第二十話 ていうか、ピラミッドダンジョンをクリアして石板ゲットだぜ!
「あ、そうだ。石板を回収しなくちゃ」
「石板?」
「ええ。こっちの世界のあちこちに≪万有法則≫のことが書かれた石板があってね、それを集めてるのよ」
「へえ〜」
「……リジー、言っとくけど呪われてないからね」
「……ちぇ」
何を期待してるのよ、何を。
「なら守護神がいる? 今宵の介錯の妖刀は血を欲す」
怖いな!
「……ま、斬ってもいいけどさ、これだよ」
私が持っているのは、ウネウネと動くちっちゃい虫だった。
「な、何それ?」
「名前はわかんないけど、殴ったマーシャンの口から出てきたわ。他の冒険者も口から吐いたから、マーシャンを操ってた張本人だと思う」
マーシャンから出てきたヤツは一回り大きかったから、たぶんこれが守護神。
「他の冒険者は魔術やスキルを一切使わなかった。この守護神だけが、操った人間の魔術やスキルを自由にできるんだわ」
「だからマーシャン手強かった」
「そうね。だからエカテルに犠牲になってもらったんだけど」
じゃなきゃ結構苦戦したと思う。ていうか、実際にリジーとエイミアが瀕死の状態にされたし。
「……そういえば聞いてなかったわ。何でこっちの世界に残ったのよ、リジーは」
「私は立ち位置が悪かったから」
「……あのね、わざわざ空間の亀裂の範囲内から出てきたの、私はしっかりと見てたんだからね」
「ぎくっ。どきっ。がびーーん」
「……普通は口で言うことじゃないんだけど」
「うむむ……」
「はい、ホントのことを白状しなさい。あんたのことだから、必ず裏があるわよね」
「むむむ……わかった、本当の事を言う。サーチ姉が心配だったから」
「へ?」
「サーチ姉に会いたかったから。サーチ姉と話したかったから。サーチ姉を抱きしめたかったから。サーチ姉と【ぴー】したかったから」
「……リジー……実はこちらの呪われアイテムが気になったから?」
「ひゃう!! そそそそんなことないひょう!」
めっちゃ動揺してるじゃん!
「どうせそんなことだろうと思ってたわ。私にはその系統の冗談は通用しないわよ」
「うむむ……」
「まあ一千万年くらい修行してからチャレンジしなさいな」
「一千万年は長いと思われ」
だいたい無表情で棒読みじゃ、誰も信用しないっつーの。お、台の上に何か発見。
「……あ、これが石板か。リジー、見つけたから脱出するわよー」
「……少しだけ本気だったのに」
「んー? 何か言ったー?」
「何でもない」
「じゃあさっさと脱出…………あら? 何かしらこれ?」
石板が置いてあった台に、一緒に指輪が置かれていた。かなり大玉のピンクダイヤだ。
「ん〜……何かイヤな予感しかしないわね」
「サーチ姉?」
「あ、リジー。これって呪われアイテム?」
「んん? ……………………これは……まさか」
リジーが珍しく小難しい顔をしている。
「…………サーチ姉、これは処分した方がいい」
「処分って……ポイ?」
「いや、違う空間に封印するレベルで」
「そんなにヤバいヤツなの!?」
「想像もつかない強大な呪いが、祝福によって封印されてる。これは人間がどうにかしていい代物じゃない」
呪いオタクのリジーが言うんだからよっぽどね。
「……わかった。ナイアに頼んで、≪ゴミ箱≫で捨ててもらいましょ。あれは別の空間に捨てる魔術だから」
「それならいいと思われ」
「さて、今度こそ脱出……ん?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「……ん? な、何ごと? 地震?」
「まさか……攻略したら崩れるパターン?」
「…………いや、違うわ。この震動はどっちかって言うと……外壁を削っている系の……」
内部が崩落してるような震動じゃない。
ゴゴゴゴゴゴ……ガガガガガガ!
『サアアアアアチイイイイイ!!』
「……サーチ姉、気のせいじゃなければ、ヴィー姉の雄叫びと思われ」
うん、間違いない。
ガガガガガガガガガガガガ! ばっかあああん!
「サアアアアアチイイイイイ!」
うん、ヴィー。自分の奥さんの名前を叫ぶ筋肉芸人と同じレベルだから……止めてください、ぜひ。
「サーチ! 良かったですぅぅ!」
「わ、わかったから! 折れる折れる!」
背骨がメキメキいってる! ヤバいヤバいぃぃ!
「ヴィー姉、≪怪力≫でハグは即死レベル」
「え? あ、すみません! サーチ大丈夫ですか?」
「う、うん……最近エイミアだけじゃなく、ヴィーも暴走キャラになってきたわね……」
「ぼ、暴走キャラだなんて! それはあんまりです!」
「……普通は蛇をフル回転させて穴を掘り進めたりはしないわよ」
どうやら蛇をくねらせてドリルにしてたらしい。おかげでヴィーの頭の蛇は、土だらけでヨレヨレだ。
「う! そ、それは……」
「ヴィーさん、まずは頭の蛇を綺麗になさいませ。蛇は女の命ですわよ?」
「そう……ですね。では少し失礼します」
そう言ってこの場を離れるヴィーを見送ってから、ナイアは私に微笑みかけた。
「サーチ、ヴィーは必死で貴方を助けようとした点はわかってください」
「わかってるわよ」
そんなヴィーだから好きなのよ。
「それと……リジーさん、お久しぶりですわね」
「うい! 助けにきたまどむわぜる?」
「……?」
「ナイア、リジーはこういう子だから、あまり深く考えないで。要は助けに来てくれた、でいいのよ」
「はあ……」
「ナイア姉よろ!」
「よ、よろ? よろ」
「よろ? よろよーろ!」
「…………??」
「……中途半端に返事するからいけないのよ……」
リジーとナイアのバカな掛け合いに付き合ってる間に、ヴィーが蛇をツヤツヤにして戻ってきた。どうやら脱皮してきたらしい。
「サーチ、何か異様な気配を感じるのですが、妙なモノをお持ちのようですね?」
「……ああ、忘れてた。ナイア、この指輪を≪ゴミ箱≫に捨ててほしいのよ」
「何度も言いますが≪ゴミ箱≫ではありませんわ! 全く、何回言ったらブツブツブツ!」
いいじゃない、正式名称忘れちゃったし。
「……何なんですか、その指輪?」
ヴィーが手に取ろうとする……が。
「駄目! ヴィー姉が触ると危険!」
「きゃ!?」
半ば突き飛ばすような勢いで、リジーがヴィーを制止した。
「この指輪には強力な呪いと共に、封印の為の祝福が施されている。モンスターのヴィー姉が触るのは危険」
「しゅ、祝福ですか!? それは流石に……」
祝福の種類によっては、モンスターには害となり得る。リジーがここまで反応する以上は致命的なモノにもなりかねない。
「だからナイア、すぐにでも処分してほしいんだけど」
「……わかりました。空間の彼方へと廃棄しましょう」
指輪を受け取ったナイアは、早速≪ゴミ箱≫を開いて中へ放り込んだ。
「……これで指輪を取り出すのは不可能ですわ。例え、神であったとしても」
私とリジーは胸を撫で下ろした。
この指輪、マジで曰く付き。