってクレーターを埋める。
「けほ……こ、今度やったら義母さんに言いつけてやるんだから!」
やめて。ホンニャン怒らすと怖いから。
「そ、それよりクレーターが……あれ?」
よし、ギリでヴィーの作業完了。
「クレーターが無くなってる?」
「クレーター? 何のことかしら?」
「え、だって、私が目が覚めたのも、サーチがダイナマイトを爆発されたからでしょ?」
「はあ? ダイナマイト?」
私はわざとらしく両手を広げて肩をすくめた。
「何で砂漠の真ん中でダイナマイトを? ていうか、ダイナマイトなんて持ってるわけないじゃない」
「え、えええ!? だってだって、ナイアはテロリストで、ダイナマイトをいっぱい持ってるって!」
かなり脚色されてるな!
「誰がテロリストですって!? ワタクシはダイナマイトなんて一つも持ってませんわよ!」
「え? で、でも爆発が……? クレーターが……??」
よしよし、いい具合に混乱してる。
「紅美、かなりの強行軍でここまで来たから、疲れが出たんじゃない? ずっと眠りっぱなしだったわよ?」
「そ、そうか、疲れか……」
首をひねりながらも、何とか納得してくれた。よかったよかった。
「あ、それとだけどさ、私達の大学の仲間が到着したから紹介するね。リジーよ」
「は、はろお。でぃすいずあぺん?」
「はあ?」
「あはは、この娘は英語を特訓中でね。普段は……ロシア語しかしゃべれないのよ」
「あ、ロシアの方なんだ。えーっと……ぺろすとろーいか、ぼるしちー?」
「おう! ぺろすとろーいか、ぼるしちー!」
あかん。この二人、同レベルだ。
「私達の住んでるとこに引っ越してくるから、紅美も仲良くしてやって」
「いえー、ぴろしきー!」
「いえいえー、ぴろしきー!」
……まあいいか。
「……それよりさ、サーチ」
「ん? 何?」
「何でビキニアーマーのコスプレしてんの? リジーも何か中世の騎士っぽい格好だし」
「…………あ」
誤魔化すのにさらに多くの時間を要した。
紅美も災難キャラ。